【パウエルFRB議長の講演に注目】2020年5月13日号

雨夜 恒一郎氏ウィークリーコメント FXレポート

一週間のハイライト(5月7日~5月13日)

先週金曜日に発表された米国4月の雇用統計は、非農業部門雇用者数がマイナス2050万人と過去最大の減少となり、失業率は14.7%と戦後最悪の水準へ跳ね上がりました。

しかしすでに発表されていた新規失業保険申請件数やADP雇用統計の結果から、市場もこの程度の悪化は覚悟していたと見えて、ドル売りの反応は一瞬のみ。

むしろ予想(失業率16%、非農業部門雇用者数マイナス2200万人)ほどは悪くなかったとの受け止め方で、その後は106円台後半へと買い戻しが入りました。

週明けは、NY州のクオモ知事が一部地域での経済活動再開の可能性を示したことなどから楽観が強まり、107円を突破し一時107.77円まで上昇しました。

しかし米アレルギー・感染症研究所(NIAID)のファウチ所長が「尚早な経済活動再開は爆発的な感染拡大を再び起こしかねない」と警告したことから、悲観的な見方が再度浮上し、本稿執筆時点(13日午後18時)で107円台を割り込む動きとなっています。

米国経済の試練はこれから

米国雇用統計に関しては、典型的なsell on rumor, buy on fact(噂で売って事実で買う。

いわゆる悪材料出尽くし)の反応でしたが、1か月で全労働者の8分の1が仕事を失うという前代未聞の事態がもたらす影響は計り知れず、「予想ほど悪くなかった」と楽観するべきではありません。

失業率は確かに予想を下回りましたが、コロナ感染が怖くて職探しをしなかった人たちが統計上失業者にカウントされていないことを勘案すると、実質的には20%に達していると指摘する向きもあります。

またシェールオイルや小売りなどコロナで打撃を受けた業界で大型の破綻が相次いでおり、今後も失業率がさらに上昇すると見られています。

失職者のうち約8割が元の職場への復帰を前提とした「一時解雇・帰休」なので、コロナが終息し経済が再開すれば、今回の失職者の多くは職場に戻れるという楽観的な見方もあります。

しかしコロナが終息し経済が正常化するのはいつになるのか誰にもわかりません。

収益が戻らなければ一時解雇から恒久的な解雇になる可能性も十分にあります。決して楽観はできません。

楽観的過ぎる株式市場

米国株式市場はここまで「経済再開」をはやして上昇してきましたが、労働市場や経済の規模が元の水準に戻るには相当かかることは間違いなく、V字型回復期待は甘すぎると言わざるを得ません。

仮にコロナが終息しても、働き方や生活はすぐには元に戻りませんし、むしろ「非接触」やテレワークなどで不可逆的に変化した可能性が高い。

回復は良くてU字型、悪ければL字型になる公算が大きいのです。

すでに米国では140万人以上が感染し、8万人以上が命を落としています。

死者の数は現在も増え続けており、最終的には13~20万人に上るとの予想も出ています。

カリフォルニアなど30を超える州では経済が一部再開されていますが、ここで警戒を緩めれば、感染が再び広がる「第2波」に見舞われる恐れもあります。

ファウチ所長の言う通り、安易な経済再開は危険です。

米4-6月期GDPはマイナス34.9%?

すでに発表されている米1-3月期GDPは前期比年率でマイナス4.8%でしたが、現在進行中の4-6月期はなんと20~30%のマイナスになるとの予想が出ています。

米GDPの最新の予想を知るには、GDPNowというウェブサイトが役に立ちます。

米アトランタ連銀が毎週更新している、ほぼリアルタイムのGDP予想です。

5月8日時点での予想はマイナス34.9%。

これはすでに発表された経済指標だけをベースに算出していますから、今後の指標の落ち込み方次第ではさらにマイナスが大きくなる可能性も排除できません。

出所:アトランタ連銀

FRBはマイナス金利を導入するか?

今週の注目材料は、今夜行われるパウエルFRB議長の講演です。

政策金利であるFF金利誘導目標はすでにゼロ~0.25%と極限まで引き下げられていますが、前例のない景気悪化を受けて、金利市場ではマイナス金利の導入を催促する動きが出ています。

FOMCメンバーからはこれまでのところマイナス金利導入に肯定的な発言は出ていません。

しかしトランプ大統領は昨日、「ほかの国のように米国もマイナス金利という贈り物を受け取るべきだ」とツイートしており、政治的な圧力がかかっているのも事実。

トランプ大統領からのプレッシャーに弱そうな(?)パウエル議長から、マイナス金利導入に少しでも理解を示すような発言が出れば、市場は直ちにそれを織り込みに行くでしょう。

ドルにとっては当然下落圧力です。

米株は二番底を警戒 ドル円は弱気スタンス継続

筆者は、米国経済の本当の試練はこれからであり、経済再開をはやす株式市場の空気は楽観的過ぎると考えています。

市場心理の振り子が再び悲観に振れれば、株価は二番底をつけに行く展開となっても不思議はありません。

景気悪化を食い止めるため巨額の財政支出が行われ、財政は急激に悪化し、FRBのバランスシートは肥大化します。

一方でマイナス金利導入などさらなる金融緩和への期待が高まり、ドルに対する売り圧力は一段と強まるでしょう。

ドル円に対しては弱気スタンスを継続すべきと考えます。

雨夜恒一郎氏のプロフィール

雨夜恒一郎氏
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。
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