一週間のハイライト(8月13日~18日)
株価堅調を背景としたリスクオンの円売りや、米新規失業保険申請件数など堅調な景気指標を受けたドル買いが続き、一時107.05円まで上昇。
前回の当レポートでは、「ドル離れが一段落し、ドルに資金が回帰し始めている」と見てドルの反騰を予想しましたが、まずはそのような展開となりました。
しかし米7月の小売売上高が予想を大きく下回ったことや、米追加経済対策をめぐる与野党対立が続いていることを嫌気してドルを売り戻す動きが強まると、一転して105円台前半まで下落しました。
またユーロドルは1.1966ドルまで上昇し、2018年5月以来の高値(ドル安値)を示現。
ドルインデックスも92.13まで下落し、同じく2018年5月以来の安値をつけています。
前回は、ユーロが1.19ドルでダブルトップを、ドルインデックスが92.50でダブルボトムを形成しつつあると述べましたが、残念ながらドルの底入れを唱えるのは尚早だったようです。
金相場も然りで、一旦は1800ドル台まで下落しドルの巻き返しを予感させたのですが、その後は反発し2000ドル台を回復しています。
ドルの復権はなかなか容易ではありません。
現時点のドル売り材料は?
- 米中の経済的・政治的対立の先鋭化
- 収束が見えてこないコロナ感染第二波
- 米経済対策をめぐる与野党対立 米景気回復の減速と低金利長期化観測
- 米財政赤字の拡大とFRBによるマネタイゼーション
- 2か月半後に迫った米大統領選挙の不確実性
・・・細かいものを挙げればまだあるでしょうが、主なものはだいたいこんなところでしょうか。
確かにそれぞれが「いちいちごもっとも」であり、ドル安も必然的と思えるかもしれません。
ただし、ユーロドルがWトップの抵抗線1.19ドルを突破し、ドルインデックスがWボトムの支持線92.50を割り込むというのは、新たな局面入りを示唆する非常に重要な動きです。
上に挙げたドル売り材料は、この新展開の引き金というには力不足というか、新鮮味に欠けるのも確か。
どれも、確かにその通りではあるけれども、今始まったわけではなく、すでに使い古された材料です。
個人的には、こんな織り込み済みの材料で相場は動かないと思います。
株高がドル安材料?
一方、米国株式市場の動きを見ると、主要三指数のうちS&P500とナスダック総合指数が過去最高値を更新するなど相変わらず絶好調であり、上に挙げた売り材料と整合的ではありません。
そこで、今回のドル売りは、米国に関する悪材料ではなく、株高・リスクオンによる安全通貨売りと考えると腑に落ちます。
現在の「ゲームのルール」では、ドルは円と同様の安全通貨(低金利通貨)と認識されており、株高は安全通貨売り、つまりドル安と円安に作用します。
ユーロ円が一時126円台と1年4か月ぶりの高値を付けているのは、ユーロの実力というよりまさにドル安・円安のおかげです。
ドル円だけ見ていると現在円高に見えますが、実際には世の中は「円安・ドル安」なのです。
もちろん米国株式市場の快進撃がこのままいつまでも続く保証はありませんが、株式市場は明らかにリセッションの先、ポストパンデミック、ウィズコロナ、アフターコロナの新たな常態を見据えており、バブルではないと考えています。
また先週も述べた通り、市場ではワクチンの開発に対する期待が高まっており、現在の株高は期待料込と言えるかもしれません。
円高シナリオはない
そしてドルと円を比べると、円の方がより安全であり、株高・リスクオンの流れの中では、円の独歩高が最も考えにくいシナリオ。
ドルと円がどちらも売られる中で、ドル円は緩やかながら上昇していくというのが、最も蓋然性が高いシナリオです。
「ドル安・円安」ですから、ドル円が一本調子で上昇していく展開も考えにくいですが、下落があっても一時的となる可能性が高いので、押し目買いは安心感があります。
結論:ドル円押し目買い
- 米国景気は最悪期を脱しておりこれ以上悪くならない(新たな希望)
- 市場の視線はウィズコロナ・アフターコロナに向かっている(変化の胎動)
- コロナワクチンの開発は近い(ゲームチェンジャー)
「希望」「期待」「変化の胎動」といったポジティブなムードの中で、株高が継続するとすれば、ドル円もレンジの下限を割り込んでいくような円高はないと考えられます。
ドル円は7月31日に付けた104.19円で当面の底を打ったと見ており、当面は105-108円を想定したレンジ内での押し目買いが適切と考えます。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから