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【米株は買い場到来?ドル円も下落余地は限定的か】2020年9月9日号

雨夜 恒一郎氏ウィークリーコメント FXレポート

一週間のハイライト(9月2日~8日)

予想通り、安倍首相の辞任報道を受けた株安・円高は続かず、ドル円相場は106円台を回復し、木曜日には一時106.55円まで上昇しました。

しかし米国株式市場ではIT・ハイテク株中心に突然売りが強まり、1万2千ポイントまで上昇していたナスダック総合指数は1万800ポイント台まで急落、NYダウも2万9千ドル台から2万7千ドル台まで下落しました。

為替市場ではリスクオフの「ドル高・円高」となりましたが、ドル円もさすがに上値が重くなり、105.85円近辺まで下押ししました。

米国株はバブルなのか

現在、市場の最大の関心と言えば、「今回の米国株の下落は大きな調整の始まりなのか、あるいは単なるガス抜き調整で済むのか」・・・この一点に尽きるのではないでしょうか。

下のチャートは米国プラットフォーマー大手、いわゆるGAFAの株価です。

基本的にここ数年右肩上がりで上昇していますが、ことに3月のコロナショック以降の上がり方はすさまじく、これだけを見ると確かに「買われ過ぎ」「バブル」と言われても仕方ないかもしれません。

バリュエーション面からみても、ナスダックの割高は1999~2000年のITバブルの時以上らしく、予想PERなどの数字を操る専門家ほどさかんにバブルの崩壊を警告しています。

日本のソフトバンクグループがIT個別株のコールオプション(買う権利)を大量に買ったことが過熱につながったとの見方もあります。

オプション取引はレバレッジが高いので、これらの株価上昇に拍車をかけた可能性がある一方、下落時にはその巻き戻しが雪崩のように起きる可能性もあり、不気味な情報です。

バブルではないと考える理由

しかし筆者は(株が専門ではありませんが)、この米国株高はバブルとは考えていませんし、今回の下落も弱気局面の始まりではなく、小規模なポジション調整の範囲内で終わると見ています。

その理由は三つ。

第一に、コロナショック以降の株高の本質は、コロナを前提とした新常態・ニューノーマルの構築であり、今の世の中、大げさに言えば産業革命に匹敵する大変革が起こっているということです。

しかも通常であれば数年から10年かかるようなライフスタイルの変化やスクラップアンドビルド、新旧プレーヤーの交代が、わずか1年で行われます。

変化の胎動であり、相場の息吹であり、これを市場が見逃すはずがありません。

これまでとは全く異なる新しい秩序なので、過去の経験則や投資尺度は通用しませんし、株価の割高を示す指標もほとんど意味をなさないでしょう。

第二に、米国経済は柔軟で多様性があり、ウィズコロナ、アフターコロナの新常態・二極化の中でも成長していく力があるということです。

先週金曜日に発表された8月の米国雇用統計は、非農業部門雇用者数が137.1万人増と予想(135万人増)とほぼ一致。失業率は8.4%と前回の10.2%から大幅に改善し、予想の9.8%も下回りました。

失業率が10%を下回るのは5か月ぶりです。

非農業部門雇用者数の推移を見て、労働市場の回復ペースは減速していると指摘する向きもありますが、コロナ禍の最悪期から見れば間違いなく回復は続いていますし、控えめに言っても月に100万人以上の雇用が増えるというのはすごいことです。

米国第2四半期のGDPは前期比年率でマイナス32.9%と過去最大の落ち込みとなりましたが、第3四半期はそのほとんどを取り戻す回復となる見通しです。

アトランタ連銀が算出するリアルタイム予想「GDPナウ」は9月10日時点でプラス29.6%となっており、しかもこの予想は徐々に上方修正されています。

第三に、FRBが2%超のインフレを容認し、より長期的な金融緩和にコミットしたことで、投資家の安心感が高まっているということです。

ゼロ金利があと2~3年続くということ自体は株式市場にとってもちろん追い風ですし、それによってインフレ期待が出てくれば、それも株式市場にプラスです。

主要国で金利というものがほとんど消失してしまった今、株を売っても代わりに買うべき資産はなく、投資資金はまた株式市場に戻っていきます。

米国株は買い場到来

米国株式市場は現在比較的大きな下落に見舞われていますが、これが強気相場の終焉でもバブルの崩壊でもなく、スピード調整の範囲内だとすれば、中期的に見た「買い場到来」ということになります。

11月の大統領選挙に向けた不透明感などもあり、もう少し下げる可能性もありますが、株式市場の恐怖指数といわれるVIX指数を見てみると、これで調整完了でもおかしくない気もします。

3月以降の株価上昇局面のなかで、6月にも中規模の調整(NYダウが3000ドル強下落)がありましたが、今のVIXの水準はその時よりもずっと低水準です。

今回、NYダウが高値から約2000ドル下げて調整完了なら、すっと腑に落ちる動きだと思います。

NYダウ6月の調整は約3000ドル、1週間で終了

VIX指数は44まで上昇後、沈静化

ユーロドル下落でドル高も

今週は9月10日(木曜日)に開催されるECB理事会が注目材料。

主要な金融政策は据え置きの見通しですが、理事会後のラガルド総裁の記者会見でユーロ高をけん制する発言が出る可能性があるからです。

ユーロドルは先週2年3か月ぶりに節目の1.20ドル台をつけたあと、利益確定の売りで1.17ドル台へ反落していますが、「ECB理事会がユーロ高を懸念している」との見方も影響したといわれています。

ラガルド総裁の発言次第では、ユーロドルは当面調整局面に入る可能性がありますし、そうでなくとも、英国とユーロ圏の通商協議難航で欧州通貨は売られやすい地合いになっています。

重要なチャートポイントは1.1700ドル付近でしょう。

ユーロドル下落となれば、ドル全体に対する売り圧力が軽減され、ドル円も恩恵を受ける可能性があります。

明日はユーロドル相場の動向にも注目しましょう。

ユーロドルは1.17ドル台を割れると危ない

雨夜恒一郎氏のプロフィール

雨夜恒一郎氏
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから
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