一週間のハイライト(2月17日~23日)
株高・リスクオンによる円売りや米国債利回り上昇を受けたドル買いで、ドル円は一時106.22円と昨年9月以来の高値を示現。
しかし株式市場が上昇一服となると、ドル円も利益確定の売りが優勢となり、104.92円まで押し戻されました。
前回の当コラムでは、「ドル全体が下落する中で、ドル円だけが乖離して上昇していくという動きも考えにくい」と中立スタンスを唱えましたが、当たらずしも遠からずといったところでした。
米国金利上昇は続きそうだが
米国10年債利回りは一時1.38%と1年ぶりの高水準に達し、予想インフレ率を差し引いた実質金利ベースでもマイナス0.82%近辺と、1週間前と比べて約10bp上昇しています。
ワクチン普及によるコロナ終息期待やバイデン政権による大規模な経済対策に対する期待を背景に、利回りの上昇が鋭角的になってきました。
米国10年債利回りは1年ぶり高水準 出所:yahoo!finance
市場では年内のテーパリング(資産買い入れ減額)開始観測は根強く、FF金利先物は12月のFOMCまでの利上げを10%程度織り込む動きとなっています。
FF金利先物は年内利上げを10%織り込む 出所:CME
パウエル議長は静観姿勢
昨日はパウエルFRB議長の半期に一度の議会証言が行われましたが、こうした市場での金利上昇について、「経済再開や経済成長への市場の期待の表れ」と静観する姿勢を示しました。
FRBは(乱暴に言えば)当面テーパリングも利上げも行わないというフォワードガイダンスを掲げています。
個人的には、議長は金利上昇に牽制球を投げてくると思っていたので、この「塩対応」はやや意外でした。
議長の議会証言は本日も行われますが、おそらく昨日と同じような当たり障りのない内容となると思われます。
景気回復期待とインフレ懸念の高まりに加えて、議長が早期の緩和解除観測に不快感を示さなかったことで、米国債利回りの上昇は当面続くと考えてよさそうです。
米国債利回り上昇=ドル高ではない
しかし「米国金利の上昇を背景にドル高が一段と進みそうだ」と考えるのは早計です。
なぜなら、円以外の通貨に対してドルはほぼ全面安となっており、金利上昇が必ずしもドル高につながっているわけではないからです。
米国債利回りの上昇が鮮明となった年明け以降、ドルは欧州通貨や資源国通貨に対してむしろ下落が加速しており、特にポンドは1.41ドル台後半と2018年4月以来の高値、豪ドルは0.79ドル台前半と2018年2月以来の高値を付けています。
トルコリラや南アランドといった新興国通貨に対してさえもドルは大幅に下落しています。
ドル/トルコリラ 出所:NetDania
ドル/南アランド 出所:NetDania
為替市場全体を俯瞰すれば、「米国金利上昇を受けたドル高」にはなっておらず、起こっているのは「株高を受けたリスクオンのドル安・円安」であることがわかります。
となると、ドル円の上昇は、昨年末から積み上がっていたポジションが「たまたま」巻き戻されただけと考えるのが自然です。
前回も述べましたが、ドル全体が下落する中で、ドル円だけが乖離して上昇していく動きが長続きするとは思えません。
下のチャートはドル全体の強さを示すドルインデックスとドル円を重ねたものですが、ドルインデックスの下落基調に対してドル円が上振れしすぎており、近い将来修正される可能性を感じさせます。
ドルインデックス(右目盛り)とドル円(赤線・左目盛) 出所:NetDania
テクニカルにも買い戻し一巡か
下の日足チャートを見ると、1月6日の安値102.59円を起点に上昇波動が始まっていたことが見て取れる一方、RSIは買われ過ぎゾーンから反落し、すでにピークアウトしている可能性も感じられます。
また106円台へ上昇したことで、パンデミック後の下落幅(111.70円→102.59円)の38.2%戻しを達成しており、仮に下落トレンドの修正局面だとすればちょうどいいところまで戻ったと言えます。
今後、前回安値の104.92円を割り込んでくるようだと、修正局面終了・下落トレンド再開となっていく可能性が高まってくるでしょう。
上昇余地より下値リスクを警戒しながら臨むべきと考えます。
ドル円日足とフィボナッチ・リトレースメント 出所:NetDania
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから