一週間のハイライト(5月21日~5月27日)
25日が米国のメモリアルデー、英国のスプリング・バンクホリデーで祝日となったこともあり、全体的に動意が乏しく、107円台での膠着状態が続きました。
日銀は22日、臨時の金融政策決定会合で中小企業に対する新たな資金繰り支援制度の導入を決定したものの、事前に報道されていた通りで目新しさはなく、反応はありませんでした。
25日には日本のコロナ非常事態が解除され、翌26日に日経平均は3月6日以来となる2万1千円台へ上昇しましたが、円相場への影響は今のところ出ていません。
動かない相場
前回からのドル円のレンジは107.32円~107.92円とわずか60銭にとどまりました。
1日ではなく1週間で60銭ですから、かなり狭いレンジです。
新型コロナウイルスがいつ終息するのか、また終息後の新常態はどのようなものか、市場も考えあぐねている、つまり誰も明確な方向感が持てないということなのでしょう。
今後一週間を見渡してみても、為替相場を動かしそうな重要イベントもなく、引き続き107円台中心のレンジ取引が続くと見るのが妥当でしょう。
振り返ってみると、4月半ば以来1か月半も、ほぼ106-108円の2円レンジに収まっています。
10円以上の乱高下となった2月~3月の反動(激しく動き過ぎて市場が疲れてしまった?)もあったでしょうが、経済や社会がこれだけ激動している中で為替相場がこれほど動かないというのはちょっと不思議だし、ある意味不気味でもあります。
ボラティリティーはさらに低下へ
オプションのボラティリティーを見ると、1ヶ月物で5%台前半、1週間物だと4%台半ばまで低下しています。
ボラティリティーとは何かを説明すると本が一冊書けるほどですので、ごく簡単に説明すると、「市場が予想する変動率」ということになります。
ボラティリティーが高いということは、市場が将来大きな変動を予想していることを示しています。
ボラティリティーが低いということは、市場が将来小さな変動を予想していることを示しています。
将来の予想は過去から現在の相場の動きによって決まります。
したがって、激しい値動きが続くとボラティリティーは上昇しますし、膠着相場が続けばボラティリティーはたちまち低下してしまいます。
コロナショック前の緩やかな円安局面では、ボラティリティーは1週間物で3%台まで低下した時もありました。
このまま今のような超安定相場が続けば、ボラティリティーはいずれ3%台まで低下するでしょう。
相場が膠着し、ボラティリティーが低下すると、オプションを買っている人は収益が得られず、払ったプレミアム(オプションの購入代金)が損となってしまいますので、買っていたオプションを売り戻して少しでも損を小さくしようとします。
そして、膠着相場で収益を上げようと、オプションをカラ売りする人が現れます。
こうしてオプションはさらに売られ、ボラティリティーは極限まで低下します。
過去の推移から見て、極限の水準とは1週間物、1か月物で4%だと思います。
ボラティリティー下げすぎは危険シグナル
ただし相場というものは、いつまでも一定水準で安定することはありえず、いずれは上下どちらかへ動き始めます。
その時にオプションをカラ売りしている状態だと、少し動いただけで大きな損失が発生してしまいますから、損失を食い止めるために、動いている方向に順張りのヘッジ(つまり損切り)を行わなくてはなりません。
想定されていたレンジを抜けていくにしたがって、損切りは拡大していきます。
こうして蓄積されていたマグマが噴き出すように、相場の動きが爆発的に加速するのです。
ボラティリティーが極端に低下しているときは、マグマが圧縮されている状態と考えてよく、要注意です。
現在のように、たくさん懸念材料はあるにもかかわらず、相場が動かずボラティリティーが低下しているときはなおさらです。
引き続きドル弱気スタンス
では抜け出すとすれば上下どちらなのか。
それは下方向、つまりドル安・円高方向だと考えています(理由は前回のコメントで述べた通り)。
そして動き始める時期は、ボラティリティーの低下余地から見て、「もう間もなく」だと思います。
目先はレンジを意識した小刻みな売買に徹するしかなさそうですが、そろそろ潜在的な下落リスクに備えるべきと考えます。
私がオプションディーラーだったら、105円のドルプット(ドルを売る権利)を買って、110円のドルコール(ドルを買う権利)を売るでしょう。
オプションの仕組みや考え方については、今後も機会があれば少しずつ紹介していきたいと思います。
なおボラティリティーのレベルをリアルタイムで見られるサイトは少ないのですが、SBI FXが、毎日かなり詳しいレポートを公開しており、参考になります。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから