一週間のハイライト(6月25日~7月1日)
ドル円相場は106円後半から一時108.16円まで上昇。
米国株の反発や米国債利回りの上昇を受けてドル買いが強まったほか、四半期末にからんだドル需要も出ていた模様です。
株式市場は乱高下が続いていますが、ナスダック総合指数が1万ポイントを上回り史上最高値を更新するなど、なお強さを維持しています。
先週の当コラムでは、コロナ第二波警戒から市場心理が悲観に振れると予想し、ドル売りの判断でしたが、残念ながら逆の結果となりました。
コロナは楽観できない
新型コロナウイルスについては、すでに第二波が押し寄せてきていることが明らかです。
世界の感染者数は1000万人を突破し、死者数も50万人を超えました。
米国の感染拡大も終息するどころか今なお拡大中であり、直近では一日の感染者数が4万人を超える過去最悪の状況が続いています。
テキサス州やフロリダ州は26日に全てのバーの営業を停止。
カリフォルニア州も28日、ロサンゼルス郡など7つの郡でバーの休業を命じました。
米国の死者数は12万人を超えてから増加ペースが鈍化しているものの、各地で特に若者の間で警戒が緩んでおり、今後再び増加する恐れもあります。
第二波が「津波」にならないことを祈るばかりです。
今のところ米政府は経済の再封鎖は実施しない方針を示しているものの、感染拡大と死者の増加が止まらなければ、4月のような大規模な制限へ逆戻りするリスクも想定しておかねばなりません。
もしそうなれば、V字型の景気回復は不可能となり、株式市場は二番底をつけに行くシナリオも浮上してきます。
私には、株式市場はコロナ禍に対して依然楽観的過ぎるように思えてなりません。
雇用統計はダウンサイドリスク
今週は米国雇用統計ウィークですが、今月は通常の金曜日ではなく一日早い2日木曜日に発表されます。
7月3日が独立記念日振替休日で米国市場が休場となるためです。
現時点での予想コンセンサスによると、失業率が12.5%(前回13.3%)、非農業部門雇用者数が+300万人(前回+250.9万人)と引き続き改善が見込まれています。
失業保険継続受給者数もコロナ禍で初めて2000万人を下回っており、経済再開にともなって再雇用される人が増えていることは確かです。
しかし2000万人もの職が失われたあとの経済再開局面ですから、大幅に増加するのは当たり前の話。
また感染第二波が押し寄せているなかで、今回の結果によって経済の先行きを論じるのは無意味でしょう。
またFOMCは「雇用最大化と物価安定の目標を達成する軌道に乗ったと確信するまで利上げしない」と宣言していますが、今回予想以上に強い結果が出たとしても、目標達成を「確信」できるはずがありません。
ゼロ金利解除は地平線のはるか先なのです。
したがって、強い数字が出てもドルの上昇余地は乏しいと見なくてはなりません。
強い数字を織り込んでいるだけに、逆に予想を大きく下回った場合には、失望売りで急落となる可能性があります。
今回の雇用統計はダウンサイドリスクのほうが大きいと見ておくべきです。
香港をめぐる新たな米中冷戦
昨日(6月30日)、中国による香港の政治統制を強めるための「香港国家安全維持法」が施行されました。
詳しくは新聞報道などを読んでいただくとして、予想以上に厳しい内容だと思います。
これにより、香港の民主主義と自治が失われ、一国二制度は形骸化することが確実になりました。
米国は米国で、香港の自治制限に関与した個人や組織に制裁を科すことができる「香港自治法案」を近く成立させる見通しで、今後は中国企業などに対する資産凍結や金融取引停止などの制裁が可能となります。
米中の対立は貿易摩擦だけでなく、政治的な冷戦にエスカレートしていくことが避けられなくなりました。
このリスクについても、株式市場は過小評価(気付いていないふり?)しているように思えます。
結論:ドル買いは控えたい
- コロナについては今後第二波が「津波」となるおそれがあること。
- 米国雇用統計は強い結果でも喜べない反面、ダウンサイドリスクは大きいこと。
- 香港をめぐる新たな米中冷戦が勃発したこと。
現在の株式市場はこうしたリスクを軽視しており、依然として楽観的過ぎると思われます。
108円台をつけたドル円も買われ過ぎの可能性があり、戻り売りの機会ととらえるか、少なくともここから積極的に買い進むことは避けたいところです。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから