一週間のハイライト(1月27日~2月2日)
株式市場が調整色を強め、NYダウが3万ドルを割り込む中、リスクオフのドル買いが優勢となり104円台へ上昇。
月末に絡んだ実需のドル買いもあり、年初来高値の104.40円を突破しました。
月末を通過し、株安は一服となったものの、ドル買い戻しの流れはなお継続し、2日には一時105.17円と昨年11月以来の高値を示現しました。
前回の当コラムでは、ダウンサイドリスクの方がはるかに大きいとして戻り売りスタンスを唱えていましたが、残念ながら逆の展開となってしまいました。
チャートはトレンド転換を示唆
ドル円日足・一目均衡表 出所:NetDania
チャート上では、昨年の3月から続いていた、高値・安値を切り下げる下落パターンが崩れ、日足が弱気のトレンドラインをブレイク。
また昨年6月以来強い抵抗線となっていた一目均衡表の先行スパンも上抜けし、売り時代の終了を示唆しています。
市場関係者の間でも、ドル円はいったん102円台で底を打ったとの見方が広がりつつあります。
そこで今日は、ドル安トレンドは果たして終わったのかどうか、という点について検証してみたいと思います。
確かにチャートの形状は、これまでのパターンが崩れ、新たな局面に入ったように見えます。
しかしこれまでドル安トレンドを生み出していたファンダメンタルズが変わらない限り、ドルが持続的に上昇する局面に入るとは考えにくく、上昇は一時的な調整の範囲内にとどまる可能性が高くなります。
ドル安のファンダメンタルズ
私が考えるファンダメンタルズ上のドル安要因は大きく分けて4つあります。
- 米国のインフレ懸念
- 米国の財政赤字増加
- FRBのハト派姿勢
- 株高とリスク選好
現時点で、これらの要因に変化の兆しがあるのかどうか、一つ一つ検証してみましょう。
米国のインフレ懸念
米国のインフレ率は昨年のコロナ禍で大きく低下したものの、その後は反動で上昇してきました。
インフレは裏返せば通貨価値の低下ですから、ドルにとっては中長期的に見て弱気材料です。
現在では、モノ全体に対するペントアップディマンド(繰り越し需要)、鋼材や非鉄金属など一次産品の価格上昇、半導体不足もあり、インフレ懸念は思ったより急速に高まっています。
実際、市場の予想インフレ率(ブレークイーブンインフレ率)は現在2.14%(10年債利回りで算出)と、FRBが目標とする2%を大きく上回ってきました。
米国の財政赤字増加
米国の2020会計年度(2019年10月1日~2020年9月30日)の財政赤字は過去最悪の3兆1320億ドルで、名目GDPの15%という戦時中並みの規模となりました。
年度が替わった2020年10~12月の財政赤字も5729億ドルと同時期として過去最悪となっています。
2021年もバイデン新政権の積極的な財政政策によりさらに赤字が拡大する見通しです。
財政支出を賄うため、膨大な額の国債が発行され、それをFRBが引き取ることになります。
その見合いに、これまた膨大な額のドルが供給されることになります。
こうして米国の財政赤字拡大でドルの余剰感が強まるという構図、これも何ら変わりありません。
FRBのハト派姿勢
先週行われたFOMCは、2%をやや上回るインフレ率を達成するまでFF金利を0~0.25%に維持することと、最大雇用と物価安定の目標に向けてさらに著しい進展が見られるまで少なくとも月間1200億ドルの資産購入を継続することを、全会一致で決定しました。
FOMCメンバーの予想によれば、完全雇用(4%程度)と2%のインフレ目標を達成できるのは、早くて2023年。
つまりFRBはあと2~3年は利上げもテーパリングも行わないと約束したことになります。
FRBがゼロ金利を維持し、巨額の債券購入を続ける限り、長期金利はそう簡単には上がりません。
先週の株式市場の調整を受けて、米国10年債利回りは一時1%を下回りました。
一方で景気回復や財政悪化に伴い、インフレ懸念が高まると、実質金利が低下していきます。
現在、10年債利回りがだいたい1%で、予想インフレ率がだいたい2%ですから、実質金利はマイナス1%です。
巨額の双子の赤字を抱える米国の実質金利がマイナスでは、ドルが継続的に上昇するシナリオは到底描けません。
株高とリスク選好
ワクチンの接種が始まり、遅かれ早かれコロナ禍は終息し、今年の第4四半期には米国経済はコロナ前の水準へ回復するでしょう。
株式市場が実体経済に半年から9か月先行するとすれば、現在の株高は正当化できますし、中長期的にも強気のシナリオに変わりはありません。
米国株式市場はNYダウが一時3万ドルを割り込むなど不穏な雰囲気がありましたが、現在は持ち直しており、結局はいいガス抜き調整に終わったのではないでしょうか。
NYダウ日足 出所:NetDania
これまでの「ゲームのルール」では、株高・リスクオンの局面では安全通貨のドルが売られました。
ドルと円のどちらがより安全なのかはその時のテーマによって変わってきますが、当分の間は、供給量が飛びぬけて多く、ファンディング通貨の筆頭であるドルがより売られやすい流れに変わりはないと思います。
まとめ:ドル安シナリオに変化なし
今回のドル円の105円台までの反発は予想より大きかったですが、主な要因はポジション解消であり、長続きはしないと見ています。
相場は短期的にはファンダメンタルズに反したりオーバーシュートしたりしますが、中長期的にはファンダメンタルズに従って動くもの。
そのファンダメンタルズに大きな変化がない限り、ドル安シナリオを簡単に捨てるべきではありません。
105円台はむしろ絶好の売り場かもしれず、ポジションに余裕があれば追撃売りの急所と考えます。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから