一週間のハイライト(3月29日~4月2日)
ドル円は引き続き上値を試す展開となりました。
バイデン米政権が3兆ドル規模のインフラ投資計画を発表すると報じられたこともあり、株高・円売りの流れでついに節目の110円を突破。
月末や年度末に伴う実需のドル買いもあり、31日には一時110.97円と1年ぶりの高値を記録しました。
その後は週末のイースター休暇を控えたポジション調整が入り、110.38円まで反落したものの、金曜日に発表された米国3月の雇用統計が予想より強い結果となったことから、110.75円と強含みつつ週の取引を終えました。
労働市場は予想以上の回復
3月の雇用統計は、失業率が6.0%と予想通りながら前回から0.2%の改善。
非農業部門雇用者数は91.6万人増加し、予想の66万人を大幅に上回りました。
米国では飲食やレジャー関連業界などコロナ禍でレイオフされた人々が労働市場に復帰する動きが始まっており、ワクチン接種の進展でその動きが加速しています。
バイデン政権は今後ワクチン接種をさらに加速させ、7月の独立記念日までに「コロナからの独立」を目指しています。
今後夏にかけて労働市場は従来予想よりも力強く回復する可能性が高くなりました。
第1四半期のGDPの予想も上方修正される可能性が高く、最大で年率10%に達するとの見方も出ています。
アトランタ連銀GDPNow
株高は続いていく
一方で、昨年パンデミックで失業した約2200万人のうち1000万人はまだ復帰しておらず、労働市場がパンデミック前の状態に戻るには2年かかると言われています。
FRBは「労働市場の状況が委員会の最大雇用の評価に一致する水準に達し、インフレ率が2%に上昇して当面の間2%をやや超えるような軌道に乗るまで」利上げしないと約束していますので、少なくとも向こう1年以上は政策金利はゼロにとどまるでしょう。
その間は高成長と低金利の「高圧経済」が続くことになります。
強力な財政支援による燃料投下や量的緩和によるカネ余りも続きます。
株式投資にとってはまことに都合の良い状態となっており、米国株式市場はさらに高値を更新していく可能性が高いと思います。
株式市場の「恐怖指数」と呼ばれるVIXは先週サポートの20ポイントを完全に割り込み、パンデミック後の安値を更新しました。
投資家心理が楽観を強めていることを示しています。
「恐怖指数」はパンデミック後最低水準
高値を更新中のNYダウ、S&P500はもちろん、グロース株主体のナスダックも2月の最高値を目指す展開となるでしょう。
株高はリスクオンの円売りを促すとともに、やがて債券利回りを押し上げ、ドル買いを呼び込みます。
ナスダックは再び高値を目指す
米国は円安容認?
日米首脳会談は当初予定の9日から16日まで1週間延期されましたが、バイデン大統領が対面で行う就任後初の首脳会談となることに変わりはありません。
中国を完全に「敵対国」と認識した米国にとって、日本が最も重要な同盟国であることを端的に表していると思います。
歴代の米国政権は、かつて経済的脅威であった日本に対して厳しく、特に円安を容認しない傾向にありましたが、今のところバイデン大統領からもイエレン財務長官からも円安に対して特にコメントは出ていません。
ドル円は今年に入ってすでに8%も上昇していますから、円安が気に入らないならとうに牽制が入ってもおかしくないのですが、その気配は感じられません。
米国にとって日本はすでに競合する分野が少なく、円高で押さえつける必要もありません。
むしろ中国の覇権主義に対抗するための同盟国として、また世界的に不足する半導体の供給源として、デフレを克服して頑張ってほしい。
そのためには円安が不可欠となれば、それを黙認する戦略なのではないでしょうか。
もちろん明示的に「円安を容認する」とは言わないでしょうが、110円以上の円安を黙認すれば市場はやがてそのように受け止めます。
そうなれば、ドル円は買い安心感が強まり、パンデミック前の高値112円を超えていくでしょう。
長期的な円安予想
IMM通貨先物の取り組みを見ても、投機筋はここ3週間順調に円売りポジションを積み上げており、ドル円の上昇トレンドと整合的です。
2018年6月~や2019年10月~のように、投機筋が円売りに舵を切り、ドル円が長期間上昇する局面に入った可能性が高く注目しています。
シカゴ筋ポジションとドル円 出所:CME、Quick
また週足チャートを見ると、2015年の高値125.85円から続いてきた弱気のトレンドラインを完全に上抜けてきており、長期的な円高トレンドが終了し、円安トレンドに転換した可能性が浮上しています。
大げさに言えば、大円安時代は始まったばかりかもしれません。
ドル円週足 出所:NetDania
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから