FXトレードの世界では知らない者はいないといっても過言ではないのが、プロトレーダーの為替鬼さんです。
ご本人に自己紹介をしてもらうと次のようなメッセージがかえってきました。
「こんにちは。為替鬼こと、津田英明と申します。
私は1分~数分で完結するスキャルピングと呼ばれるスタイルで、 毎日100回前後のFX取引を行っています。
公式サイトやブログでは、日々のトレード履歴はもちろんのこと、 エントリーや決済ポイントのチャート画像を公開しています。
人間という生きものは、ほとんど例外なく、投資で負ける行動をするようにできています。
初心者が何の知識も手法も持たずに参入すれば、アッという間に資産を失うのがFXです。
公式サイトやブログでは、FXで勝ち続けるために不可欠な、知識や手法をご紹介しています」
FX歴は約18年、好きな通貨ペアは「米ドル/円」「ユーロ/米ドル」「ポンド/円」です。
いつも使っているテクニカル分析は、エンベロープと移動平均線です。
FX黎明期からトレードを始める
まず、簡単に為替鬼さんのプロフィールをご紹介ください。
FXを始めたのは、2002年です。
FXが個人に解禁になって4年後ということで、かなり初期の段階でFXを始めたことになります。
最初はまったく勝てませんでした。
当時は、スプレッドも広くて、別途に手数料がかる時代でした。
ですから当然のように、比較的長期のトレードを行っていました。
当時は、私は金融業界ではなく、教育業界で仕事をしていました。
最大手の予備校で英語を10数年にわたって教えていました。
その合間に投資を行っていた感じですね。
2006年ぐらいからFXのスプレッドが随分狭くなってきましたので、その頃から少しずつ勝てるようになってきました。
2007年ぐらいから、スプレッドが1pip以下というFX業者が出始めてきました。
そこから、どんどん大きく勝てるようになりました。
そんなときに、ある日突然、ニューヨークにあるFXDDという海外のFX業者からメールで連絡があり、かなり驚きました。
それは、シグナルプロバイダー、つまりトレーダーとして契約をしないかという話でした。
結局、契約はしましたが、短期間でお役御免となりましたが。
私はブログを書き始めて、毎日、自分の取引履歴を載せたり、動画で私のトレード内容を紹介し始めました。
そうすると、毎日のPV数が数千から一万近くにもなりました。
そして、大手出版社からFXトレードについての書籍の執筆を依頼されたり、2008年の末からは、日本で唯一のFX専門情報誌である月刊「FX攻略.com」に原稿の連載を始めました。
自分のトレードができない契約トレーダーへ
その間、日本橋にある証券会社でプロップ・トレーダーとして働いたりしました。
しかし、契約トレーダーとしてFX取引をやってみたのですが、勝ち続けるのは非常に難しいと感じました。
証券会社や海外のFX会社のトレーダーといっても、従来の自分のトレードスタイルを貫くことができるわけではなく、さまざまな制約があります。
たとえば、同時に2通貨ペアのポジションを持ってはいけないとか、必ず損切りは何pip以下とか、ナンピンや両建ては駄目など、取引を行うにあたって、いろいろ条件を突きつけられました。
私たちは為替部門でしたから、株式取引部門のトレーダーが引上げる午後4時ころぐらいにトレーディング・ルームに入って、なかには終電に間に合うように帰るトレーダーもいましたが、私はいつも翌日の始発電車の時間まで、トレードをしていました。
しかし、両手を縛られて戦うような感じで、なかなか良い結果が出せませんでした。
結局、その証券会社の為替部門は廃部になってしまいました。
トレードの楽しさを実感し、着実に利益を上げる
それからは、証券会社やFX業者のトレーダーとして契約するのではなく、自分自身でトレードを始めるようになりました。
自分でトレードを始めて見ると、ポジションは何日持ってもかまわないし、毎日トレードをしなくてもよいし、複数の通貨ペアのポジションも持てますし、両建てやナンピンもできるなど、まったく縛りがないトレードができることによって、トレードの楽しさを実感するようになりました。
そうやって着実に利益を上げることができるようになってきましたが、自分ひとりの為替運用だけでは生活の糧として安定しません。
そこで、運用手法を分散するためにも、運用スタッフを雇い、自分の会社の資金を運用するかたちをとりました。
そのうちに、上手なトレーダーが育ってきましたので、次に投資教育や情報商材の分野へも進出しました。
現在は、セミナーなどを開催して、生徒さんにトレードを教えたり、投資助言を持っているファンドでトレーダーとしても働いています。
きっかけはデモトレードコンテスト
けっこう波瀾万丈な人生ですが、FXを始めたきっかけはなんでしょうか?
それは、2000年か2001年頃だったと思いますが、当時、FX業界最大手だった外為どっとコムが優勝賞金や商品が出るデモ口座のコンテストをやっていることを知り、そのコンテストに参加したことがきっかけで、FXにどっぷりはまってしまいました。
当時、車で通勤していたのですが、信号で止まるたびにチャートを見ながらトレードをするというあり得ないこともやってましたね。
先ほども述べましたように、2002年からFXトレードを始めて、最初は本当に勝てませんでした。
ただ、私には、昔からひとつのことだけをものすごく集中して行うという癖があり、たまたまFXに出合って、運が良かったと思っています。
デモトレードがFXの最初ですか?
最初のきっかけですね。
デモトレードコンテストの賞金や景品目当てで、コンテストに参加しました。
車などが当たるという……。
車とか現金とか、賞品につられてトレードを行いました。
そのうちに、デモトレードをやってもあまり役に立たないことに気がつき、実際にお金を注ぎこんで、トレードを始めたのですが、何度も何度も痛い目に遭って、それこそFXを考えたくないほど、負けた時期もありました。
人間、お金がないと、悪い面が出てきて、NHK受信料の集金人の方とか、払っていなかった健康保険の徴収にきた方と、玄関口でよく喧嘩をしました。
ですから、お金がないと、人間卑しくなるんだなと、つくづく感じましたね。
――地獄を見たわけですか?
本当に地獄を見ました。
中途半端な気持ちでトレードはしない!
負けてもっともショックが大きかったのは?
マックスでいうと、4,5年前に含み損で8000万円近くになったときですね。
その時たまたま、WEBセミナーの講師を頼まれていて、そんな巨額の含み損を抱えたままセミナーの講師を務めて、冷や汗をかいたことを覚えています。
長期的な視点で見と、勝てる時期も負ける時期もあるのは当然なのですが、勝てるときに大きく勝たないと、それなりの利益を上げることはできません。
中途半端でFXトレードをやるぐらいなら、やらないほうがいい。
もしくは、少し距離を置いて、月いくらまでと使う金額を決めて、趣味感覚でやるのはいいと思います。
初心者を対象にFXセミナーを開いてビックリするのは、初心者なのに平気で何百万円、何千万円も注ぎこむ方が少なくないことですね。
私がセミナーを行うときにまず始めに言うのが、「FXなんて止めておいたほうがいいですよ」という言葉です。
そう言うと、セミナー主宰者には嫌な顔をされたり、なかには控え室で「まずいですよ、せっかく口座開設を勧めているのに、一番最初に勝てるわけがないというのは止めてください」と、私にお説教する人もいましたね。
FXで勝ち続けるのは難しい でも、どんな業界でも「不都合な真実」というのはあるもので、アメリカでは、ブローカーは四半期に一度、自社の顧客の何%が勝っているのかを公開しなければなりません。
それは「ドッド・フランク法」という法律で決められています。
そのデータをしっかり精密にみてわかることは、1年を通じてFXで勝っている人は、5%だとよく言われていますが、実際その通りなんです。
1年間を通して勝っている人が5%ということは、数年単位で見ると、ほとんどの投資家がFX市場からの退場を余儀なくされている計算になります。
これは、実は私の肌感覚とぴったり合っていて、FX市場で3年間以上、生き残っている人はものすごく非凡な人か、潤沢な資金を持っている人かのどちらかです。
そういう意味では、FXで勝ち続けるのは途方もなく難しくて、勝つ道はものすごく狭い道なのです。
「運」が重要
ですから、トータルで勝つうえでいちばん何が重要かと言えば、意外かもしれませんが、「運」と言っても過言ではありません。
どんな業界でも、成功している人には運があるからです。
ただ、運を引き寄せるための努力をしなければ、運は向こうからやってきませんし、運が舞い込んできたときにしっかり儲けることが重要です。
なぜなら、2度、3度と勝利の女神は微笑んでくれませんから。
FX初心者はどういうわけか、どこでエントリーし、どこで決済するかという売買ロジックそのものをすごく気にかけていますが、それだけで勝ち続けるのはほとんど不可能だと確信しています。
なぜなら、為替相場の値動きは極めてランダム・ウォークしていて、どこをとってもなかなかエッジ(優位点)がありません。
その意味で、私がしていることは、四六時中、値動きがランダムでないところを見つけること、そのひとことに集約されますね。
目の前の動きについていく
為替鬼さんと言えば、超短期のスキャルピングが知られていますが、そこにたどり着くまでにどんな取引スタイルを経てこられましたか?
最初に申しましたように、スプレッドや取引手数料がかかる時代には超短期トレードは無理なので、デイトレか、2日~3日ポジションを保有するスイングトレードを行っていました。
でも、今になってよく考えてみると、そのトレードスタイルは、運の要素が大きすぎる気がします。
もちろん、運が重要というのは確かなのですが、超短期のスキャルピングとなると、運と腕の兼ね合いで言うと、まだ腕のほうが重要になります。
運が3割、腕7割程度でという印象ですね。
よく初心者の方から、「為替鬼さん、これから『米ドル/円』はどちらにいきますか」と、尋ねられますが、そんなことは誰にもわかるはずがないということが、どうしてわからないのかと不思議に思ってしまいます。
相場は基本的に、上がるか下がるかしかありませんので、投資家はそれをあてるものだと思いがちです。
しかし、われわれスキャルパーが行っているのは、「米ドル/円」が1カ月先、あるいは数日後どうなるかを予測するのではなく、ただ目の前の値動きについていくことです。
それこそが、もしかたら、唯一勝てる可能性のある手法で、これが1カ月先だとか、1週間先だ、3日後だとやっていたら、結局、運に頼るしかないと感じます。
未来の値動きを予測することは無理
私は証券会社に勤めていたので、金融関係の友人が多くいますからわかりますが、相場の予想だけを専門に行っている世の中の天才たち(クオンツという)東大やMITの大学院を卒業し、金融工学や行動ファイナンスなどを徹底的に勉強した人とか、ロケット工学を修めたサイエンティストですら、未来の値動きが予想できないにもかかわらず、われわれのような一般投資家が未来の値動きを当てることなどできるわけがありません。
投資の世界というのは、投資ファンドや金融機関、投資銀行などがアルゴリズム取引と呼ばれる超高頻度の取引を行っています。
マイクロセカンド(100万分の1秒)とか、ナノセカンド(10億分の1秒)の世界です。
そんな世界に対して、われわれ一般投資家が勝てる余地はほとんど残っていないということです。
そういう意味では、投資の世界で勝ち続ける可能性があるのは、究極の技術をマスターした職人レベルの投資家だけです。
職人レベルとは、たとえば、1ミリの10分の1、100分の1の違いを指先で感じ取るとか、超精密なコンピュータですら感じ取れない違いを、なんとなく感じ取れる、いわゆる匠の世界ですが、投資の世界でそのレベルまでいけば、確かに勝てる可能性はありますね。
われわれはそこを目指して、日々、FXに関する鍛錬をしているわけですが、それが一般の方にできるかと言えば、なかなか難しいと思います。
短期トレードのほうが勝ちやすい
短期トレードのほうが長期トレードよりも勝ちやすいということですね?
少なくとも私はそう思います。
短期のほうが値動きのランダムな要素が少ないので、勝ちやすいように感じます。
たとえて言うなら、台風の進路予想というのがありますが、1週間後の台風の位置よりも、1時間後の位置のほうが正解に予想できるのと同じです。
私が行っているのは、相場が歪んだときに、その歪みが消える前にエントリーをして、歪みが消えたらすぐに逃げるような、時間にすると短い時には5秒、10秒といった世界です。
そうすると、たとえば、2016年の6月24日にBrexit、つまりイギリスがEUから離脱することが決まりました。
その時、「ポンド/円」は一時間で27円ほど急落しました。
あのとき私は、売って、売って、売りまくるトレードをしました。
売りが売り呼ぶ局面ですから、思い切り売るべき相場でした。
つまり、その時間帯は値動きの確率は上昇が50%、下落が50%ではなく、下落一辺倒に歪んだのです。
その意味で、レートが大きく動いたときは、値動きは50%、50%の確率にはならず、効率的市場仮説が崩れるのです。
でも、そういう大きなイベントなどの要素がないときは、値動きはほとんどランダム・ウォークをしていて、そうそう勝てません。
値動きが極端に小さい時は、とくに勝てません。
ですから、私やうちのトレーダーが行っていることは、乖離率と呼びますが、今の値動きが平均からどのぐらい乖離したときに、そのレートが戻る傾向にあるのかを検証して、トレードに応用しています。
そして、このぐらいの乖離率だと値が戻る、あるいはさらに進むというのを見極めて、張る方向を判断するのです。
値動きが大きく動いたときに、そこに収益機会を見つけて、相場の歪みを狙ってそこに特化してトレードをすることが、利益を上げる基本です。
あとは、仕事上まったくトレードをやらないというわけにはいかないので、あまり儲かりそうもない局面では、資金を小さくしてトレードをするという感じですね。
1日のトレード回数は100回程度
超短期のスキャルピングだと1分以内ということですが、1日どれぐらいのトレードを行っているのですか?
トレードの回数はかなり多いほうでしょうね。
今までで一番多いときで、1日600回以上もトレードをしたことがあります。
1日で?
自動売買ではなく、人間の手でトレードをしますから、けっこう大変です。
でも、1日600回というのは極めて特殊なケースですね。
トレード全体でならすと、1日のトレード回数は、100回ぐらいです。
でも、100回でも多いほうだと思います。
うちのトレーダーのなかには、1日10回もやらないトレーダ-もいますし、私のように歩きながらスマフォでチャートを見みながらトレードをしている者もいます。
多種多様なトレード手法で投資して、そのトータルでプラスになればいいと思っています。
トレーダーの腕を見分ける方法とは
勝ち続けるのは難しいとおっしゃいましたが、1日100回のトレードをしたときの、勝ち負けの比率はどのぐらいですか?
勝率は基本的に高めです。
そもそも、1日100回のトレードを行っているということは、勝っているからこそ可能なことなんです。
トレード回数が多い人は、実際に勝てているからこそ、たくさんトレードを行っているわけです。
もし負けていたら、そもそもお金がなくなって、トレードを続けられませんから。
あるトレーダーさんがうまいか下手かを見分ける方法は、ふたつあります。
ひとつは、相場を張るときの枚数です。
売買ロット数が小さいと、ちょっと怪しいなと思います。
なぜなら、腕に覚えがあったら、1回のトレードにかかる時間は枚数に関係なく同じですから、枚数を多くしてトレードをするのが合理的です。
もう一つは、トレード回数です。
回数が極めて少ないトレーダーは、運がいいだけかも知れないと感じます。
本当に勝てると信じているなら、トレードをバンバンやるはずです。
人間だれしも、勝てる自信があるときには、バンバンやってしまうものではないでしょうか。
ところで私の勝率ですが、1日100回のトレードをしているときは、80%前後は勝てます。
逆に、1日20回程度しかやらないときは、勝率は悪いですが、トントンより悪いことはほとんどありません。
そもそも、利幅と損切り幅の比率が違うので、単純に勝率50%だと利益が出ません。
60%以上の勝率がないとトントンになりません。
それ以上の勝率だと利益が残ります。
1日100回以上のトレードをするときは、85%から90%は勝っていると思います。
たとえば、あるときはわずか21回のトレードを行って、14勝7敗でした。
3回に2回勝っていますが、勝率が低いので21回しかやっていません。
1日21回程度のトレードだと、正直、暇すぎて退屈な一日という感じですね。
為替中心の生活をおくる
その日の取引で、手仕舞いは何によって決めておられますか?
基本的には時間で決めています。
為替相場は午後3時頃から動きますので、午後2時か3時ぐらいからPCに張りついて、ニューヨーク市場が引ける翌朝5時か、6時ぐらいまで相場を見ています。
取引をするのは深夜の2時半頃までが多いです。
負けたから止めるというのは、基本的にはしません。
とことん、最後まで値動きを追いかけるほうで、そこに収益機会があると思うと、1万円の利益でも貪欲に拾いにいってしまいますね。
人間というのは、僕の心が卑しいからかも知れませんが、利益をつかめると思ったら、朝の4時でも5時でもトレードをしてしまいます。
今日ここへインタビューに来る前も、朝の5時までトレードをして、それから仮眠をして、やってきました。
そういう意味では、為替中心の生活をおくっています。
ご自宅でもトレードをされますか?
自宅でもトレードしますし、事務所のトレーディングルームでももちろんやりますし、トイレでもやりますし、歩きながらでも電車のなかでもトレードをしますね。
旅行先でも、もちろんやります。
3人の息子たちにはよく言ってますが、「パパにとっての仕事って、お前たちにとってのゲームのように、本当に楽しいものなんだよ」と。
自分がしたい仕事を、したいときに、したいだけできる人って、そうはいないと思います。
すごく恵まれていると感じています。
今のこの状況がとても幸せだと日々、実感しています。
そんな生活、憧れますよね。
私の場合はただ単に運がいいだけかもしれませんが、やはり、運が一番重要ですね。
なるほど。
どこへ行くにもラフな格好で、内心、失礼だなと思いながらも、スーツは着ないし、ネクタイは絶対にしません。
取引先企業の社長さんと面談するときや、セミナーのときでも、Tシャツと短パン、あるいはポロシャツとジーンズで行くわけです。
そうすると、当の社長さんは常識がありますから、怪訝な顔をするわけです。
それでも、彼らの目的は金を殖やしてもらうことだから、われわれがどんな格好をしていても、結果を出せばOKですし、逆に、身なりがきちっとしていても、大きな損失を出したら首になります。
ですから、自分が仕事をしやすいスタイルで、とにかくFXトレードに勝ち続けることが最優先です。
ある一定のレベルを超えた人にのみ、メンタルは重要
ところで、FXトレードにおいて、メンタルは重要な要素ですか?
メンタルが重要だと多くの方が言いますが、私はその意見には、あまり賛同できません。
あくまでもこれは個人的な意見ですが、メンタルを重視しすぎる人は、そもそもエッジ(優位性)のある手法を知らない場合が多い気がします。
逆に言うと、どんなに心が強靱で、メンタルが強くても、持っている手法にエッジがなければ、長期的には必ず負けます。
どんなに心が折れなくても、手法そのものの期待値がマイナスならば、必ず負ける訳です。
逆に言うと、ある一定以上の技術を身に着けたあとならば、やはりメンタルは重要です。
なぜなら、怖くなったり、びびったりすると、本来ならポジションを建てるべきところで手が縮こまってしまう。
たとえば、月初めにいきなり数百万円負けてしまい、今月はやばいなと考えてしまうと、トレードが保守的になってしまいます。
そうすると、月末になっても、その損失を取り返すことができないで終わってしまいます。
本当にメンタルが強いトレーダーならば、相場では負けるときもあるのだから、いつも通りにやって、それで負けたらしょうがないと割り切ることができます。
投資とはそういうものです。
その意味で、ある一定のレベルをかいくぐってきた人にのみ、メンタルは重要であって、初心者や中級者にとって、メンタルが重要だというのは、私には疑問です。
投資で重要な3つの要素とは?
では、投資で重要な要素とは何でしょうか?
それは、3つあります。マインド(mind)や(menta)メンタルと、マネーマネジメント(money management資金管理)、そしてメソッド(methodトレード手法)です。
この3つのなかでもっとも重要な要素が、マネーマネジメントです。
その次に重要なのはメソッド、つまり取引手法です。
そして、最後がメンタルだと思います。
ただ、この3つがうまくかみ合わないとお金が殖えないのは事実です。
そういう意味では、自分が勝てないときに、どのMが欠けているのかを考えてください。
そうすると、大半の場合は、マネーマネジメントが欠けていることに気がつきます。
もしくは、メソッドがないかもしれません。
メンタルが欠けているということは、あまりない気がします。
95%の投資家が長期的には負ける世界ですから、勝つというのは、極めてレアケースなんです。
ところが、FXの書籍や雑誌は、FXで儲かった、儲かったとアピールするから、みんなが儲かると思ってFXをやるわけですが、目の前の壁は厚くて高く、いきなり勝てるものではありません。
勝てる人も、徐々に徐々に勝てるようになっていくのであって、いきなり大きな資金を注ぎこんで勝負するのは、やめておいたほうがいいと思います。
知識を勝てるための知恵に進化させることが重要
どんなふうにトレードに取り組んだらいいのでしょうか?
自分にはどういうトレードスタイルが合っているのかを、ある一定期間、自分なりに精査すべきですね。
つまり、トレードのやり方に絶対の正解はありません。
私の場合は前述したように、スイングトレードは合いませんでしたが、スイングトレードが合う人もいるでしょうし、デイトレが向いている人もいるし、ポジショントレードといって月単位のトレードがよい人もいるかもしれません。
私にはたまたま、超短期のスキャルピングが向いていただけです。
ほかに仕事を持っている人にはどうしても制約がありますから、そのなかで自分に合ったトレードスタイルを決めていけばいいと思います。
あとは、いろいろなトレード手法を試行錯誤しながら実践したり、情報商材やいろいろな人の意見を参考にしながら、勉強を積み重ねていけばいいと思います。
しかし、そうやって得たものは単なる知識に過ぎません。
その知識を勝てるための知恵に進化させるためには、長期間の鍛錬が不可欠です。
私が「こうやって勝っていますよ」と言ったところで、それを聞く側の人間にとっては単なる知識に過ぎません。
FXは、知識レベルで勝てるような、甘い世界ではないのです。
知識を自分の知恵にしないと、絶対に勝ち続けることはできません。
そういう意味で、私はセミナーの冒頭で、「どんなに今日、私が皆さんに勝ち方を教えても、明日すぐには勝てませんよ」ということを必ず申し上げます。
安すぎるセミナーは問題が多い
セミナーはどのぐらいの頻度でやっておられるのですか?
セミナーはわりと頻繁に行っています。
たとえば、ある証券会社では定期的にWebセミナーや会場セミナーをさせていただいていますが、毎回数百人の参加者があります。
それ以外でも、メディアやファンドから定期的にセミナーを頼まれますし、個人的にFXコーチングもやっています。
セミナーでは、自分の思っていることを嘘偽りなく、正直に述べるようにしています。
FXは極めて勝ち続けるのが難しい分野です。
ですから、セミナーを受けにきた方が、「仕事を辞めて、FX一本で食べて行こうと思っている」と言うのを聞くと、私は「それは止めたほうがいい、絶対に仕事は辞めないほうがいい、そんな甘い世界じゃないから」という本音をぶつけて、その後、彼が少しずつトレードが上手になるにつれて、最終的に仕事を辞めたければ、辞めるのもやむを得ないとアドバイスするというスタンスですね。
有料セミナーでは、生徒さんはどのぐらいの期間で卒業されるのですか?
基本的に週1回ずつセミナーを行って、5週間で完結するコースとなっています。
マンツーマンですか?
そうです。投資の世界では、安すぎるセミナーは問題があると感じています。
私がFXトレーダーとしてマスコミに出てまだ駆け出しの頃、9800円でセミナーをやったことがありました。
毎週100人ぐらいが参加するセミナーを毎週末に主催して、合計すると、2000人ぐらいを教えた計算になります。
しかし、その時の参加者のなかには、けっこう問題のある方もいて、セミナーの様子を2チャンネルに投稿されたりして、苦労しましたね。
もともと私は教育業界にいましたので、人に教えることや、人前でしゃべるのも嫌いじゃありません。
ですから、FX業者や証券会社、投資出版社とタイアップしてセミナーを開催し、自分の思いの丈をぶつけるのは大好きですね。
FXは夢のある金融商品
最後に、これからFXを始めたいと思っている方に対してアドバイスをお願いいたします。
まず、FXは個人だとレバレッジが25倍、法人口座だと100倍ぐらい、海外FXだと500倍程度効きます。
そういう意味で、FXは比較的少額資金でトレードができる数少ない金融商品で、やり方によっては資金を短期間に大きく殖やすことができる、夢のある世界、夢のある金融商品であることは、間違いありません。
ただ、夢があると同時に、FXに入れ込みすぎると、自分や家族の人生を大きく左右しかねないことにもなりかねないので、その点をよく考えて、自分の余裕資金で行うことが重要です。
しかも、最初から100万円、200万円の資金を注ぎこむのではなく、はじめは10万円程度ぶらいの資金で、それがなくなるまで真剣にトレードをして、仮に1カ月かそこらで資金が底をついたら、少し冷却期間をおいて、また10万円で取引を始める。
それを何回か繰り返すうちに、だんだんトレードが上手になっていく世界です。
1万時間の法則を実践
どんなことでもそうですが、一足飛びに上手になれるわけではありません。
昔から言われていることですが、「1万時間の法則」というものがあります。
どんなことでも1万時間訓練を行えば、ある一定のレベル以上にはなれることがわかっています。
たとえば、バイオリニストやピアニスト、アスリートなど、1万時間以上の訓練を行えば、それで食べていけるプロのレベルまでは到達できるという法則です。
逆に言うと、1万時間ほどFXに向き合わないと、安定的に勝てるようにはならないわけです。
そのことを考慮すると、これからFXを始めたいと思っているあなたが、1万時間トレードに打ち込めるかどうか、ということが試金石です。
私は毎日、15時間前後もFXに向き合って生活していますが、大半の人は1日せいぜい1、2時間ではないでしょうか。
1年間でわずか数百時間です。
一方、1日15時間以上、FXに取り組んで2年続ければ、1万時間に到達しますから、そうなると、大袈裟に言うと、ものの見え方が変わります。
私はオカルトの類を一切信じないほうで、そういったものに否定的な人間ですが、何万時間もトレードに費やしていると、この先、数秒後の値動きが感じとれるような気がします。
それは、ずっと値動きを見ていると、値動きには癖があって、こういったときには次はこうなるという値動きのパターンが、脳にすり込まれるからだと思います。
1万時間、集中してやれば、トレードにかかわらず、どんなものでもモノになるはずです。
まずは、自分の心に正直に「そこまでやる気概があるのか」をよく確認することです。
そして、それでもやると決心したら、真剣に取り組むことで、良い結果につながると思います。
最後に言いたいことは、FXでは、お金を儲け、豊かな人生を夢見てトレードをしているはずなのに、私の肌感覚から言えば、結果的に不幸になっている人が少なくありません。
そのことを肝に銘じて、FXに取り組んでいただきたいと思います。
以上が為替鬼さんとのインタビュー内容です。
あなたのFXトレードの参考になったでしょうか。
辻秀雄氏のプロフィール
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから