一週間のハイライト(5月17日~21日)
ドル円は109円をはさんでのもみ合いが続きました。
FOMC議事録にテーパリングに関する議論が記されていたことから、ドルが買われる場面もありましたが、株式市場や暗号資産が激しく動く中、リスク回避の動きもあり、上値も限られました。
前回の当コラムでは、「インフレ期待や利上げ観測を背景としたドル買いと、株高・リスクオンを背景とした円売りの歯車がかみ合えば110円突破も十分可能となる」と述べましたが、残念ながらそこまでの展開はありませんでした。
FOMC議事録
19日発表されたFOMC議事録について述べておきましょう。
FOMC議事録は、政策決定日の3週間後に公表され、金融政策の変更もしくは現状維持にどのような議論が交わされたかが記録されます。
FOMC当日に発表される声明はその結果のみが記載されますが、議事録を読むと、議論の中でさまざまな反対意見や消極的な意見があることがわかります。
なお、この議事録は要旨であり、詳細を含めた全記録は5年後に公開されます。
地ならし 今回のFOMC議事録はここで入手できます。
英語が得意な人でもちょっと尻込みするほどの長文で、Googleなどで翻訳してもなかなか読み切ることができませんが、何とか我慢して一度くらいは通読してみてください。
市場が最も驚いたのは、「多くの参加者は、経済が委員会の目標に向けて急速な進歩を続けている場合、資産購入のペースを調整するための計画について話し合うことを今後の会合のある時点で開始することが適切かもしれないと示唆した」(A number of participants suggested that if the economy continued to make rapid progress toward the Committee’s goals, it might be appropriate at some point in upcoming meetings to begin discussing a plan for adjusting the pace of asset purchases.)という部分です(セクションParticipants’ Views on Current Conditions and the Economic Outlookの一番最後のパラグラフ)。
「多くの参加者」ということは、少数意見ではないということであり、今後はその方向に向かっていく可能性が高いということです。
問題は「今後の会合のある時点」がいつなのか、ということなのですが、市場参加者の間では、6月と7月のFOMC会合で議論し、8月のジャクソンホール会議で発表というのが有力シナリオとなっています。
ジャクソンホール会議というのは、カンザスシティ連銀が米国ワイオミング州のジャクソンホールで毎年8月に開催する経済シンポジウムのことで、しばしばFRBの重要な政策変更の発信の場となります。
また先週金曜日には、米紙ワシントン・ポスト主催のバーチャルイベントで、複数の地区連銀総裁から、金融政策について発言がありました。
- バーキン・リッチモンド連銀総裁「実質的で持続的な成長を得たとき、テーパリングを開始。物価上昇で、2022年に金融政策を正常化するチャンス」
- カプラン・ダラス連銀総裁「テーパリングの開始、遅いより早い方が望ましい」
- ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁「テーパリングをめぐる討議、遅いよりは早めに」
今後コロナ終息・経済再開に伴って米国経済が急速に回復し、労働市場がひっ迫し、インフレ懸念が高まる中で、FRBとしては後手に回りたくない。
まずはテーパリング、そして利上げに向けて、いよいよ地ならしが始まったと考えていいと思います。
強い米経済
実際、米国4-6月のGDP成長率は年率10%に迫る勢いで拡大しており、労働市場では空前の求人難となっています(先週の当コラム参照)。
「8月ジャクソンホール会議でテーパリング示唆、9月FOMC会合で決定」という流れを想定するならば、今後6~7月にかけてはそれを織り込みに行く、つまり米国金利上昇・ドル高の流れが明確になっていく可能性が高いと思います。
アトランタ連銀GDPナウは10%超の予想
今週の注目材料
今週もFRB当局者の講演が目白押しとなっていますので、テーパリング関連の発言には注意する必要があります。
- 24日:メスター・クリーブランド連銀総裁、ジョージ・カンザスシティー地区連銀総裁、ボスティック・アトランタ連銀総裁が講演
- 25日:クオールズFRB副議長が上院銀行委で証言
- 26日:クオールズFRB副議長が講演
また28日にはFRBがインフレのベンチマークとして重視する4月のPCEコアデフレーターが発表されます。
前回の+1.8%から+3.0%(前年比)への上昇が予想されており、「一過性の要因」があることは分かっていても、金利上昇・ドル買いで敏感に反応する可能性があります。
ドル強気スタンス継続
コロナ禍は終息・米国経済は上振れの最中にあり、FRBの出口戦略がこれまでの想定より早まりそうな気配が強まっています。
メインシナリオは、夏にかけて米国金利上昇・ドル上昇と考えており、ドル強気スタンスを継続します。
じっくり踏み固めてきた108.50円付近は押し目買いの好機となるでしょう。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから