一週間のハイライト(11月11日~17日)
米大統領選挙の決着や新型コロナウイルスワクチンの開発期待を受けて105円台後半まで上昇したドル円ですが、10月20日の戻り高値105.75円が抵抗線となり、徐々に失速。
米国の新規感染者数が過去最多を更新したことを懸念したドル売りもあり、104円台前半へ下落しました。
ここで新興製薬会社のモデルナがコロナワクチンの臨床試験で好結果が出たと発表したことから、一瞬105.13円まで急騰。
しかし105円台では戻り売りが強く、しばらくもみ合ったあと元の104.50円付近へ押し戻されました。
その後はさらにドル売りが進み、現在は104円台を割り込む展開となっています。
過度のワクチン期待は禁物
モデルナが開発中のワクチンについては、第3フェーズの臨床試験で治験者の94.5%に効果が表れたとのこと。
先週は米製薬大手のファイザーが最終治験で90%に効果があったと発表し、ワクチンフィーバーのきっかけとなりました。
しかし、これらのワクチンは取り扱いが非常にデリケートで、長期保存するには、ファイザーの場合でマイナス60~80度、モデルナの場合でマイナス20度という超低温で保管する必要があり、遠方へのデリバリーが難しいというネックがあります。
またこれらのワクチンはまだ暫定的な治験段階であり、今後その有効性や安全性が確認され、FDAに使用を承認されるには少なくとも数か月かかるでしょう。
保管方法や輸送方法が確立され、全米各地に届けられるのはさらに数か月要するかもしれません。
ワクチン開発はグッドニュースであることは間違いありませんが、現時点で過度の期待はしない方が身のためです。
株式市場は6か月から9か月くらい先を読み込みますので、ワクチンフィーバーもまあ理解できますが、為替市場は株式市場よりはるかに憶病であり、そこまで能天気ではいられないからです。
為替市場は冷めた反応
ファイザーのニュースが流れた時、ドル円は103円台から105円台まで2円以上上昇しましたが、今回モデルナの時はわずか50銭程度しか反応しませんでした。
為替市場の参加者は現実的であり、現段階ではワクチンの普及には懐疑的、コロナ終結を期待するのは尚早と見ている証左だと思います。
逆に、「ワクチン開発」という世界が待ち望んでいたグッドニュースが飛び込んできたにもかかわらず上値が重かったのは、「相場の息吹」の考え方では「買われるべき材料が出ても上昇しない」弱気のサインであり、潜在的な売り手の存在を示唆しています。
これらのニュースで思わず飛び乗ったロングは今や高値掴みとなり、今後しばらく上値の重しとなる公算が大です。
景気に再び打撃
米国の一日あたり新規感染者数は先週18万人に達し、過去最多を連日更新。
感染拡大はとどまるところを知らず、医療体制の逼迫も深刻です。
トランプ大統領はロックダウンなど厳しい制限措置の実施を否定していますが、10-12月の米国景気や雇用が再び打撃を受けるのは避けられないでしょう。
米国のGDP成長率は、4-6月に-31.4%(前期比年率)と過去最大の落ち込みとなったあと、7-9月期には+33.1%と逆に過去最大の伸びを記録。
しかしアトランタ連銀GDPナウの最新予想によると、10-12月期は+5.4%へ減速する見通しで、コロナ第三波が猛威を振るうなか、再びマイナスとなってもおかしくありません。
来月のFOMCでは資産買い入れの強化など追加緩和も視野に入ってくるでしょう。
先週はワクチン期待や株高もあって米10年債利回りが一時1%に迫る上昇を見せましたが、現在は0.8%台。
やはりワクチン期待だけでは金利を持続的に押し上げることは難しく、FRBの追加緩和次第では再び低下に向かう可能性もあります。
コロナ感染拡大動向、実体経済や金融政策の見通し、金利動向からも、ドルが継続的に買われるシナリオは描きづらいと思います。
ドルは買えないがユーロも買えない
ドルを買えないとなると、その代替はまずはユーロになりますが、ユーロ圏もコロナに関しては危機的な状況であり、ドルと同様買いづらいところです。
英国やフランス・スペインなどではすでにロックダウンや夜間外出禁止など厳しい制限措置が取られており、景気も大きな下押し圧力が避けられません。
ECBはすでに12月の理事会かそれ以前に追加緩和策を打ち出すことを示唆しています。
資産買い入れの強化のほか、マイナス金利の深掘りも議題に上ってくるでしょう。
ユーロドルは9月に一瞬1.20ドルをつけたものの、その後は1.16~1.19ドルのレンジでもみ合いとなっており、要するに市場はドルもユーロも買いたくないムード。
ドルもユーロも買えず、資源国通貨や新興国通貨はもっと買えないとなると、残る受け皿は円ということになります。
日本もコロナ第三波襲来中ですが、感染者数は米国と二桁違いますし、景気や雇用のダメージも欧米ほどドラマチックではありません。
日銀の金融政策も出尽くした感があり、これ以上緩和余地がないともいえます。
消去法的に円が独歩高となるシナリオはまだ残っていますし、現実味を帯びてきていると言えるのです。
下落トレンドは継続
これまでも述べてきたように、ドル円は今年3月以来高値・安値を切り下げる緩やかな下落トレンドにあります。
先週の急上昇をもってしても、このパターンは崩れていません。
また一目均衡表を見ると、日足が先行スパンにしっかり上値を抑え込まれていることがわかります。
ドル円日足・一目均衡表 出所:NetDania
高値を切り下げるこれまでのパターン通り、先月の戻り高値である106.10円近辺は強い抵抗線となりました。
それを超えられなかった今回の戻り高値105.68円は、次の「超えられない壁」となる可能性が高いと思います。
そして安値を切り下げるパターンに従えば、次の下落時に前回安値の103.18円を割り込む可能性が高いでしょう。
ドル円は101-102円に向けて緩やかに下落していくと見ており、引き続き戻り売りスタンスで臨むべきと考えます。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから