一週間のハイライト(7月15日~21日)
新型コロナウイルスの感染拡大への警戒感が強まる一方、ワクチン開発への期待感も膨らんできており、市場では強弱感が拮抗。
結局ドル円は引き続き107円を挟んだ狭いレンジでのもみ合いが続き、一週間のレンジは106.67円~107.53円と1円未満にとどまりました。
猛威を振るうコロナウイルス
米国の一日当たりのコロナ感染者数は一時7万5千人に達し、今なお終息の気配がありません。
死者数も増加スピードは鈍化しているものの、19日までに14万人を超えました。
感染は各地に拡大しており、経済再開を早まったカリフォルニア州やフロリダ州、テキサス州の感染者数はニューヨーク州を上回りそうな勢いです。
トランプ政権は当初、重症化しにくい若者の感染が多いと楽観視していましたが、実際には感染が高齢者にも拡大し、各地でICUが満床になるなど医療崩壊が危ぶまれています。
依然として米国が最もコロナに苦しんでいる状況にあることに変わりはありません。
株式市場は引き続き楽観的
それにもかかわらず、米国株式市場では、NYダウが一時2万7千ドル台を回復し、ナスダックが1万800ポイントと史上最高値を更新するなど、好調が続いています。
4-6月期の決算は今後本格化しますが、金融危機以来最悪の結果が確実視されており、S&P500採用企業は43%の減益が予想されています。
ただしこれはすでに織り込み済みのため、現時点での相場の悪材料にはなりません。
むしろ今後ワクチン開発の期待がかかるバイオ企業や、ウィズコロナ・アフターコロナで恩恵を受ける企業群は熱い注目を浴びています。
ハイテク企業やいわゆるコロナテック企業が牽引役となり、下落するセクターを補って余りある。
つまり優勝劣敗や二極化が進んでいく中で、プラスとマイナスをならしてみれば、トータルでプラスという考え方が、株式市場をサポートしています。
新たな経済対策
またトランプ政権は新たに1兆ドル規模の経済対策第5弾を打ち出す方針を決めました。
ムニューシン財務長官は、「かなりの進展があり、来週末までの合意を目指す」と述べています。
米国景気はコロナ禍の落ち込みからの回復が期待ほど鋭角的でないかもしれないとの懸念がありますが、この経済対策で景気が二番底を見に行くリスクが軽減されるかもしれません。
現在想定されている以上の事態(具体的には死者激増で経済の再封鎖に踏み切るなど)にならない限り、景気は最悪の時期は脱したとして、株式市場は徐々に上昇していく可能性が高いとみています。
センチメントは日々振り幅があるでしょうが、市場のリスク許容度はおおむね高めに維持され、少なくとも急激なリスク回避による円独歩高というシナリオは薄くなったと思います。
リスクオンのドル売り・円売りでレンジ取引続く
すでに何度か述べていますが、現在為替市場において、ドルと円はいずれも安全通貨とみなされています。
このため、リスクオンならドル安・円安、リスクオフならドル高・円高という具合に同じ方向に動くため、ドル円は極めて動きづらくなっています。
株価堅調を背景に緩やかなリスクオンの状態が続くとすれば、ドル円は引き続き107円を中心とした狭いレンジでの膠着が続くと見るのが妥当でしょう。
106-108円のレンジを意識し、戻り売り・押し目買いの逆張りスタンスで小刻みな売買に徹するしかなさそうです。
ユーロに消去法的な買い
一方、ドル安・円安なら、三極通貨の中ではユーロが消去法的な恩恵を受けそうです。
ユーロドルはここ一週間で騰勢を強め、1.1540ドル近辺と約1年半ぶりの高値をつけています。
また昨夜EU首脳が7500億ユーロ規模のコロナ復興基金の設立で合意したため、景気回復期待が高まるだけでなく、EUが求心力を取り戻し、念願の財政統合に歩を進めるとのポジティブな見方も浮上しています。
チャート上では、3月23日に付けたコロナショック後の安値1.0635ドルが当面のボトムとなり、コロナショック直前の高値1.1495ドルを上抜けしたことで、上昇トレンドに入った可能性が高くなっています。
当面はドル円のトレードを一休みし、ユーロの買い場を探すのも一計だと思います。
リスクオンでドル安・円安・ユーロ高とすれば、ユーロ円の買いも有望な戦略となるでしょう。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから