一週間のハイライト(8月5日~11日)
米国追加経済対策をめぐる与野党協議の難航をにらみながら、105.30円付近まで下押しする場面もありましたが、米国7月の雇用統計が予想を上回ったことを受けて106円台を回復。
NYダウがコロナショック後の高値を更新し一時2万8千ドル台を付ける中、リスクオンの円売りも強まり、106.68円まで上昇しました。
先週の当レポート
では、「米国経済は厳しいがこれ以上悪くもならない」としてドルの底入れを予想しましたが、おおむねそのような展開となりました。
労働市場は回復続く
7月の雇用統計では、失業率が前月の11.1%から10.2%へ改善し、非農業部門雇用者数も+176.3万人と予想の+148万人を上回りました。
コロナ禍で3月と4月に約2200万人が失業したあと、5月から7月にかけて900万人あまりが職場に復帰したことになります。
それでも約1300万人分の雇用はまだ失われたままで、回復ペースは鈍っているという声もあります。
しかし1か月で2000万人以上の職が失われた4月からみれば間違いなく回復していますし、今後もペースはともかく回復していくことに疑いの余地はありません。
先週発表された新規失業保険申請件数(1日終了週)は119万件、失業保険の継続受給者数(7月25日終了週)は1610万人と、いずれもパンデミック以降で最少となりました。
新規失業保険申請件数(上)と継続受給者数(下) 出所:Bloomberg
労働市場は、コロナ前の水準に戻るには相当の時間を要するでしょうが、着実に改善しています。
先週述べた通り、「厳しいがこれ以上悪くならない」、あるいは「明るい兆しが見えている」と表現してもいいでしょう。
方向性は間違いなく「アップ」であり、米国株式市場にとってもドルにとっても前向きな進展と言えます。
ドルへの回帰が始まった?
この1週間で大きく動いたものといえば、金相場。
一時は2080ドル台まで上昇し史上最高値を更新していましたが、昨日の終値(NY金先物12月限)は1946.30ドルで、3月以来久しぶりの大幅下落となりました。
金相場は大幅下落 出所:NetDania
このところの金相場の急上昇は、金そのものの価値が高まったというよりは、ドルの価値希薄化懸念による代替需要という側面が大きかったわけですが、ここにきてその流れにも変化が起こりつつあるように感じます。
ドル=法定通貨の対極にある仮想通貨、ビットコインが下落しているのも同じ理由かと思います。
ビットコインも下落に転じる 出所:NetDania
また為替市場でも、ドルに次ぐ準備通貨であるユーロが1.19ドルでダブルトップをつけ弱含みに転じる一方、ドルの総合的な価値を示すドルインデックスが92.50でダブルボトムをつけ強含みで推移しているのも見逃せません。
ユーロは1.19ドルでダブルトップ形成 出所:NetDania
ドルインデックスは92.50でダブルボトム形成
出所:NetDania ドル離れが一段落し、ドルに資金が回帰し始めている兆候だと思います。
コロナ沈静化とワクチン期待
先週も述べた通り、米国の1日当たり感染者数は順調に減少傾向をたどっており、直近で約4万人とピークの半分近くとなりました。
感染第二波が直撃したフロリダ州やカリフォルニア州など地方都市でも沈静化が顕著です。このままいけば今月下旬には収束の期待が出てくる可能性があります。
全米の新規感染者数は減少に向かっている 出所:Wikipedia
またロシアでは世界初のワクチンが正式に承認されたと報じられています。
安全性を疑問視する見方もありますが、世界中で開発競争が繰り広げられる中、いよいよ有効なワクチンが登場してもおかしくありません。
結論:ドル買い
筆者は、コロナ禍とともに進行していたドル独歩安局面が一段落し、ドルの反騰局面が始まったと考えています。
またパンデミックの収束期待やワクチン開発期待が米国株をさらに押し上げ、リスクオンの円売りも促されると予想しています。
考えたくはありませんが、日本が今後爆発的な感染拡大に見舞われ、悪い円安となるシナリオも捨てきれません。
夏休みで参加者が限られる局面ですが、バイアスをドル強気に引き上げ、押し目買いのスタンスで臨みたいと思います。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから