一週間のハイライト(3月12日~3月18日)
新型コロナウイルスの感染拡大が欧米で加速する中、株式市場は連日激しく乱高下しましたが、ドル円は売られ過ぎ感による買い戻しが優勢となり、下値を切り上げる展開となりました。
13日金曜日には各国の経済対策に対する期待感から米国株が大きく反発すると、一時108.50円まで上昇しました。
週明け16日にはFRBが1%の緊急利下げと合計7000億ドルの資産買い入れを発表。
米国のゼロ金利復活を嫌気して105.15円まで反落したものの、トランプ政権が最大1.2兆ドル規模の景気対策を検討と伝わったことから、107円台後半まで持ち直し、現在107円付近でもみ合いとなっています。
株式市場は恐怖のどん底
株式市場は下げ止まらず、NYダウは17日のザラ場で一時2万ドル台を割り込む場面がありました。
わずか1か月足らずで高値から1万ドル、率にして30%以上が失われたショックは計り知れません。現在は2万ドル台に戻しているものの、まだコツンと底を打った感触はなく、厳重な下値警戒が必要です。
各国の協調金融緩和や財政政策が出てきていますが、今後は多くの国が景気後退に突入し、企業業績が劇的に悪化することがほぼ確実だけに、当分株式市場は楽観できない局面、上下激しい値動きが続くと見たほうがいいでしょう。
NYダウ日足 出所:NetDania
恐怖指数VIXは一時85%とリーマンショック時に匹敵する水準へ上昇し、今なお高止まりしています。
株式市場の底はまだ見えず、市場がかつてないほど極端なリスク回避姿勢にあることがうかがえます。
VIX指数 出所:StockCharts.com
株式市場とドル円がデカップリング *注
しかし株式市場が暴落し、リスクオフがMAXに達しているその割には、ドル円はこのところ落ち着いた値動きとなっています。
下のチャートはNYダウとドル円を並べたものですが、3月9日までは両者はほぼ連動して動いていたものの、ドル円が先に底を入れ、3月10日以後はむしろ株安とドル高という逆の動きになっていることがわかります。これはどういうわけなのでしょうか。
NYダウ(右目盛り)とドル円(赤線・左目盛)
ポジションの巻き戻し一巡でドル買い
理由の一つは、ドル円暴落の過程でドルロング・円ショートが投げ売りされ、もはや売るべきポジションがなくなってしまったということです。
IMM通貨先物の取り組みを見ると、投機筋のポジションは先々週まで半年あまりにわたってドルロング・円ショートに傾いていましたが、3月10日の時点ですべて巻き戻され、若干ながらドルショート・円ロングにひっくり返っています。
もちろんIMMのポジションが市場のすべてではありませんが、いわゆるシカゴ筋といわれるプロの手口は、投機筋のポジションの縮図といえます。
強制的にロスカットされ売るものがなくなった。
さりとて、市場全体でリスクオフになっているため、新規にドルをショートしていこうという動きも出てこない状態だとすれば、いくら株価が暴落してもドル売りは出てきません。
IMM通貨先物の投機的ポジション 出所:CME、Quick Money World
有事のドル買い
もう一つの理由は「有事のドル買い」です。新型コロナウイルスの感染は急速に欧米各地に広がり、トランプ大統領は終息するのは7月から8月との見通しを示しました。
欧米にとっても事態はもはや「対岸の火事」ではなく、ウイルスとの戦争という非常事態となりつつあります。
このような有事に近い状況で最も信頼できる通貨は何か。
それは国際基軸通貨であり決済通貨であるドルにほかなりません。
米国非居住者は、いざというときに備えてドルを潤沢に用意しておかねばならないため、ドルの需給がひっ迫し、ドルの調達金利が急上昇しています。
そしてドル資金を調達できない者は、為替市場でドルを買うことになります。
消去法でもドル買い
情勢を鑑みれば、東京オリンピックの開催はもはや風前の灯火でしょう。
もし中止・延期となれば、日本が被る経済的・心理的ダメージは計り知れず、円が一気に売り浴びせられるリスクがあります。
当面リスクオフであっても円はとうていロングできません。
また経済活動がほぼ停止状態の欧州や、資源国・新興国の通貨も論外。
さらには金や仮想通貨といった代替資産も現金化の流れで売られるとなると、買えるものがありません。
逃避資金が行き着く先は消去法的にドルしか残っていないのです。
まとめ:いずれにしてもドル買い
感染がさらに拡大・長期化し、世界的に経済や金融システムが深刻な打撃を受けるならば、買うべき通貨はドル一択です。
逆に、ワクチンや特効薬が開発され、事態終息の希望が出てくるならば、リスクオンで円を売り戻す動きになるでしょう。
今後どちらがメインシナリオになるかわかりませんが、いずれのケースでも最終的にはドル円は上昇する可能性が高いと考えています。
スタンスは引き続き、「慎重に打診買い」です。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから