一週間のハイライト(11月4日~10日)
米国大統領選挙は予想外の大接戦となり、開票序盤には「勝者が決まらない可能性」を懸念したリスク回避の円買いが先行。
ドル円は一時103.18円と今年3月以来の安値をつけました。
ここまでは筆者の予想通り。
しかし開票が進むにつれてバイデン氏が票を伸ばし、週末にはついに勝利宣言。
これを受けて週明けの市場は株高・米国債利回り上昇とともにドルの全面高となり、ドル円は一気に105.62円まで急騰しました。
大統領選挙をめぐる不透明感が払拭されたとして、株式市場ではNYダウが一時3万ドルの大台に迫る急上昇を見せ、ザラ場の史上最高値を更新。
日経平均も2万5千円を突破し、1991年11月以来29年ぶりの高値を示現しました。
米国で新型コロナウイルスワクチンの開発期待が高まったことも株価を大きく押し上げました。
大統領選挙は決着へ
トランプ陣営はまだ敗北宣言をしていませんが、巨額の費用をかけて選挙に不正があったと訴訟に打って出ても、合理的な証拠がなければ棄却される可能性が高く、周囲は退却を勧めているといわれています。
またトランプ陣営は、今回は敗北を早々に認め、4年後の再出馬を目指すとの憶測もあります。
このままトランプ陣営が引き下がり、バイデン新大統領が誕生するとすれば、警戒していたよりすんなり決着することになり、市場にとっては予想外に早く不透明感が払拭されることを意味します。
一方で、上院議会は共和党が制する可能性が高く、トリプル・ブルー、ブルーウェーブの可能性は後退していることから、株式市場が嫌う増税など「大きな政府路線」は急激に進まないとの見方も出ています。
こうして大統領選挙の早期決着は株式市場にとっては重要イベント無事通過、大きな安心材料となりました。
コロナは新たな局面へ
NYダウは史上最高値圏で推移する一方、コロナで恩恵を受けていたハイテク株が多いナスダックは軟調。
これは新型コロナウイルスに対するワクチン開発期待が一気に高まったことが原因です。
米製薬大手ファイザーがドイツのビオンテックと共同開発中の新型コロナウイルスワクチンの最終治験結果は、感染、発症を防ぐ有効性が90%以上とされ、11月中に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可申請すると報じられました。
ファイザーは、年内に最大5000万回分(2500万人分)、2021年には最大13億回分のワクチンを製造する計画。
このワクチンが安全で有効であることが実証されれば、コロナ禍にもようやく終わりが見えてきます。
また同じく米製薬大手イーライ・リリーが開発した新型コロナウイルス抗体薬の緊急使用許可は、すでにFDAに承認されました。
米モデルナや英アストラゼネカも年内の申請を目指しており、市場は「ワクチン相場」という新たな局面に入った可能性が出てきました。
そもそも株式市場は、コロナ禍や大統領選挙をめぐる不透明感のさなかでも一貫して楽天的で、その時々で都合の良い解釈をひねり出しながら株価を上昇させてきました。
要するに市場が株を買う理由を探している=株価が上に行きたがっていることを暗示しており、コロナバブル崩壊の懸念はどうやら杞憂に終わりそうです。
今後も株式市場は「いいとこどり」をしながら、NYダウ最高値更新・3万ドル突破を目指していくでしょう。
「ドル安・円安」で上値は限られる
では為替市場の今後はどうでしょうか。
個人的には、今週の為替市場の反応は、大統領選決着とワクチン期待が重なって増幅されてしまった感があり、やや行き過ぎと見ています。
国際基軸通貨・準備通貨であるドルは安全通貨であることに変わりはなく、株高によるリスクオン局面では通常売り圧力がかかります。
安全通貨同士のドルと円が並行して売られるため、ドル円はあまり動かないのがこれまでのパターンでした。
今週ドルが独歩高となった一つの理由は、米国債利回りの急上昇ですが、FRBが長期間ゼロ金利を維持すると約束している中で、利回りの上昇が続くかは疑わしく、一過性の動きに終わる可能性もあります。
また先週のFOMCでは、「委員会の目標の達成を妨げる可能性があるリスクが生じた場合、金融政策の姿勢を適切に調整する用意がある」との文言が据え置かれました。
米国でコロナ感染第三波が猛威を振るう中、まさに「委員会の目標の達成を妨げる可能性があるリスク」が生じており、次回12月15-16日の会合で資産購入プログラムを変更する可能性が高まったと言えます。
有望なコロナワクチンが登場したとしても、現在進行中の第三波がすぐに沈静化するわけではなく、足元の景気や雇用情勢は今後悪化が不可避。
追加緩和期待で米国債利回りが再び低下に向かえば、ドルは一段と圧迫されるでしょう。
米国で猛威を振るうコロナ感染第三波
106.10円近辺が重要ポイント
筆者は株式市場の上昇は本物であると考え始めていますが、今週のドル円の上昇は長続きせず、結局レンジに戻っていくと考えています。
ドル円は3月以降高値安値を切り下げるチャートパターンが続いていますが、それに従えば先月の戻り高値106.10円近辺は超えられないだろうという予想が成り立ちます。
となると、現在の105円台半ばからは戻り売りの決定的好機ととらえることができるでしょう。
一目均衡表の雲と前回高値の106.10円が抵抗線 出所:NetDania
ただし、106.10円をも一気に超えていくような勢いがあるとすれば、その時は下落トレンドの終了・上昇トレンドへの転換の可能性、すなわちコロナ終息を見据えたまったく新しい局面に入った可能性があり、戦略を一から練り直す必要があるでしょう。
今後一週間は強気と弱気の分水嶺、重要な時間帯となりそうです。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから