一週間のハイライト(7月8日~7月14日)
経済再開への期待と感染第2波への懸念の綱引きの状態の中、フロリダ州、テキサス州、カリフォルニア州でのウイルス感染による死亡者数が過去最多になったと報じられると、リスク回避の円買いで一時106.65円まで下落。
しかし米株式市場では大きな動揺は見られず、ワクチンや治療薬の開発に対する期待などを背景に、ハイテクセクターを中心に上昇し、ナスダック総合指数は連日高値を更新。
これを受けてドル円も107円台に持ち直し、結局レンジ相場が継続しました。
米国株高はバブルか?
さてその米国株高ですが、コロナ感染第二波が押し寄せ、一日の新規感染が5万人を超える中での株高は果たして妥当なのか?それともバブルなのか? 未曽有の金融緩和と財政支出を背景に、株価が実力以上に上昇している面は確かにあるでしょう。
いくら次世代技術の電気自動車と言っても、テスラの時価総額がトヨタを抜いて世界一というのもやりすぎの気がします。
一方で、コロナ禍をきっかけにライフスタイルや社会構造が不可逆的に変化し、プレーヤーの新旧交代が否応なく行われ、全く新たなサービスや市場が生まれることも事実。
スクラップアンドビルドが過去に例を見ないスピードで進展するというとわかりやすいでしょう。
米国の景気回復は「V字型」でも「U字型」でもなく、「K字型」(好悪の二極化)になるという人もいます。
筆者はこれまで、米国株高はバブルだから急落を警戒すべきだし、その時が来ればリスク回避で円高になると考えていましたが、最近ではそうとも言えないと考え直すようになりました。
そもそも一般大衆がバブルだバブルだと心配しているうちはまだバブルのうちに入りません。
本当のバブルの時は、一般大衆も、メディアの解説者も、株高を一所懸命正当化するものなのです。
実体経済はコロナ感染第二波で多少回復が鈍化するかもしれませんが、最悪期を脱していることは確かです。
不景気であっても、これ以上悪くならないなら株式市場にとっては脅威ではありません。
アトランタ連銀のGDPナウによると、一時はマイナス50%以上と予想されていた4-6月期のGDPもマイナス35%程度に着地しそうです。
GDPナウは直近で-35.5% 出所:アトランタ連銀
名の通った企業の倒産もちらほら聞こえてきますが、リーマンショックの時のように金融システムが音を立てて崩壊していくような恐怖感はありません。
米中関係や大統領選挙など不確実性はそれこそ枚挙にいとまがありませんが、そんなことを百も承知で株を買っているのが現在の状況です。
当面はセンチメントが期待と警戒の間で日々揺れ動きながらも、基本的には株高傾向が続き、リスク選好は高めに維持されると見ます。
この場合、安全通貨の円が売られる一方、円に次ぐ安全通貨であるドルも並行して売られるため、ドル円は方向感が出にくく、もみ合いが続く公算が大きくなります。
ドルの価値希薄化は不可避
ドル円はあまり動いていない一方、ドルの総合的な価値を示すドルインデックスを見ると、このところ再び下落基調で、96台前半とコロナショック後の安値をうかがう展開となっています。
ドルインデックスは下落基調 出所:NetDania
米国の財政赤字が膨張し、FRBが米国債を無制限に買い入れることでドルが市場にあふれ、ドルの価値が希薄化しつつあるのです。
ドルの代替資産であり、ドルの価値の裏返しである金の価格が1800ドル台を付け、史上最高値をうかがう展開になっているのも、ドルの先安観が一因です。
金相場は9年ぶりの高値 出所:NetDania
コロナの影響で米国の輸出が減少し、貿易赤字が拡大することも、ドルの余剰感を強めます。
ドル円だけ見ているとほとんど動きはありませんが、ドル全体で見ると下落が続いていく、つまり円以外の通貨に対してはドル安傾向が明確になっていくと思います。
まとめ:ドル売り ただしドル円以外で
- ① 米国株高は当面継続リスク選好は高め
- ② ドル安・円安でドル円はあまり動かない
- ③ ドルの価値希薄化は続く
以上から考察すると、円以外の通貨に対するドル売りが有効な戦略ということになります。
パンデミックを抑え込み景気に明るさが見えてきたユーロや、資源国通貨で金と相関が高いオーストラリアドルが有望でしょう。
ユーロドル・日足 出所;NetDania
豪ドル・日足 出所:NetDania
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから