試行錯誤の末に、外国為替の世界に
――まず初めに、田嶋さんのプロフィールからお願いいたします。
私が株式評論家として証券会社勤めから独立したのは、バブルが崩壊してから数年経ったときで、非常に経済情勢が厳しい1992年でした。
株価も低迷していたため、株式評論家としての仕事などそうはなく、ファイナンシャル・プランナーの方々のように、住宅ローンの借り換えや生命保険の見直しなどのアドバイスを暫くは手がけていました。
その後、いろいろなご縁に恵まれて、徐々に株式評論家として週刊誌や月刊誌などに向けて株式の銘柄推奨などの原稿を執筆するようになりました。
そうこうするうちに、株式評論の世界にも様々な経歴やキャラクターをウリにする方々が登場してこられます。
国内大手や外資系の金融機関に身を置かれている方々や若くて見目麗しい女性の方々など、皆さん、それぞれに個性的、魅力的で投資家からの人気も右肩上がり。
そこで、果たして自分自身のウリは何なのか、どこにあるのかということを深刻に考えるようにもなりました。
最終的に思い至ったのは、より広く国際金融市場全体をウォッチングしたうえで、より多面的に市場を分析・研究し、他の人々とは一味違った論評が行えるよう努力してみて、それを自身のウリとするのが一番良いのではないかということでした。
早速、株式市場以外の国際商品市場や外国為替市場などにも、それまで以上に深く入り込んでみようと思い、一心不乱に勉強もしましたし、当時としては少々無謀だったかもしれませんが外国為替に関するコラムを幾つかのFX取扱会社さんに連載執筆させていただく機会も得ました。
ひとたび株式以外の金融市場に足を踏み入れてみると、そこには実に興味深い相場変動のメカニズムが機能していることを知ります。
外国為替はご存じのように、世界で最大の金融マーケットです。
そのなかで、とくに売買取引が抜きん出て多い「ユーロ/米ドル」「米ドル/円」に着目し、これらの通貨ペアの価格変動がどのあたりから発しているだろうと考えていったら、これが面白くて仕方がなくなってきたんです。
そのうちに、為替マーケットのことがわかってくると、株式マーケットのこともわかってくる、この二つのマーケットがわかってくると、商品マーケットのこともわかってくる。
逆に、為替マーケットありきで国際金融市場が動いている、そういうメカニズムの中心に自分の身を置いたほうが楽しいだろうし、実際に置いてみたら、やりがいがあったわけです。
――そうすると、為替マーケットで取引を始められたのも、1998年に外為法の改正があってからすぐのことになりますか?
為替に関するレポートを書く仕事を与えられた時に、自分でも取引をやってみようと思ったのがスタートですが、私が本当に為替に興味を持って売買を始めたのが、忘れもしません、2005年のことですね。
2005年1月に「米ドル/円」が101円67銭という安値をつけて本格的に基調転換したとき、かねて「『米ドル/円』の価格変動には大よそ5年ごとに目立った安値をつけて基調転換するパターンがある」と言われていたことに照らして、前回の目立った安値が1999年11月につけられたことに注目しました。
そこで、今度は「5年ごとに安値をつけるなら、次の目立った高値は半分の期間である2年半後あたり、つまり、2007年6月あたりにつけられるのでは」と考えたのです。
その時点で、かねて「『米ドル/円』は大よそ8年ごとに目立った高値をつけるパターンがある」と言われていることも認識しており、前回の目立った高値が1998年8月につけられたことに照らしても、やはり、2007年6月あたりに次の目立った高値をつけるとの見立ては妥当であると考えました。
そして、実際に「米ドル/円」は2007年6月に124円13銭の高値をつけて本格的に基調転換しました。
そこで、これは面白いぞっと思ったわけです。
前述した“8年高値サイクル”の観点からすれば、次に目立った高値をつけるのは2015年6月あたりということになります。
その高値は2007年6月高値よりも円安方向に振れると考え、大よそ125-130円あたりではないかと想定もしました。
そして、2011年10月に「米ドル/円」が75円台で目立った安値をつけて基調転換したところから、ずっとレポートに「2015年から2016年あたりに125-130円」という自身の予想を披露し続けることにしました。
結果は「2015年6月の125円85銭」でした。
こうした展開があまりにも面白くて、どんどん為替の世界にはまっていき、自分自身でトレードもしますし、評論活動もしているということです。
――当時は、FX会社も、まともにやっていたところも多かったと思いますが、その一方でひどいFX会社も多かったと思いますが……。
そうですね。
結局、そこからすべて始まったような面もあります。
というのは、昔、私がファイナンシャル・プランナーのような仕事をしていた時に、生命保険を見直そうという話から始まって、次に、生命保険会社も破綻することがあるよね、ということから破綻しない生命保険会社探しというのが私の仕事になりました。
生命保険会社の経営状態を詳細に分析し、関連のレポート・原稿も随分たくさん書きました。
そうしているうちに
「田嶋さん、生命保険会社の経営に詳しいですよね。では銀行はどうでしょうか。銀行も破綻することがありますよね」
ということから、今度は破綻が懸念される銀行の経営分析を行うようになりました。
その後、私が外国為替の世界に入っていき、個人にもFXトレードの手法が切り出される時代になってきて、FXがこれから、もしかしたら一般に浸透していくかも知れないという黎明期に、雨後の竹の子のように次々とFX会社が誕生してきたわけです。
そのFX会社のなかには、顧客本位でない、悪質な業者がたくさんある(当時)ということで、悪質でないFX業者とそうではないまっとうなFX業者の見分け方が私の仕事になっていたときも過去にありました。
未だにそういうことを文章にする人がいますが、そうした悪質なFX業者はとうに淘汰されています。
しかし、それでもお客の立場から良質なFX会社を見分けるにはどうしたらいいですか、という話がよくあり、そういう方には、参考になればということで、各FX会社のホームページに記されている沿革を見るようお勧めしています。
私の場合は、一番最初にお世話になったのが北辰商品FX事業部です。
これが後にマネーパートナーズグループになっていくわけですが、その時にも、北辰商品FX事業部はどう考えても、その後ろ盾は北辰商品であり、そこから事業部だけが飛び出して、スポンサーがつくわけですが、そのスポンサーは楽天証券だったわけです。
楽天証券は、読んで字のごとく、楽天の子会社です。
じゃあ、楽天を信じるかどうか、楽天証券を信じるかどうかとなった時に、信じない人もいるし、楽天なら安心だと思う人もいるでしょう。
もう一方で、FXプライムbyGMOという会社があります。
その会社のホームページをよく見たら、元は伊藤忠商事のお抱えの会社でした。
伊藤忠商事ならよく知っているとか、信用できるとか、あるいは信用できないとかあるでしょうが、そうやって情報を収集して、選択していくのが良いのではないかという話を今でもよくします。
さらに、ネット上にはFXのランキング比較サイトがたくさんあります。
そのサイトが信用できるサイトとか否かは、サイトを数多く見ていれば、皮膚感覚や肌感覚でわかるようになってきます。
そうやって、すべてのことについてわが身を守るために、時間をかけて皮膚感覚や肌感覚を磨きながら自分の感覚に習熟していくことが大事だと思いますね。
その次に、FXトレードで勝つためにはどういう知識や論理が必要かといったことも、日々、コツコツと積み重ねていくことが大事だと思います。
そういったことを私自身、これからもアピールし続けていこうと思っています。
何故だろう、おかしいなと思う感覚は大事に
――私自身もすべてのFX会社にとりあえず口座を開設して、使ってみて、とくに、プライスのサインなどをよく見ていたのですが、その時に思ったのは、Aという会社とBという会社はほとんどの場合、同じプライスを出すのに、ある時になったらまったく違うプライスを出していることがあって、それは何故だろう、なにが違うのだろう、おかしいなと思う時があります。
それは肌感覚でそう思われるのでしょうが、そういう何故だろうとか、おかしいなと思う感覚は大事です。
私もいろいろなFX会社からレポートを書いてくれと頼まれたり、このFX会社を推奨して欲しいという本づくりの依頼をいただいたりしたとき、「このFX会社はちょっと危ないな」と皮膚感覚で判断した場合は、先方からの依頼をすべて断ってきました。
結果的に、お断りしてよかったということになっています。
なぜなら、そういう会社はすべて消え去っているからです。
自分の知らないものやわからないものには手を出さない。
仮に、少々高額なギャラを積まれても、それはできないと言っています。
――FX会社自体のバックボーンを調べたりするのは、FX会社選びだけではなく、FXのすべての面において重要なんでしょうね。
FX会社を「金融機関」と位置づけるのであれば、その位置づけにふさわしい存在であって欲しい。
より上品で優秀な人材を擁し、より上質なサービス提供する必要があると思います。
しかしながら、今のところは必ずしも十分ではないと言わざるを得ないでしょう。
FXは徐々に理解されてきている
ただ、ひと頃のFX会社は会社によってかなり温度差があり、全体としてのレベルは必ずしも高くありませんでした。
ことに、レバレッジ規制がかかる前の状態は、レバレッジ400倍や500倍でもOKという、投機的なトレードを勧めるFX会社とそうでないFX会社の二つに大きくわかれていました。
私は「400倍や500倍のレバレッジ取引を勧める会社とは少し距離を置くように」とずっと言ってきました。
逆に、「真面目にFXをやりましょう」と最初に打ち出したのは確か、FXプライムbyGMOでしたので、私は「FX取引は、FXプライムbyGMOで」とあちこちでずっと言ってきて、同社の仕事もいくつかやらせていただきました。
ですから、「FX取引は、真面目にやっていきましょう」ということを、FX会社はもっと打ち出していってほしい、一般の人に「FXはパチンコと同じ」という印象を与えては損だと考えていました。
「レバ400倍!」を前面に打ち出して、品のない広告宣伝をするのはやめて欲しいと、本当に思い続けていた時がありました。
そういうことをやっているから、一般の投資家には、FXは自分の感性に合わない、非常に危なっかしいものに映ってしまい、多くの方が敬遠するようなムードをわざわざFX会社がつくっている、醸し出していたように思います。
私は「FXは必ずしも危なっかしいものではない」ということを訴え続けました。
そうこうしているうちに金融庁がレバレッジ規制に乗り出し、個人の取引においてはレバレッジのマックスが25倍になりました。
そうなると、まずは、レバレッジ400倍、500倍を謳っていた会社は太刀打ちできなくなり、消え去っていきました。
その一方で、レバレッジ規制はFXのイメージを以前よりもアップさせることにも大いに貢献したと思いますし、実際に最近は一頃よりも人々の嫌悪感が薄らいできていると感じます。
ごく普通の人々がFXの世界に足を踏み入れるようになっており、私もFXの本当の使い方、その魅力をもっと広めてゆかねばならないと考えています。
FXはかけがえのないもの、生活に密着したものへ
――そのころなかったもので、今出てきているものが、投資系の商品――自動売買だとか情報商材と呼ばれるもの――が巷には溢れています。そのなかにはまともなものも恐らくあるでしょう。
結果論にはなるかもしれませんが、まともにつくったつもりでも、上手くいかないこともあります。
――そうですね。ただ、最初から騙す目的ではないですけども、そういった商品も数多くあると思っていまして……。
金儲け主義的なところは、どの商売にもあるでしょうね。
――そういうものが増えて、さらには、運用しますよと言ってお金を集めてドロンしてしまうとか。詐欺ですよね。そうなってくるとまた、FX会社が投資先としてまともになってきたにもかかわらず、危険なもの、ギャンブル的なものと依然、とらえられているのではないかなと思ったりするんですね。
でも、少しずつ変わってはきています。
ひとつには、やはり「くりっく365」の登場が大きかったと思います。
取引所を通じての取引というものが価格の透明性や取引の健全性をアピールしたことで、店頭取引も含めたFX全体のイメージが変わりました。
また、大手証券会社や一部の銀行、信託銀行がFXサービスを提供し始めたことによっても、FX全体のイメージは良くなったと思います。
たとえば、野村證券や大和証券、住信SBIネット銀行などがFXのサービスを手がけたことが、FXはまともなものだというイメージにも繋がりました。
さて、大事なのはここからです。
考えてみれば、「米ドル/円」が75円から125円になったアベノミクス相場が、一部の人にとってはとても投機的に見えたかも知れません。
逆に、125円から100円、99円となったときに「ほら見ろ(投機的ではないか)」と思った人がきっといると思います。
それはそれで仕方がないことかも知れません。
こんなに大きく値動きして、そこで仮に25倍のレバレッジをかけていたらどうなったんだろう。
もし、逆にいったらどうなったんだろう、どれだけ家計資産に穴があいたのだろうと、そういう連想をする人もおられるでしょう。
しかし、本当にここで考えたいのは「どうして、あれほど大きく『米ドル/円』は動いたのだろう」「あれほど大きく動いて、私たちの日常生活には何も影響がなかったのだろうか」などということだと思うのです。
その答えを求めていくうちに、おそらくFXが一般の人たちにとってもかけがえのないもので、日常生活に密着したものだと考えていただけるようになると思っています。
為替の変動で自分の資産がどうなるかを考える
これからまた再び「米ドル/円」が125円や130円、当面の目標は150円ぐらいに向かっていくと、「あのとき『米ドル/円』が75円から125円になったのは、安倍さんが何か仕掛けたか、投機的な動きがあったからだ」と考えるのではなく、為替相場というものは、大きく動くことがあるということを認識するのが重要だということです。
そして、円安になるということは、円の価値がそれだけ大きく劣化してしまうことだから、何らかの対応をしなければならないと考えることも重要になってきます。
では、そのためにはどうしたらいいでしょうか。
たとえば今、手元に300万円しかお金のない人がいて、その300万円すべてを「米ドル/円」につぎ込んでしまったら、自分の思惑と違う方向に「米ドル/円」がいってしまった場合、多くを失う危険性があります。
では、それが心配なら、300万円のうちの30万円だけ証拠金にして、300万円分の米ドルを買う方法があります。
それがレバレッジです。
30万円の証拠金でレバレッジ10倍をかければ、300万円分の「米ドル/円」は購入できます。
残りの270万円は預貯金などにしておいてもいいわけです。
つまり、30万円を証拠金にして、300万円の資産全体を、円安のデメリットから守ってあげる必要があります。
なぜなら、為替相場では、「米ドル/円」が75円から125円になることがあるからです。
そうなったら、300万円の資産で買えるものがどれほど減るでしょうか。
そんな感覚で為替やFX、自分の資産と向き合っていかなければダメだと思います。
いわゆるアベノミクス相場やその後の調整局面については、為替にまったく興味のない人でも知っているわけですから、そのことは、自分の資産や為替、FXを考えるひとつのきっかけになったと思います。
わが家の家計資産は為替によってダメージを受けるのか、受けないのか、ダメージを受けるとしたらどうしたらいいのか、を考える大きなきっかけになったと思います。
アメリカの大統領にトランブ氏が就任するなど、ほとんどの日本人は思っていなかったことが起きました。
為替についても、1米ドルが60円や50円になると言う人もいれば、私のように、130円が当面の目標で、場合によっては200円もしくは300円になったっておかしくないと言う人もいます。
じゃあ、どれが本当なんだと言われても、本当はないんですが、ただ、「米ドル/円」が50円になった時、もしくは150円になった時に、どうしたらいいのかを考えておくのは大切なことだと思います。
そのことは声を大にして言いたいですね。
――そうですね。おっしゃるとおりですね。そこまで考えて取引をされている方は非常に少ないと思います。
FXがいつまでもヤクザなものであっては困る、2016年11月、米大統領選で「トランプ氏が勝利しそうだ」となり、一気に「米ドル/円」が5円ほど円高方向に動いた後、再び5円ほど戻すという場面がありました。
あそこでもし「米ドル/円」を買っていたら、さぞや儲かったのではないかと、誰だって考えると思います。
そこで皆さんがどう考えるかが大事です。
「でも、FXはやっぱり、ちょっと危ないものじゃないのか」とか、「FX会社が信用できないんじゃない」かとか、そうしたフツーの方が思っているようなFXについての誤解やわだかまりを取り払っていくことは、FX業界全体にとって非常に重要なことです。
なぜ、私がこういうことを言うのかといえば、私はいちトレーダーであり、いち評論家の立場で、FXがいつまでもヤクザなものであっては困るわけです。
私が為替の世界に身を投じた時、周囲の人たちから「アナタはそんなにヤクザな人間だったのか」「そんなに乱暴な人間で、投機的なものを好む不真面目な人間だったのか」「お前、どうしてFXみたいな危ないものをやるのか」などと、さんざん言われました。
そう言われた時に、私の自身の評判のためにも、FX業界の評判を上げなければいけないと思いました。
「株式評論家のほうがよっぽどマシ」などと言われ続けてこの十数年、やっと少しずつ、少しずつ、東京金融取引所が取り組んでいることもあって、「アナタ、立派な仕事をやっているね」とか、「FXトレードはけっして危なっかしいものではなく、むしろ金融商品として立派にひとつの選択肢になり得るのだね」と、むしろ少しばかり尊敬されたり、肯定的な見方をされることが増えてきました。
ですから、「情報源はどこですか?」とか、「何をきっかけに売買判断をするんですか」と、みんなから尋ねられた時に、「こういうふうに考えてはいかがでしょう」などということぐらいは、お話しできるようにしておきたいと思っています。
グランドデザインを描いてみる
――FXのトレードを始めるにあたって、「米ドル/円」などふだんからなじみのある通貨ペアから始める方は多いと思います。ただ、どういうふうに動くのかもよくわからなかったり、勝ったり負けたりしながらトレードをしていくなかで、セミナーに行ったり、FXについての本を読んで勉強をしたりするわけですが、だからといって当然、すぐに勝てるわけではありません。どういうふうにしていったら、勝てるようになるでしょうか?
まず、一番には思うのは、グランドデザインを描かないで取引を始める人が多いことです。
最初は仕方がないのかも知れません。
しかし、今後、5年先、10年先、20年先の世の中がどうなっているのか、想像しておくことは必要でしょう。
たとえば、向こう10年、20年先には世の中はこうなっているという自分なりのストーリーやシナリオを描いたうえで、そこから現在にぐっと引き戻して、じゃあ今日、今この1分先、5分先、10分先、20分先をどうとらえて行動していくのか。
FXにたとえるなら、長いタームの視点からスウィングトレード、デイトレードの世界、さらにはスキャルピングの世界に自分の考えや行動を落とし込んでいくことが非常に重要です。
――米雇用統計など、重要な経済指標をチェックすることも大事ですよね。
もちろん、米雇用統計だけを見てればいいのか?
と疑問に思うことも大事です。
関連の経済指標は他にないのか調べてみて、あればそれも見て、考えることです。
私は自身が描いたグランドデザインのなかで、2015年と2016年が大きなターニングポイントになるだろうとずっと前から考えていて、とくに、2016年の後半から2017年にかけてはアメリカ経済の成長が加速度を増し始めるから、それに備えておく必要があると思ってきました。
たとえば、米ドルが再び強さを取り戻して、アメリカ経済も再び強さを取り戻して行くという見立てです。
なぜなら、さまざまなデータを順番につなぎ合わせてみると、そういう結論に達するからです。
じゃあ、米ドルが強くなっていったら、ユーロや円はどうなる?
とか、ユーロ/米ドルは?
米ドル/円は?
と、トレードのほうに徐々に視点を置き換えていき、「なるほど、しばらくは確かに円安方向に向かうのかも知れないが、相場は山もあれば谷もあるから、いったんは円高に調整が入るかな」などと、いろいろなことを総合的に考えながら、そこに必要なものが何かないかな、テクニカル分析という便利なツールを当て嵌めてみたらどうかな、などというように次へ次へとつなげていくことが重要だと思います。
テクニカル分析は「アートだ!」
よく、「テクニカルは信用しないし、テクニカルで相場を語るのは嘘つきだ」と言う人や、「テクニカルなんて芸術みたいなものだ、アートだ」と言う人もいますが、私は「その通り、テクニカルはアートであり、相場はドラマである」と応えます。
ときに「テクニカル分析はアート」と割り切って考えることも一つなのです。
たとえば、「チャネルライン」はなぜこんなに美しく描かれるのか。
これは他でもなく人間の判断と行動がもたらしたものです。
「ライン上にいつも高値が連なっていく、もしくは安値が連なっていくのはなぜだろう、それは相場を見ている人がいるからですよ」という単純な発想のなかで、為替の価格変動を神懸かり的にとらえ過ぎるのもおかしくて、所詮、人間が動かしているものなので、「ここはもう買いすぎだろう」とか、「もう売られすぎだろう」というのは、あなたが思うとおりで、みんなもそう思っていますよ、というのがテクニカル分析なんです。
――確かに。
もしくは、一目均衡表は日本人が長年の研究の末に編み出した素晴らしいツールですが、雲があって、雲にかかると何か重たいと思うでしょう。
だから、雲にぶつかるとなかなかそこを抜けない。
でも、ひとたび抜けたら大きく動くんですよ、という感覚を皆さんにも体験してもらえばわかると思います。
これまでの私の経験のなかで、2005年1月の101円、2007年6月の124円などは、非常に印象深いものになっています。
前述したとおり、過去の「米ドル/円」の価格推移には8年高値サイクルや5年安値サイクルなどというパターンが確認できます。
8年ごとに目立った高値をつけるわけですから、2007年6月の次は2015年から2016年ぐらい、そのときには、いったん125円~130円あたりの高値をつけるだろうと言い続けていた時期がありました。
すると私の読者さんや知り合いから「想定通りになったね」などと言われ、結果的に本などを書かせていただいたりしてきたわけです。
「なぜ、8年ごとに目立った高値をつけるの?」と問われても、「それは人間が過去のパターンに基づいて考えているから」と答えるしかありません。
「8年前にも一回高いところをつけて円高になったね、次も8年後かな」「本当だ」「また8年後といえば、2015年か2016年ぐらいだね」「そうだろうね、きっと」「あ、125円になってきた、もうこれ以上買えないわ」と、こういう感じです。
「『米ドル/円』が75円から50円上げたから、今度は半分ぐらいは下げるよね」「25円下がるということは100円かな?」「じゃあ、そこで底を打ったね、次は?」という発想です。
「そうすると、75円の125円で、100円ということは、この上げ幅である50円を足せば150円、次の理想的な目標は150円かな?」「これから150円に向けて進むけど、一足飛びに150円にいくわけじゃないよね」と。
つまり、これって一種のアート。テクニカルはアートと考えればいいのです。
――なるほど。
テクニカルはアート。
人が見て、感じて、動かしているものですから。
だから、テクニカル分析は重要です。
――それもひとつのテクニカルの視点ですね。
日常生活あう売買スタイルの確立
テクニカル分析を茶化したり、馬鹿にしたりすることは簡単ですが、そこにはちゃんとした理由があるということを突き詰めて理解して欲しい。
私の場合、日々のスキャルピングに関していえば、ほぼテクニカル頼みです。
1分足と5分足、15分足をモニター上に並べて、基本は1分足を見ています。
RSIもいいと思いますが、私はウィリアムズ%Rが好きなので、ウィリアムズ%Rを使い、1分足、5分足、15分足を全部表示させます。
あとは、1時間足もあったほうがいいですね。
一番間違うことがないのは、すべてのウィリアムズ%Rが、たとえば、一番高いところから、1時間足も15分足も、5分足も、1分足もすべての足が下に向かい始めると、これはほぼ9割がた下落相場になります。
その逆に、大底からウィリアムズ%Rの1分足、5分足、15分足、1時間足がすべて上に向かっていれば、これは短期的に上ですから、目をつぶってでも買いです。
そんなことは1日のなかで何度もありません。
ですから、基本的には1分足と5分足を見ながら、1分足だけでトレードをしても、6勝4敗ぐらいです。
そこに5分足を絡めたらもっと勝率が上がりますので、ときには6勝4敗が7勝3敗、8勝2敗ぐらいにアップ。
あとは、トレードをする時間があるかないかだけです。
最近は、専業トレーダーがどんどん増えています。
そういう方はもっと技を、腕を磨かれたらいいし、私の場合も「今週はこういう相場展開になります、個人的には売ります、買います」というのを十数年やり続けてきて、ここにきてやっと自分なりの売買手法――私の日常生活スタイルに合う売買手法――が確立されてきたという感じです。
――個々人が、それぞれに自分の生活にあわせたトレードスタイルを見つけ出すことが大切ですね。
「米ドル/円」と「ユーロ/米ドル」のみの取引
――ちなみに、1日あたりのトレード回数はどのぐらいですか?
時間さえあれば、1日に数十回、売買を繰り返すこともあります。
――それはけっこうなトレード回数ですね。
そんなに大きく張るわけではなく、飲み代ぐらい出るような、庶民感覚でもってトレードをやっていければいいと思います。
――取引の銘柄選択はどんなふうに考えてやっておられますか?
結局、騙されるのは流動性の低い通貨ペアですから、流動性の低い通貨ペアはいっさい取引をしません。
逆に、結論から言えば、「米ドル/円」「ユーロ/米ドル」の2通貨ペアだけの取引と言っても過言ではないですね。
ただ、評論家の立場から言えば、豪ドル/円の取引をしておかないといろいろ対応できませんので、チャートは見てもいますし、たまに面白いと思ったらトレードをします。
個人としては先の2通貨ペアだけです。
何故かと言うと、その二つの通貨ペアだけを取引していれば、「ユーロ/円」をトレードしているのと同じだからです。
ですから、「ユーロ/円」のチャートもほとんど見ません。
ちなみに、「ユーロ/米ドル」というもっとも流通量の多い通貨ペアは、本当にテクニカルに忠実です。
ここが天なら天、ここが底なら底と絵に描いたように、テクニカルに忠実に動きます。
一番手がけやすい通貨ペアだと思います。
――「ユーロ/米ドル」や「米ドル/円」だったら、どのFX会社もスプレッドは狭いでしょうし。
はっきり言えば、FX会社はそれだと収益が上がらないので、「米ドル/円」と「ユーロ/米ドル」以外の話をして欲しいというオーダーも多い。
でも、投資家にとって見れば、FX会社が儲からない通貨ペアのほうがコストも安いのでいいわけですよ。
ドル高基調を前提としたトレード
私自身は通常、「米ドル/円」と「ユーロ/米ドル」しか触わりませんが、同じ通貨ペアで複数のポジションを持つというケースは多くあります。
そして、本当にメインとなるポジションは5年、10年と放っておきます。
私は基本的に「大きな流れは円安・ドル高」と考えており、ある程度のところでロングしたポジションは、 まず1本は長期にわたって放っておきます。
そうしておけば、短期・中期のロングを適当なチャートポイントなどで躊躇なく利益確定できます。
ときに、「米ドル/円」をショートすることも当然ありますが、その場合の利益確定は早めに行います。
「ユーロ/米ドル」については、基本的に主権を持たない通貨に本質的な価値はないと考えており、売りっぱなしのポジションがあります。
長い目で1ドル=1ユーロになると考えているので、放ったらかしです。
そういう通貨ペアもあれば、もちろん、目先で取引することもあります。
――なるほど。そしてしましても、本当にトレードが好きなんですね。
ひとつには意地もありますね。
日頃、必死に研究・勉強しているからには、できるだけ自分が構築したシナリオに相場は忠実であって欲しいと思います。
その意味で、とくに、「ユーロ/米ドル」はテクニカル分析のセオリーに忠実な動きをしてくれるので助かります。
懸命にいろいろな情報を駆使して、分析している以上、できる限り自分で構築したシナリオをリアルに確認したいんですよね。
儲かる、儲からないとか、経済的にいくらになったかということではなく、勝ったか負けたか、思った通りになったか、ならなかったかっていうところが最も重要なのです。
シストレには興味がないが、使い方によっては有効
――ところで、裁量トレードと自動売買があるじゃないですか。FX会社によってはシストレを推奨しているところもあります。さらには、AIやディープラーニングを搭載したシステムやプログラムも聞かれますが、システムトレードについてはどのようにお考えですか?
個人的にはあまり興味がありません。
というのは、もし思わぬ結果が出た場合、どうするのかという話です。
自分にも言い訳ができないし、相手に言い訳を求めることもできません。
――そうですね。
どこにも、その思いのやり場がないわけですよ。
やり場のないむなしさ、怒り、そして、目の前にうずたかく積まれた損失、なんてものを被ることは御免蒙りたい。
もちろん、システムトレードは効率的に儲けてくれるかも知れません。
そういう仕事を手がけている方を否定する気持ちはまったくありません。
ただ、私自身にとってトレードの最大の目的というのは、やはり「自己実現」のようなものなのです。
自分が構築したシナリオ通りに相場が動いているかどうかを確認する作業みたいなところがあって、「ほらね!」というところがないと面白くない。
結果的に10万円が20万円になりました、100万円が200万円になりましたということだけを求める人は、信頼できるソフトをシステムに搭載するのもひとつの手だとは思いますが。
――目的の違いかも知れませんね。
もちろん、もちろん。
――自分が構築したシナリオを実現させていく過程にトレードがあるような。
仕事柄ももちろんありますが、そうですね。
一般人たちとは違うと思うし、あとは結局、そうは言いながらも、ごく小さいポジションをシストレのなかで動かすということがあって、要するに、裁量と自動売買を併用できたらいいのかなと、もしかしたらお勧めする時があるかもしれないと思って、実はやってきている部分はありますよ。
――時々思うのですが、たとえば、FX会社は膨大な顧客の取引データを持っています。相場状況をまともに分析していくと、ある程度は勝てるシナリオを構築することができるのではないかと思ったりします。もうひとつは、田嶋さんみたいに、ものすごくトレードをやっている人だと、どういうシナリオやテクニカルを使ってトレードをしているかを覚えさせる必要はありますが、自分と同じようなトレードができるようになるかも知れません。
もちろんですね。
その点についてはある意味、今後大いなる期待があると思うし、AIのように、自らが学ぶ仕組みをプログラミングするような、人が新しいものを与えなくても、自分で新しいものを拾っていくし、自分で新しいプログラムを構築するような、そういう時代にもなってきているから、そこでこれまでとは違ったパフォーマンスが出てくる可能性はあると思います。
自分自身でもシステムのなかに組み込まれている、たとえば、シグナルを発信する指標とか、タイミングとか、もしくは、一部、ファンダメンタルズ的なデータってこういうんだろうなと想像がつくじゃないですか。
その時に、でも、それって機械だから覚えているけど、自分だと、たまに忘れてしまうんだよね、ということが多々あるわけです。
――そうですね。
あれおかしいな、あれって200日線を超えたんだっけ、超えなかったんだっけとか、もしくは、レポートを書き終わって配信したあとに、200日線の話をするのを忘れてしまったよとか。
そういうことはシステムのなかでは絶対に消え去らないので、たぶん、そういう意味では、機械のほうが抜け目がないというか、そういう部分はあるとは思います。
ですから、自分はむしろシステムトレードにきちっと任せたい、もっともっとその仕組みを使って資産形成をしたいという人は、有用に活用されればいいと思います。
日々コツコツと努力の積み重ねが大事
――最後に、相場に臨む心得と、短期ではなく、長期にわたって相場の世界で生き残っていくためにはどんなことが必要なのかについて、アドバイスをお願いいたします。
結局は、勝率を上げるに尽きるんですが、勝率の話をするってことは、私自身、数多くの負けている経験があるってことで、100%勝ち続けることや10勝0敗はあり得ない。
ということは、負けた時にどうするかがすべてです。
一言で言うと、そこが重要です。
負けが混んだとき、たとえば、2~3回連続で負けた時に、「よし、今度こそ!」と思って、4回目に取り組むのがいいのかどうか。
私なら、負けが混んできたら1回休む。
勝ち続けているときは、次に次にと乗っかっていく。
そういうスタイルでもって全体としての勝率を上げていくための工夫というか、セルフコントロールが非常に重要になってきます。
セルフコントロールという意味で言うと、結局、やっぱり、自分のなかの理性をどこまできちっと維持できるかなんですよね。
――なるほど。
要するに、ロスカットをすることの勇気が理性に通じると思うので、もうひとつ、利益確定もそうですが、みんなそうじゃないですか。
戻るだろうと思ってロスカットができないか、もしくはもっと上にいくだろうと思って利益確定ができない。
それでも、自身が決めたルールに則って行動することが重要であり、それができるかどうかは理性の部分でしょう。
もちろん、自分の理性を磨くという点においても、FXトレードというのは「道場」のようなところです。
経験を積み重ねていけば、自ずと理性的な能力は高まっていきますよ。
最初に上手くいかないからすぐにあきらめてしまうのではなくて、あまり負けが混んだら困りますが、時間をかけて経験を積んでいかれることです。
その間には知識も深まるし、トレードの癖や価格変動の癖もどんどん身につくし、人が一生のなかでFXに向き合える時間と、そのなかで得られる、獲得できる知識は限られているわけですから、FXトレードを長くやったほうがそれなりに蓄積されていくものがあるはずで、日々、コツコツ、努力を積み重ねていくことをお勧めします。
辻秀雄氏プロフィール
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから