一週間のハイライト(5月24日~28日)
週前半は108円台後半で動意が乏しい動きが続いていたドル円ですが、木曜日になってドル買いがにわかに強まり、金曜日には110円を突破。
一時110.20円まで上昇し、4月6日以来の高値を示現しました。
前回の当コラムでは、「夏にかけて米国金利上昇・ドル上昇と考えており、ドル強気スタンスを継続」としましたが、結果的にそのような展開となりました。
ドル上昇は本物か?それとも・・・
ドル円上昇の要因としては、
- ①米新規失業保険申請件数やGDP改定値など景気指標が良好で、金曜日発表の4月PCEコアデフレータの上振れに対する期待が強まったこと。
- ②バイデン政権が2022会計年度の予算案を発表し、6兆ドル超の歳出を要求したこと。
- ③月末がらみで機関投資家や輸入企業からのドル買い・円売りが入ったこと。
- ④菅首相が大都市圏の緊急事態宣言の6月20日までの延長を正式に発表したこと。 が挙げられます。
もっとも、
- ①については、PCEコアデフレータは実際前年比+3.1%と前回の+1.9%(+1.8%から修正)、予想の+2.9%を上回ったものの、結果的には材料出尽くしとなり、ドル円は発表後109.75円まで反落している。
- ②については、歳入を企業や高額所得者に対する大幅増税で賄う計画であり、株式市場にとって必ずしも手放しで喜べる材料ではない。
- ③については言うまでもなく一時的な需給の問題であり、今週も持続する可能性は小さい。
- ④については今さらというか、市場が日本のコロナ禍を重大関心事として注視しているとは思えない。
そして何より、110円の節目を一旦突破したにもかかわらず、上昇モメンタムを維持できず109円台に押し戻されて終わってしまった、つまり110円台を買った向きの味の悪さ。
ローソク足(日足)で見ると下のようになり、長大陽線の翌日に上ヒゲの長い陰線が上から被さる組み合わせは、当面の高値となることが多いパターン。
ちょっと不吉な雰囲気ではあります。
ドル円日足
FRBはトーンダウン
また、筆者がドル強気の根拠としていたFRBの出口戦略に関する議論が後退しつつあるのが気がかりです。
FRBは先々週までテーパリング(資産買い入れの減額)に向けた地ならしととれる動きを見せていましたが、ここにきてインフレ上昇は一時的との見方に自信を深めつつあるようで、先週は否定的な発言が相次ぎました。
- ブレイナードFRB理事「インフレ上昇はベース効果。インフレ期待は抑制されている」
- ブラード・セントルイス連銀総裁「資産購入ペース縮小を協議する用意は全くない」
- ボスティック・アトランタ連銀総裁「インフレが続くとは思っていない」
- クオールズFRB副議長「大半のインフレ圧力は一時的」
- クラリダFRB副議長「インフレ圧力は概ね一時的」
筆者は「8月下旬のジャクソンホール会議でテーパリングを示唆し、9月FOMCで決定もあり得る」と見ていましたが、市場の見方は現在「ジャクソンホールでテーパリングを示唆するものの、実行は来年」に傾いています。
米国債利回りも1.6%前後で小康状態となっており、「テーパリング観測→金利上昇→ドル高」という経路は一旦塞がれてしまったようです。
米国雇用統計、結果だけでなく市場の反応に注目
では先週のドル円の上昇は一過性の動きなのか? 現段階ではそうとも言い切れないと思います。
米国の経済再開と景気の過熱、労働市場のミスマッチによるインフレ懸念は、一過性の可能性が高いとはいえ、無視していいわけではありません。
米国内でコロナ禍がこのまま沈静化していけば、7月4日の独立記念日にはコロナ終結宣言が出されるでしょう。
米国民は熱狂し、消費や生産や旅行需要が爆発し、金融政策が後手に回るリスクが出てくるかもしれない。
その場合、FRBは躊躇なく緩和解除のシグナルを送ってくるでしょう。
その試金石となるのが、今週金曜日発表の5月雇用統計です。
失業率は前回の6.1%から5.9%に低下し、非農業部門雇用者数は前回の+26.6万人から+65万人へ増加が加速すると予想されており、市場は強い数字を想定しています。
もし予想通り強い数字が出て、素直に金利上昇・ドル上昇となるなら、相場は強気トレンドに入っていく可能性が高いと思います。
しかし強い数字にもかかわらずドルがさほど上昇しない、あるいは逆に下がってしまうようであれば、当面の強気材料出尽くし→弱気局面入りを疑う必要があります。
振り返れば2か月前の4月2日、米国3月の雇用統計が大幅上振れ(予想+64.7万人 結果+91.6万人)したにもかかわらず、ドル円は下落し当面のピークアウトとなった事例があります。
今週の雇用統計の結果と市場の反応次第で、当面の趨勢が決まる可能性があり、大いに注目する必要があります。
雇用統計の前哨戦となるチャレンジャー人員削減数、ADP雇用統計、新規失業保険申請件数にも要注意です。
今週は一連の指標と市場の反応を見極める必要があり、中立スタンスでどちらにも動けるようにしておくのが良いでしょう。
今週の米国主要経済指標 (出所:外為どっとコム)
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから