一週間のハイライト(5月3日~7日)
ワクチン接種の進展による経済再開を期待したドル買いが先行し、週初は109.70円まで上昇。
しかし米4月のISM製造業景気指数の下振れ(予想65.0、結果60.7)をきっかけに戻り売りが入り、上値が重くなりました。
東京市場がゴールデンウィークの連休中で取り組み意欲も低下する中、しばらく109円台前半で一進一退の推移。
金曜日に発表された米4月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想を大幅に下回るネガティブサプライズとなり、一時108.34円まで売り込まれました。
米国労働市場は弱いのか?
米国雇用統計は、非農業部門雇用者数が+26.6万人と予想の+100万人を大幅に下回り、2月と3月の数字も計7.8万人下方修正。
失業率は6.1%と予想(5.8%)に反して前回の6.0%から悪化しました。
パウエルFRB議長が先月のFOMC後の会見で述べた通り、失業率は依然高く、まだ多くの人が離職していること示しています。
労働市場にスラック(弛み)がある中ではインフレ期待は高まらず、金融緩和解除の議論は時期尚早というFRBの見解が一応裏付けられた形となりました。
ではパンデミック直後の落ち込みから回復を続けてきた米国労働市場は、再び悪化に向かうのでしょうか。
労働市場は本当に弱いのでしょうか?
まず、非農業部門雇用者数は季節調整されており、春で雇用が増える4月は季節調整の影響を大きく受けるという点に注意が必要。
実際、4月の雇用者数は「季節調整前」のベースでは108.9万人増加しており、3月(+117.6万人)とそん色ない雇用が創出されているのです。
本家の労働統計局より正確ともいわれるADP雇用統計では+74.2万人という数字が出ており、今回の非農業部門雇用者数は季節調整がかかりすぎている(のちに上方修正される)可能性があると思います。
次に、失業保険給付の上乗せ延長の影響で、職場復帰できるのにそうしない人がかなりの数存在するという点です。
最低賃金の仕事をするくらいなら、手厚い失業手当をもらいながら失業していた方がマシというわけです。
おかげで人手不足の小売りやサービス業などの現場では時給を引き上げざるを得ず、平均時給は前月比0.7%も上昇しています。
労働市場は弱いのではなく、労働力不足。つまり需要と供給のミスマッチが起こっているのです。
この失業保険給付上乗せは9月までの措置ですが、この給付が雇用の回復をかえって妨げているとの批判も多く、再延長はない見通し。
となると、この期限の直前には求職者が急増し、雇用者数を押し上げ、失業率を押し下げる公算が大きくなります。
5月・6月は今回と同じような結果になるかもしれませんが、7-9月の雇用統計はミスマッチが解消され雇用回復が加速する可能性が高いと思います。
金利市場は依然インフレ警戒
実際、金利市場も表面的には弱い雇用統計に失望したような反応を示しましたが、本心では早期利上げやテーパリング開始の見方を捨てていません。
10年債利回りは雇用統計直後こそ急低下したものの、結局下げを帳消しにしています。
インフレ期待は逆に高まっており、10年債基準のブレークイーブン・インフレ率は2.50%まで上昇し、2013年以来の高水準となりました。
このように、労働市場は回復がストップしたり悪化に向かっているのではなく、テクニカルな要因に阻まれているのだとすれば、この夏にかけて、雇用が急激に回復し、インフレ期待が再び強まり、金利が上昇する可能性が高い。
上記の見方に従えば、これでドルの上昇局面が終わったとか、ドルが下落トレンド入りするという予想も的外れということになります。
むしろ雇用統計のミスリーディングな結果で下げたところはドル買いの好機ととらえねばなりません。
株式市場はいいとこ取り
一方米国株式市場は、低調な雇用統計を「緩和縮小懸念が和らいだ」と受け止めて上昇。
NYダウとS&P500は史上最高値を更新しています。
「ワクチン接種進展による経済再開」と「労働市場のスラックを背景とした緩和継続」という相反する材料をいいとこ取りしながら、今後も上値を追う展開が続きそうです。
金曜日のドル円相場が急落後横ばいの動きになったのは、株高を受けたリスクオンの円売りが下支えになったからです。
株式市場がこうしたセンチメントであるうちは円独歩高を心配する必要はなく、ドル円は107円台にかけて押し目買いスタンスで臨むのが得策です。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから