一週間のハイライト(6月11日~6月17日)
FOMCで2022年末までゼロ金利が維持される可能性が示されたことを受けてドル売りが強まったうえ、NYダウが一時1900ドル超の下落、2万5千ドル台割れとなったことを受けて、リスク回避の円買いの動きも加わり、106.58円まで下落しました。
しかし株安連鎖が一服し、NYダウが2万6千ドル台を回復すると、ドル円も107円台ミドルまで持ち直しました。
FRBが米社債の広範な買い入れを開始すると発表したことや、米政府が1兆ドル規模のインフラ支出を計画と報じられたこともサポートとなりました。
FOMC声明はこう読む
では先週行われたFOMCを振り返ってみましょう。
FOMCは米国の中央銀行であるFRBの最高意思決定機関であり、毎会合後に公表される声明文は、金融市場に携わる者であれば必ず目を通すべき重要資料です。
FOMC声明の全文(英語)はFRBのホームページからダウンロードすることができますが、手っ取り早く日本語で読みたい方は、ロイターなどが提供している日本語訳を利用するといいでしょう。
「FOMC声明全文 ロイター」で検索すると出てくるはずです。
一見とっつきにくいFOMC声明ですが、実は毎回ほぼ同じ手法で書かれており、前回と比較することにより、政策の意図を理解しやすくなります。
第1段落は、この難局におけるFOMCの決意を示したもので、「あらゆる手段を行使し、雇用最大化と物価安定という目標を促進する」と宣言しています。
これは前回から変更なしです。
第2段落は、米国経済と金融市場の現状評価です。新型コロナウイルスの感染拡大は「経済活動の急速な収縮と失業の急増を引き起こした」と評価していますが、経済対策を講じた結果、金融市場の状況は、前回の「家計や企業への信用の流れを損なっている」から「状況は改善した」へと上方修正されています。
第3段落は、米国経済の見通しと今回決定した金融政策です。
見通しは、前回・今回とも、「(コロナ危機は)短期的に経済活動、雇用、インフレの大きな重しとなり、中期的な経済見通しに著しいリスクをもたらすだろう」で変更なしです。
政策金利(FF金利の目標誘導レンジ)は前回・今回とも現状維持(ゼロ~0.25%)でした。
そのうえで、「経済がコロナ危機を乗り切り、雇用最大化と物価安定の目標を達成する軌道に乗ったと確信するまで、現在の政策金利を維持する」と前回の文言を踏襲しています。
これは市場との約束といえるもので、フォワードガイダンスと呼ばれています。
確信できるのはいつになるのかが問題ですが、FOMCの付属資料に掲載されているメンバーの金利予想(ドット・プロット・チャート)によると、少なくともあと2年半はかかるだろうということになります。
ドット・プロット・チャートは以下のようなもので、ドット(青い点)一つがメンバーの予想です。
17人中15人が2022年末まで現状維持を予想していることがわかります。
ドット・プロット・チャート 出所:FOMC付属資料
ちなみにこのチャートは3月・6月・9月・12月のFOMCで公表されます。
第4段落は、FRBの行動指針で、前回・今回とも雇用の最大化とインフレ目標2%を評価基準に挙げています。
これらはFRBの二大責務と呼ばれています。
第5段落は、当面の公開市場操作の内容です。
前回は、米国債および住宅ローン担保証券や商業用不動産担保ローン証券を必要なだけ購入するとしていますが、今回は「今後数カ月にわたって」、「少なくとも現在のペースで」という文言を加えています。
今回の無制限の資産購入が短期的な措置ではないと宣言したことになります。
最後の段落は、政策決定で誰が賛成し、誰が反対したかです。
前回・今回とも全会一致で決定したことがわかります。
為替相場へのインプリケーションは
米国のゼロ金利は少なくともあと2年半、場合によってはそれ以上続く可能性が高くなりました。
また無制限の資産購入により、FRBのバランスシートは膨張し、6月10日時点で7.2兆ドルと過去最大となりました。
今年末には10兆ドルを超えるとみられています。
これは日銀(約5.3兆ドル)の2倍近い規模です。
金利がほとんどつかないドルがじゃぶじゃぶとあふれかえっている光景を想像してみてください。
少なくともドルが持続的に上昇するシナリオを描くことは困難です。
株高が続けばリスクオンの円安とドル安が拮抗し現状維持できるかもしれませんが、株高が一服してしまえば、いつドル安・円高が進行してもおかしくありません。
当面は106-108円程度のレンジを想定しつつも、円高方向への備えは怠らない方がいいでしょう。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから