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リスクオン相場とリスクオフ相場とは

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市場はリスクオンかリスクオフのどちらかである

投資の世界では「リスクオン」とか「リスクオフ」という言葉をよく耳にします。ふだんの生活ではあまり使用しない、投資の世界ならではの専門用語といっていいでしょう。

ではこの「リスクオン=Risk On」、「リスクオフ=RiskOff」とはどういう意味でしょうか。まず、言葉から意味を類推してみましょう。

Risk Onとは「リスクに乗っかる」あるいは「~に賭ける」という意味があります。Risk Offには「リスクから離れる」という意味があります。

この二つの言葉は、いってみれば、「市場の心理状態」を現しています。市場のリスクが高まっているのか、市場のリスクが低下しているのかを、表現しています。

では市場リスクとはいったいどんなリスクのことをいうのでしょうか。

日銀の「金融検査マニュアル」によると、「金利、為替、株式等のさまざまなリスク・ファクターの変動により、資産・負債(オフバランスを含む)の価値が変動し、損失を被るリスク、資産・負債から生み出される収益が変動し、損失を被るリスクのことをいう」とあります。

具体的には、

  • ① 金利リスク 金利変動に伴い損失を被るリスクで、資産と負債の金利または期間のミスマッチが存在している中で金利が変動することにより利益が低下ないし損失を被るリスクをいう。
  • ② 為替リスク 外貨建て資産・負債について、ネットベースで資産超または負債超ポジションンが造成されていた場合に、為替の価格が当初予定されていた価格と相違することによって損失が発生するリスクをいう。
  • ③ その他の価格変動リスク 株式、仕組商品などの価格の変動に伴って、資産価格が減少するリスク。

などがあげられる。

お金、とくに「投資マネー」は元来、臆病で、それでいて天邪鬼です。

たとえば、市場のリスクが高まれば、リスクのない(あるいは少ない)安全な資産に向かっていきますし、市場リスクが低くなったら、今度はリスクの高い資産に向かっていく、性質をもっています。

新興国リスクが高まれば、安全な先進国へ資金が流出しますし、原油リスクが高まれば、金や銀などへ投資マネーは向かいます。

あるいは、株式相場のリスクが高まれば、国債など債券市場へ資金は流れていきます。

また、とくに為替市場では市場のリスクが低下してくると、投資家は積極的にリスクの高い新興国の高金利通貨を買いやすく、流動性の高い米ドルや円、ユーロなどは売られやすくなります。

このように、市場のリスクが高まり、お金が安全な資産に向かっていく相場のことを「リスクオフ」といい、逆に、市場リスクが低下したため、今度はリスクの高い資産に向かっていく相場のことを「リスクオン」といいます。

言葉の意味のとおりです。ただこうした市場心理はころころ変わりやすいので、自分なりの判断尺度はもっていたほうがいいのではないでしょうか。

金融市場は常にこの二つの状態のどちらかを形成していることになります。

そのため、相場がいま「リスクオン」か「リスクオフ」かどうかを見極めることは、大事な資金を投資マネーにつぎ込む立場としては、非常に重要になります。

たとえば、2008年のリーマンブラザーズ証券が破綻したときには、「米ドル/円」相場は、米ドルが売られ、円買いが起こりました。

つまり、投資資金が米ドルから円に移行したというわけです。そのときの「米ドル/円」相場は、2008年8月には110円台をつけていたのですが、破綻後は3カ月で87円台から89円台まで価格を下げました。20円以上の下落です。

米ドルを抱えていてはリスクが大きすぎると思った投資家が安全通貨である円買いにいっせいに走ったために20円以上の価格の暴落が起こりました。

このときに、10万通貨の売りポジションを建てていたら、約200万円以上の利益を得たことになります。

「米ドル/円」が100円台を復活したのは、リーマンショックから5年後の2013年8月になってからでした。いわゆる円高不況と呼ばれる「リスクオフ」の時代です。

投資マネーが再び米ドルに向かっていくのに最低でも5年の歳月が必要だったというわけです。それだけにリーマンショックの爪痕は大きかったという証左になります。

「VIX指数」とは?

では、市場が今、リスクオンかリスクオフかを見極めるにはどうしたらいいでしょうか。

一般的には、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の株価をチェックすれば、おおよその市場の状態はわかりますが、数字としてはっきり、市場のリスクがどうなのかを判断する目安となるのが、「VIX指数」と呼ばれる指標です。

このVIX指数(Volatility Index)は別名「恐怖指数」とも「びっくり指数」ともいわれています。

シカゴのオプション取引所(CBOE)で取り引きされているボラティリティ・インデックスの略称で、CBOEが、アメリカの主要な株価指数であるS&P500種株価指数を対象とする株価指数オプション取引の値動きをもとに算出した指数のことです。

ここでいうボラティリティとは、一般的に価格変動の度合いを示す言葉で、「ボラティリティが大きい」という場合は、その商品の価格変動が大きいことを意味し、「ボラティリティが小さい」という場合は、その商品の価格変動が小さいことを意味します。

つまり、ボラティリティとは、価格の変動を意味しています。ですから、変動が激しい相場になると、損失が大きくなるのではないかという恐怖心を投資家は抱いてしまいます。

そして、投資マネーを市場に投入することを控えるようになったり、別の金融市場の商品へ投資マネーを移してしまう傾向が生まれてきます。

そんなとき、VIX指数の数値は高くなっているのではないでしょうか。

VIX指数は、投資家の市場に対する恐怖心や不安感、信頼感を数値で表したもので、この数値が高ければ高いほど、投資家は市場に対して不安になったり、恐怖心を抱いているといえます。

VIX指数は20が目安

では、VIX指数はどう判断したらいいでしょうか。

通常、いわれていることは、VIX指数が20を割っていれば、市場心理は落ち着いているといわれています。

そして、20を超えると市場心理は悲観的、30を超えると市場全体が総悲観的な状態になって、投資家は投資意欲を失い、市場から撤退する動きさえ見せます。

たとえば、ダウ工業株30種平均に投資していたマネーは引きあげられ、国債などの債券の購入に回ったりします。

リーマンショック

これまでVIX指数が20を超えた例はいくつもあります。ここ20年以内でVIX指数が最大になったのは、2008年のリーマンショックが起きた年です。

リーマンショックとは、2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)の経営破綻をきっかけに、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象のことです。

なお「リーマンショック」は欧米では、「the financial crisis of 2007–2008」(2007年から2008年の金融恐慌), 「the global financial crisis」(国際金融危機), 「the 2008 financial crisis」(2008年金融危機) などと呼ぶのが一般的だそうです。

このとき、VIX指数は最大で96.40まで上昇しました。いかに市場が厳しい状態に置かれたかを推察することができます。

ダウ工業株30種平均株価は、2008年9月には1万1114米ドル08セントをつけていたのですが、2009年2月には7690米ドル49セントまで下落しています。

「米ドル/円」は、2008年8月には110円台をつけていましたが、2008年12月には87円台に下落しています。

株式市場から資金が逃げ出し、為替市場では米ドルの投げ売りが始まり、安全資産と考えられていた円が買われたというわけです。

では、市場が高いリスクに見舞われた印象に残っている事象を時系列的に見ておきましょう。まず、まだ記憶に新しい2001年9月の米国同時多発テロ事件です。

米国同時多発テロ事件

この事件は、2001年9月11日にアメリカ合衆国で同時多発的に実行された、イスラーム過激派テロ組織アルカーイダによる4つのテロ攻撃の総称をこういいます。

一連のテロ攻撃による死者は2996人、負傷者は6000人以上にのぼり、被害額は最低でも100億米ドルといわれています。

この事件が契機となって、アメリカはテロとのグローバル戦争(GWOT: Global War on Terrorism)の標語を掲げ、アルカーイダやアルカーイダに支援を行った国への報復を宣言し、アフガニスタン紛争、イラク戦争に突入することになったのです。

このときのVIX指数は43.74でした。市場のリスクは相当高くなっています。ダウ工業株30種平均株価(月足)は、1万ドルをわって9042米ドル56セントでした。

9月11日の「米ドル/円」は、最高値122.100円で最安値は118.520円ですが、約10日後の9月2-0日には、115円79銭まで下落していました。

テロ事件の影響でVIX指数が通常よりも高くなっていることから、ダウ工業株30種平均も「米ドル/円」も下落をしてしまったということです。

イラク戦争勃発

次に、48.46のVIX指数をつけたのは、2002年7月のアメリカの企業会計改革法案が成立したときです。さらに、2003年3月17日にはイラク戦争が勃発しました。

ブッシュ大統領が終結宣言をしたのは5月1日のことです。3月のVIX指数は高値33.65ですが、終値は29.15でした。

5月の終結宣言がでたときのVIX指数は高値21.59、終値19.09と平常値に戻っていました。ダウ工業株30種平均は3月は7977米ドル23セント、終結宣言がでた5月には8623米ドル31セントと値を上げています。

「米ドル/円」(日足)は、アメリカ軍がイラク侵攻を開始した3月17日の終値は、118.710円でしたが、3日後の3月20日には118.910円と値を上げました。

その後は上下に価格が動き、終結宣言の5月1日の終値は、118.590円でした。世界大戦とまでいかなくても、戦争は株価下落の大きな要因になります。

ということは、投資家が金融市場に対して嫌気を感じているということになりますし、不安感や恐怖心を抱きやすくなります。

さらに、「米ドル/円」が17日から20日にかけて上昇したのは、アメリカ軍の圧倒的な物量にアメリカの攻勢を期待して、米ドルが買われたのではないでしょうか。

ギリシャのデフォルト懸念

続いて2008年9月のリーマンショックがくるわけですが、前述の通りです。さらに、2010年5月には、ギリシャのデフォルト懸念が世界の金融市場を揺さぶりました。

財政赤字が膨らんでいたギリシャは2010年1月15日、3カ年財政健全化計画を閣議で発表しましたが、格付け機関は、ギリシャ国債の格付けを引き下げ、債務不履行の不安からギリシャ国債が暴落。

2010年4月23日にはギリシャが金融支援を要請しました。IMF、欧州委員会、ECBは、2010年からギリシャに金銭支援を行い、金融支援の条件としてギリシャに緊縮財政政策をとるように要求。

2010年4月にユーロスタットが発表したギリシャの財政赤字は、13.6%にのぼり、2010年2月から断続的にストライキ、デモが行われ、2月と3月には追加の財政再建策撤回を求めてギリシャ労働総同盟・ギリシャ公務員連合が24時間のゼネラル・ストライキを行い、275万人が参加しました、ギリシャがこのような財政危機に陥った要因は、「身の丈に合わない年金制度」「政権交代のたびに拡大を続けた大きな政府」「脱税文化を持つギリシャ」などがあげられます。

幸い、IMFやECB、欧州委員会の財政支援でギリシャはデフォルトを逃れることができましたが、このデフォルト騒動で株価やユーロへも影響を与えることになりました。

ギリシャのデフォルト時のVIX指数は、48.20と高く、ダウ工業株30種平均株価(月足)は、2010年5月(月足)は、1万500米ドル13セントで取引されました。ダウは下降しないで、年初に比べると上昇しました。

為替相場は、「ユーロ/米ドル」が、2010年1月10日の週に終値1.43857米ドルをつけたあと下落していき、5月30日の週には1.19671米ドルまで下落しました。

このように、ユーロ圏でリスクが高まると、ユーロは売られやすくなります。

米国の格付け引き下げ

米国の格付けが引き下げられたのは、2011年8月のことです。

アメリカの格付け機関スタンダード&プアーズ(S&P)が、8月5日にアメリカの長期発行体格付けをAAAからAA+に格下げしたことで、世界の株式や債券、通貨市場へショックを与えました。

このときのVIX指数は48.00とかなり高くなりました。

ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均株価は、米国の格付けが引き下げられるのではないかという噂が出回っていた7月後半、7月24日に終値1万2592米ドル90セントだった株価が、格付けがなされた8月5日以降も下げ続け、8月10日には1万719米ドル94セントと、1872米ドル96セントも値を下げました。

「米ドル/円」は、7月の終わりから値を下げ続ける下降トレンドが9月中旬まで続きました。

英国のEU離脱

EU、欧州連合からイギリスが離脱するという気運が盛り上がり、2016年6月23日、EU離脱を国民に問う国民投票が実施されました。

開票の結果、残留支持が16,141,241票(約48%)、離脱支持が17,410,742票(約52%)であり、離脱支持側の僅差での勝利となりました。

投票率は約72%。この結果を受けてイギリスの欧州連合離脱(ブレグジット、Brexit)が決まり、英国は2020年1月31日午後11時(GMT)(日本時間2月1日午前8時)、欧州連合から離脱しました。

国民投票の前日の6月22日のVIX指数は17から18の間でした。多くの人たちが、イギリス国民はEUに留まる選択をすると思っていたため、市場心理は平静そのものでした。

ところが、EU離脱の結果がでた23日、VIX指数は26.72まで上昇したのです。この結果をうけて、6月24日の為替市場は軒並み、価格が暴落しました。

まず、「ユーロ/円」は始値120.637円だったものが、109.426円までなんと11円以上も下落しました。「ユーロ/米ドル」は、始値1.23840米ドルから1.09113米ドルまで価格を下げ、「ポンド/米ドル」は、始値1.4866米ドルから1.32290米ドルまで値を下げました。

ロンドン株式市場のFTSE100種は、始値6338.1ポイントから5788.7ポイントまで、549.4ポイントも価格を下げました。

ダウ工業株30種平均株価は、6月24日が休場だったため、6月25日の株価は、始値2万4462米ドル73セントから2万4084米ドル39セントまで一時、379米ドル34セントも値を下げました。

このようなビッグイベントでは想定していた結果と真逆の結果がでたら、価格は相当動きます。

新型コロナウィルスによるパンデミック

ここ20年で2008年のリーマンショック事件に次ぐ高いVIX指数を記録したのは、2019年末から今世界を震撼させている新型コロナウィルス感染拡大によるパンデミックで、世界中の経済が停滞し、株価に大きな影響を与えたケースです。

3月13日のVIX指数は77.57まで上昇し、18日には85.49間で上昇しました。23日には若干低くなりましたが、それでも76.74をつけています。

このとき、ダウ工業株30種平均株価は、3月13日が終値2万3185米ドル63セントでしたが、3月23日には1万8591米ドルと、4592米ドル64セントという大幅な下げを演じています。

ところが「米ドル/円」は、3月13日始値104.824円をつけたあと上昇していき、3月23日には一時,111.596円まで上昇しました。

株式市場から逃げ出した米ドルが、為替市場で米ドル買いに走ったというわけです。このとき、「米ドル/円」は、6円77銭も動きました。

VIX指数によって為替市場は動く?

通常であれば、金融市場が何事もなく静かなときには、VIX指数は10から20の間を行き来しています。10から20のレベルから下がると、市場は一種の膠着状態に陥ったようになります。

そんなときには、市場の値動きは小さくなって、つまり、ボラティリティが極端に低下してしまいますので、トレードがやりにくくなります。

値動きが小さくなったときは、トレードのうま味もあまりありませんから、いったんはトレードを休むのもいいかもしれません。

しかし、どうしてもトレードをしたいというのであれば、レンジ戦略で相場を攻めて見ましょう。相場はいつまでも静かな値動きに終始することはありません。

上に抜けるか、下に抜けるかはそのときの相場状況によって変わりますが、必ず、レンジから抜ける瞬間はきます。

トレーダーとして、その抜けるポイントをつかまえてトレードをすることで、利益をあげるのもいいかもしれません。

TED spreadとは?

TEDスプレッドとは、3カ月物米国短期国債(T-bill)の金利と、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の3カ月物ユーロドル(Euro Dollar)金利との金利差のことをいいます。

一般に、金融市場で信用不安が高まると、信用度の高い米国債が買われる(=利回りは低下する)一方で、ユーロドル金利は信用コストの高まりが懸念されて上昇します。つまり、TEDスプレッドが拡大します。

逆に、金融市場の信用不安が後退すると、TEDスプレッドは縮小していく動きになります。なお、「ユーロドル」とは、海外の市場(「ユーロ市場」と総称されます)で取引されている米ドルのことを指します。

ここ1年のうちでは、3月にTED spreadが上昇しています。このときに、株式市場や為替相場がどうなったかはすでに述べたとおりです。

これらの指標を使って、相場がいま「リスクオン」であるか「リスクオフ」であるかを見極めたうえで、トレードを行うことにしましょう。

辻秀雄氏プロフィール

辻秀雄氏
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから
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