一週間のハイライト(7月29日~8月4日)
米中の政治的対立エスカレートやコロナ感染第二波による米景気の先行き不安を背景にドル売りが強まり、先週金曜日には一時104.19円まで下落。
前回の当レポート
では上記のほか、財政ファイナンスによるドルの価値希薄化懸念や8月のドル安円高アノマリーなどを挙げ、ドル売りスタンスを取りましたが、まずはそのような展開となりました。
しかし米国株式市場が意外に落ち着いていたことからここで下げ止まると、週末・月末を前にしたショートカバーで自律反発となり、106円台を回復。
週明けもナスダック総合指数が史上最高値を更新するなど、主要株式市場が大幅高となったことから、ドル円も堅調な動きとなり、一時106.47円まで上昇する場面もありました。
7月のISM製造業景気指数が54.2と予想の53.6を上回るなど、堅調な経済指標にもサポートされました。
雇用の伸び鈍化は織り込み済み
今週は米国で重要な経済指標の発表が目白押しとなります。今夜は7月のADP雇用統計とISM非製造業景気指数、7日金曜日には雇用統計が発表になります。
いずれも回復の勢い鈍化を示す数字が予想されており、特に7月の非農業部門雇用者数は、前回の480万人増から167.5万人増へ伸びが大幅に鈍化する予想となっています。
今週の主な米国経済指標
日付 | 米国経済指標 | 前回 | 予想 |
---|---|---|---|
8月5日(水曜日) | 7月のADP雇用統計 | +236.9万人 | +120.0万人 |
8月5日(水曜日) | 7月のISM非製造業景気指数 | 57.1 | 55.0 |
8月6日(木曜日) | 新規失業保険申請件数 | 143.4万件 | 143.4万件 |
8月6日(木曜日) | 失業保険継続受給者数 | 1701.8万人 | 1694.0万人 |
8月7日(金曜日) | 7月の失業率 | 11.1% | 10.5% |
8月7日(金曜日) | 7月の非農業部門雇用者数 | +480万人 | +167.5万人 |
8月7日(金曜日) | 7月平均時給(前年同月比) | +5.0% | +4.2% |
しかし、市場は常に先を読み込むものであり、このところの景気回復の減速は織り込み済みと考えられます。
今回の雇用の伸び鈍化はコンセンサスであり、(再度減少に転じるとなるとさすがにネガティブサプライズでしょうが)プラスでさえあれば売り材料となることはないはず。
逆に、予想ほど減速しなければポジティブサプライズになりえます。どちらに転ぶかはわかりませんが、本家雇用統計の前哨戦となる今夜のADP雇用統計が一つの試金石となるでしょう。
これ以上悪くならない
米国経済がコロナ前の水準に戻るには最低2年かかるというのが定説です。しかし雇用にせよ経済活動にせよ、すでに最悪期は過ぎており、これ以上悪くならないことも事実。
今後は、V字型には戻らないとしても、ゆっくり回復するU字型か、二番底があるW字型か、あるいは二極化するK字型か、どのような経路をたどるかはわかりませんが、回復していくことは確かなのです。
米国のコロナ禍も沈静化の兆し
米国は依然コロナに最も苦しめられている国ですが、1日当たりの新規感染者数の推移を見ると、7月17日の75,821人をピークに減少に転じていることがわかります。
米国全土の1日あたりの感染者数 出所:Google、Wikipedia
先にパンデミックとなったニューヨーク州の推移を見てみると、4月の半ばにピークが来て、それからおよそ1か月でほぼ鎮静化しています。
ニューヨーク州の1日あたりの感染者数 出所:Google、Wikipedia
全米の感染がすでにピークを過ぎ、今後ニューヨーク州と同じ軌道をたどると仮定すれば、今月半ばには沈静化することになります。
今後は感染者数が減少傾向をたどるとともに、センチメントも好転していくというシナリオが浮上してくるのです。またワクチンの開発も急ピッチで進んでおり、年内に実用化するとの楽観的見方もあります。
大局観で言えば、コロナに関しても「依然厳しいが、最悪期は過ぎており、これ以上悪くはならない」フェーズに入ったと言えるのではないでしょうか。
そうなってくると、コロナ感染第二波拡大とともに加速したドル独歩安も一段落となり、今後は落ち着きどころを探る展開となる可能性が高くなってきます。
ちなみに、日本の1日あたり感染者数は依然増加傾向にあり、いつピークアウトするのか、今のところ見通しがつきません。
コロナのみを根拠に予想するならば、今後はドル安が一服し、円安となってもおかしくないことになります。
日本の1日あたりの感染者数 出所:Google、Wikipedia
なおこれらのグラフはGoogleで「コロナ 統計」と検索すると見ることができます。
相場の息吹
7月31日に、新型コロナウイルス対策の特例である失業給付の増額措置(週600ドル)が失効。
週200ドルに減額の上で年末まで延長されるとの見方が有力でしたが、与野党対立で協議が難航し可決できませんでした。
また中国企業が運営するTikTokの米国事業について、トランプ政権が強制売却を指示するなど、米中の対立は一段と激しさを増しています。
しかし米国株式市場はこれらを嫌って売られるかと思いきや、前述の通り、米国株式市場は三指数そろって大幅上昇。
つまり、売られるべき材料が出たにもかかわらず、相場は逆に上昇しているのです。これは「相場の息吹」の考え方では、強い買い勢力の存在を示唆しており、強気のサインです。
筆者は、米国株の急落が唯一にして最大の円高トリガーと考えていますので、米国株式市場が強気局面にあるならば、円高・ドル安のシナリオはぐっと薄くなることになります。
結論:ドル独歩安は一服 ドル円も当面底入れへ
ドルを積極的に買うべき材料も見当たらず、ドルが持続的に上昇する見通しは持てないものの、少なくとも先週までのドル独歩安局面は一段落したと考えていいと思います。
ドルと円がリスクオン・オフに合わせて同じ方向に動くため、ドル円は大きな値動きは期待できませんが、先週付けた104.19円は当面の底値となる可能性が高く、今後しばらくの戦略としては中立スタンスの範囲内での押し目買いが適切と考えます。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから