一週間のハイライト(4月16日~4月22日)
米国3月の小売売上高や、4月のNY連銀製造業景気指数、フィラデルフィア連銀景況指数が記録的な悪化を示したものの、米国株式市場が意外に堅調だったことから、ドル円も底堅く推移し、一時108.08円まで反発。
株式市場では、トランプ大統領が経済再開の指針を示したことや、ウイルス治療薬の治験で好結果が出たことが好感され、NYダウは一時2万4400ドル台まで上昇しました。
しかし108円台の滞空時間は短く、その後原油相場暴落を嫌気してNYダウが2万3000ドル割れまで売り込まれたことから、107.30円付近まで押し戻されました。
方向感が乏しいドル円相場
この一週間のドル円のレンジはわずか1円弱。
先週述べた通り、市場参加者の間で強弱感が対立し、一方向に動きづらい局面にあります。
一部では早くも欧米のロックダウン解除やコロナ後の景気回復に対する期待感が浮上している一方、目先は過去最悪の景気指標が次々と出てくることが確実であるため、悲観的な見方も払拭できません。
参加者の多くが楽観と悲観のはざまで方向感を決めかねているようです。
当面は株価変動や材料にも単純に反応しづらく、現状レベル106-108円台での一進一退の動きが続く可能性が高いと見ています。
ポジションを大きく傾けずに、逆張り志向で、小刻みな売買に徹するのが賢明でしょう。
原油相場暴落
そんな中、今週市場では前代未聞の出来事がありました。
一週間のハイライトでも触れましたが、原油相場の驚くべき暴落です。
代表的な原油相場であるWTI(ウエストテキサス・インターミディエート)は20ドル近辺とすでに弱含みで推移していましたが、限月交代を控えた20日、急激に値を下げ一気に10ドル割れ。
これだけでも大変な暴落ですが、ここから買い手不在の中さらに売りが売りを呼ぶ大暴落となり、何とゼロを通過してマイナス圏に突入。
一時マイナス40ドルという異常値を記録しました。
マイナス金利というのは今や当たり前ですが、マイナスの価格というのを見たのは生まれて初めてです。
プラス10ドルからマイナス40ドルまで下落するのを見ててっきりチャートが壊れたと思ったほどです。
マイナス価格のからくり
恐るべきことに、このマイナス40ドルという価格は、買い手不在の中で気配だけが下げたのではなく、実際に何度も出会っている(取引が成立している)のです。
つまり、原油をタダであげた上に40ドル支払った人、逆にタダでもらった上に40ドル受け取った人がいるということです。
普通に考えればあり得ない話ですよね。
もちろんマイナス価格で取引されたのは何かの間違いではなく、ちゃんと合理的な理由があります。
それは米国産原油受け渡し地であるオクラホマ州クッシングの貯蔵能力がフルに近づいているということです。
先物で原油を買っている人は、そのまま期日を迎えれば原油の現物を引き取る必要がありますが、石油タンクやパイプライン、海上のタンカーに至るまで貯蔵庫はどこも満タンで、保管場所がありません。
先物で売り戻して決済しようにも、誰も現物を引き取りたくないため買い手がいない状況です。
結局、現物を引き取ることができない投資家は、莫大な手数料を払って(つまりマイナス価格で売って)でも誰かに引き取ってもらうしかありません。
実勢相場の20ドルとマイナス40ドルの差額60ドルがいわば引き取り手数料に相当するわけです。
構造的変化が起こる
なぜこんな事態になってしまったのか。
それは新型コロナウイルスの影響で一日あたり2000~3000万バレルもの需要が消失してしまったことが原因です。
世界的な人の移動制限や物流の停滞のおかげでガソリンや航空燃料がだぶつく一方、OPECプラスや米国シェール業界の減産がさほど進まず、在庫が限界まで膨れ上がってしまっているのです。
新型コロナウイルスの感染はいずれ沈静化するでしょうが、人々の生活はすぐには元に戻りません。
それどころか、コロナをきっかけに人々の働き方やライフスタイルが構造的・不可逆的に変化する可能性が高いでしょう。
テレワークで大方の業務が行われ、出張や商談はテレビ電話で代替され、学校の授業すらネット上で聴講する時代が来ています。
エネルギー需要はどれだけ減少するのか見当もつきません。
限月交代を経て原油先物は一旦22ドル台まで反発しましたが、あっという間に10ドル割れまで急反落しています。
コロナ終息後の世界が全く違った景色となることに市場も気づいたのでしょう。
原油安はドル安
前置きが長くなってしまいましたが、原油安がドルに与える影響は間違いなくマイナスです。
シェールオイルを産出する米国は今や世界最大の産油国であり、石油純輸出国です。
原油相場の暴落は、マクロ的には米国の対外収支を悪化させ、ミクロ的にはシェールオイル業界の経営悪化を引き起こします。
社債の格下げや債務不履行が相次ぎ、それらを組み込んだデリバティブが連鎖的に暴落すれば、リーマンショックのような金融不安に発展するおそれすらあります。
どんな相場であれ、価格がマイナスまで下落するようなあり得ない事態が起きているときは、水面下でどんな歪みやマグマがたまっているか分かったものではなく、警戒レベルを最高に引き上げる必要があります。
黙ってポジションを縮小し、シートベルトをしっかり締めて、不測の事態に備えるのが賢明でしょう。
ドル円に対しては弱気スタンスを維持します。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから