一週間のハイライト(3月10日~16日)
引き続き、米国債利回りの上昇を背景としたドル買いと、株高を背景としたリスクオンの円売りが噛み合い、ドル円は上値を試す展開に。
週明けの15日には一時109.36円と昨年6月以来の高値を示現しました。
米国10年債利回りはワクチン普及や景気回復期待を背景にじり高の展開となり、一時1.64%まで上昇したものの、株式市場は金利上昇を物ともせず、NYダウは3万3千ドルに迫る上昇となっています。
前回の当コラムでは、「米国景気回復期待、米国債利回り上昇、特に実質金利の上昇を背景とした全般のドル買いで110円という節目も視野に入ってくる」と予想しましたが、おおむねそのような展開となりつつあります。
ドル円は過去1ヶ月で約5円も上昇し、RSIが一時80に達するなど、投機の過熱やテクニカルな買われ過ぎを懸念する声もあります。
しかし筆者は今回のドル円の上昇は決して投機的な動きではなく、むしろ自然な流れと考えています。
理由はコロナワクチンの普及と成長期待の上方修正です。
ドル円は底値から6円超上昇 RSIは一時80に 出所:NetDania
見えてきたコロナ収束
米国ではワクチンの接種は先週1億回を突破し、3500万人以上が2回目の接種を完了しました。
また一日あたりの感染者数で見ると、1月のピーク時には30万人に達していたのが、直近では5万人前後まで減少。
ワクチン普及に関して米国は英国とともに先頭グループを走っており、コロナ収束がこれまでの予想より早まっていることは間違いありません。
いよいよコロナ禍の終焉が地平線の彼方に見えてきたというところでしょうか。
対照的に、日本はワクチン接種が30万回とようやく始まったばかりで、欧州はアストラゼネカのワクチンが副作用で接種ストップとなるなど混乱中。
また欧州では目下コロナ第3波に襲われており、イタリアなど各地でロックダウンや夜間外出禁止が敷かれている局面です。
相対的な米国優位がより明確になってきました。
出所:Google データ提供元:JHU CSSE COVID-19 Data
成長期待
アトランタ連銀の最新予想によると、米1-3月のGDP成長率は年率8.4%。民間エコノミストの予想も徐々に上方修正され4%を超えてきました。
米国債利回りは1.6%台とこの1ヶ月で0.4%上昇しましたが、そのほとんどは成長期待による実質金利の上昇です。
実質金利に相当するインフレ連動債利回り(10年)は、この1ヶ月でマイナス1%台からマイナス0.6%台へ約0.4%上昇しています。
インフレ連動債利回りは上昇 出所:Bloomberg
FOMCはドットプロットチャートに注目
そんな中、昨日からFOMCが開催されており、日本時間明日未明には金融政策が発表されます。
金融政策は現状維持がほぼ確実で、「完全雇用と2%のインフレ目標が達成されるまで政策金利を0~0.25%に維持し、月1200億ドルの資産購入を継続する」というフォワードガイダンスも維持される見通しです。
四半期に一度公表されるFOMCメンバーの経済見通しは全般に上方修正される可能性が高く、金利見通し(ドットプロットチャート)では、利上げ時期が早まる方向でドットが移動すると見られています。
前回12月のドットプロットチャートでは、来年末までの利上げ予想はわずか一人でしたが、今回これがどれだけ増えるかが注目されます。
ちなみにFF金利先物市場は、今年12月までの利上げを一時1割織り込んでいました。
前回12月のドットプロットチャート 出所:FOMC付属資料
前回1月の会合時と比べて10年債利回りは60ベーシスあまり上昇していますが、パンデミック前の水準(1.75~2.0%)にまだ達していないことから、当面は金利上昇を牽制せず静観する構えを示すと見られます。
一部では長期金利を下げるためのツイストオペ(長期債を買って短期債を売るオペレーション)を予想する向きもありますが、当局者からは「当面必要ない」との発言が出ており、考えにくいと思います。
当面緩やかな金利上昇が妨げられないとすると、10年債利回りは次の節目である1.75%を目指す展開となりそうです。
パウエル議長はハト派スタンス堅持
一方パウエルFRB議長は、会見で景気や労働市場の先行きに慎重なハト派姿勢を示し、バランスを取る可能性が高いでしょう。
ここで楽観的な見方を示してしまうと、市場が先走りしすぎて金利が急上昇してしまう恐れがあるからです。
利上げ観測が過度に強まらないよう、ドットプロットチャートのシフトはさほど重要なメッセージではないとのシグナルを送るかもしれません。
米国株式市場は長期金利の上昇と折り合いをつけつつありますが、パウエル議長が金融面でのサポートが継続することを確約すれば、「いいとこ取り」となり、さらに上値を追う展開となるでしょう。
110円をうかがう展開へ
米国債利回りの秩序だった上昇はドル高をもたらし、米国株高はリスクオンの円売りを呼び込みます。
先週も述べたとおり、ドル買いと円売りの歯車が噛み合えば、今週にも110円を試す展開も十分考えられます。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから