一週間のハイライト(10月14日~20日)
米国追加経済対策をめぐる期待と不安が交錯する中、ドル円は方向感がつかみづらく、105円台で一進一退の展開が続きました。
ドル円はかれこれ1か月、ほぼ105円台での膠着が続いています。
ここまで動かない理由は何かと言えば、先行き不透明感が強すぎるからということになります。
市場は常に先へ先へと読み込むものですが、今回はさすがの市場もメインシナリオを描き切れないようです。
現在、主な不透明要因は3つ。
米国の追加経済対策、新型コロナウイルス、そして大統領選挙です。
不透明その① 米国の追加経済対策の行方
民主党のペロシ下院議長が、追加経済対策の協議期限を48時間(10月20日)に設定したと伝わったことで、それまでに経済対策がまとまるとの期待が高まっています。
ペロシ下院議長は、「48時間というのは、選挙前に合意をまとめたいかどうかという点のみに関連している。われわれは選挙前にまとめたい」と述べ、前向きな姿勢を示しています。
本稿執筆時点(日本時間21日夕刻)では協議の結果に関する報道は出ていませんが、メドウズ大統領首席補佐官によると、1兆8800億ドルがトランプ政権の最新案であり、政権と民主党は今週末までの合意を目指しているそうです。
しかし民主党の一部からは「合意しないという選択肢も残っている」との発言が出ており、仮に政権側のムニューシン財務長官とペロシ下院議長が交渉で妥協点を見出したとしても、今週中に民主党が合意に応じるとは限りません。
また共和党からも、2兆ドル近い財政支出には反対の声が多く、法案の成立には議会共和党が壁として立ちはだかりそうです。
電撃的に今週合意となれば一気にリスクオンに傾きますが、合意できなければ大統領選前の合意はなくなりますし、下手をすれば年内も絶望との悲観的な見方に傾くでしょう。
今は本当に読めない局面です。
不透明その② 新型コロナウイルスの行方
米国のコロナ感染は、9月には終息に向かうと思われましたが、10月に入って再び増加に転じ、直近では1日あたりの感染者数が7万人と7月のピークに迫る勢いとなっています。
欧州はもっとひどく、フランスは1日あたり3万人、英国も2万人を突破し、過去最大の危機を迎えています。
これから北半球が冬を迎えるにあたって、どこまで事態が悪化するのか予想もつきません。
一方ワクチン開発については、これも全く先が読めない状況で、ジョンソン・エンド・ジョンソンが臨床試験の中断を発表したことで、ワクチンの早期開発への期待が後退したかと思えば、ファイザーが開発中のワクチンについて11月後半にも使用許可申請との報道もありました。
一部報道によると、22日にワクチンの使用について、有識者の諮問委員会がFDA(米国食品医薬品局)に勧告を行うことになっています。
もしワクチン使用にゴーサインが出れば一気にコロナ終息期待が高まるでしょうし、出なければ長期化観測が強まるでしょう。
これもまったく予測不可能です。
不透明その③ 大統領選挙の行方
米大統領選挙はさらに複雑です。
選挙まで2週間を切りましたが、各種世論調査では依然パイデン氏が10ポイント前後のリードを保っており、トランプ大統領にとってはいよいよ崖っぷちのように見えます。
バイデン氏リードのまま終盤戦へ ふつうは政権交代は変化を嫌う株式市場にとって逆風ですが、現在は「トリプル・ブルー期待」というものが浮上しており、逆に株式市場をサポートしています。
トリプル・ブルーとは、民主党候補のバイデン氏が大統領となり、上下両院も民主党が制することを意味します(青は民主党のシンボルカラー)。
世論調査はトリプル・ブルーを示唆
トリプル・ブルーは民主党による完全な議会掌握ですので、バイデン新大統領は自らの政策をスムーズに進められるようになります。
2.2兆ドル超の追加経済対策や中国との関係改善への期待が高まるというわけです。
ただしバイデン氏が大統領になっても、上院・下院のいずれかが違う色(ねじれ議会)になれば、政策運営はかえって困難になり、景気の先行きは一層不透明となるでしょう。
トランプ氏のサプライズ勝利の可能性も捨て切れません。 世論調査では確かにバイデン優位ですが、いわゆる「隠れトランプ支持者」が意外に多いことには注意が必要。
米国では支持者が政党のポスターを貼ったり大統領候補のTシャツを着たりするのが当たり前ですが、そんな米国民でも、トランプ支持を公言するのは結構恥ずかしいことらしいです。
ここにきて、バイデン氏ファミリーのウクライナ疑惑が蒸し返されているのも気になります。
米国のタブロイド紙ニューヨーク・ポストが暴露記事を掲載したことがきっかけで、詳細は割愛しますが、興味のある方はこちらをご参照。
4年前もそうでしたが、世論調査で不利だったトランプ氏がまさかの逆転勝利で、トランプラリー再びということもあり得るのです。
さらに悩ましいことに、今回は郵便投票と期日前投票が2200万人もいて、集計は困難を極めることから、接戦となった場合はかなり混乱することが確実。
トランプ氏が負けても選挙は無効だとして法廷闘争に打って出る可能性もあります。
11月3日にすんなり大統領がどちらかに決まる可能性はむしろ小さいかもしれません。
これほど不透明なことってあるでしょうか。
まとめ・方向感を固めず逆張りスタンスで
というわけで、
- ①米国の追加経済対策
- ②新型コロナウイルス
- ③大統領選挙
という、重要かつ不透明な材料がどうなるのか、その組み合わせによって相場のシナリオも大きく変わってきます。
当面はニュースに一喜一憂しつつも、これら三つの不透明感が一つずつ晴れていくのを見極めていくしかなさそうです。
それまでは方向感を固めず、105円台中心のレンジで逆張りスタンス、かつ小刻みな売買を心掛けるべきでしょう。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから