窓が開くのは週明けの月曜日
週明けには「窓」があくことがあります。
ここで言う「窓」とは、チャート上にぽっかりあいた空白の部分のことをいいます。
それは、「空」(くう)と呼ばれていたこともありました。
海外のFXでは、ギャップと呼称しています。
窓があくのは、週末から翌週初め、つまり月曜日の朝だけになります。
しかし、ローソク足のチャートをみていると、時々、ローソク足とその次に現れたローソク足の間があいているときがあります。
これは、「窓」とはいいません。
レートは非常に早いスピードで動いているため、たとえば、1時間足だと、表示されるのは、1時間が終わった時点である。
いや、これではわかりにくいですね。
たとえば、9時の時間足はどういう状態になったときに確定するかと言えば、9時ちょうどにローソク足が現れます。
そして、売りと買いの攻防がローソク足上で展開されます。
上ヒゲや下ヒゲが定まり、ローソク足の実体が伸びたり、縮小したりして、買いと売りがどんな状態であるかを示してくれます。
そして、9時59分59秒になったら、そのローソク足は動きを止め、9時のローソク足として、ローソク足の実体の長さが確定します。
そして、10時になったら、次のローソク足が、9時59分のところからかたちづくられていきます。
ふつうだったら、10時のローソク足の始値は、9時のローソク足の終値と同じ価格でスタートします。
ところが、10時になる前に価格が動くことがあり、9時のローソク足の終値とは違った価格で、10時のローソク足が始まることがあります。
その差がわずかなときにはあまりローソク足があいているとは感じませんが、大きく動いたときには、9時のローソク足と、10時のローソク足の間にはっきり視認できる空きが現れます。
これも一種の窓の状態なのですが、一般的に窓空きといわれるのは、週初めの月曜日の朝に初めてつく価格と、前週の終値との価格の間の隙間のことをいいます。
その隙間も、ニューヨークの市場が終わる時間と、月曜日のウェリントン市場が開くまでの間は、トレードができませんが、そのときに大きな政治的イベントや経済的なイベントが起こったときに、窓が開くケースが多くなります。
ただ、その時間帯に何ごともなければ、窓はあきません。
窓が開いたときの値動きの特徴
では、窓はどういったふうに空くのでしょうか。
窓の開け方には二通りがあります。
一つは、金曜日のニューヨーク市場の終値よりも高い価格で寄りついて、窓が空くことです。
これを「ギャップ・アップ」といいます。
もう一つはその逆で、金曜日のニューヨーク市場の終値よりも、低い価格で寄りつき、窓をあける開け方です。
これを「ギャップ・ダウン」といいます。
この二つの窓の空き方によって、前の週からポジションを持ち越してしまっていた場合と、月曜日のウェリントン市場が始まると同時に新規のポジションを持つ場合とでは、トレードのやり方が当然ですが、異なってきます。
まず、金曜日のニューヨーク市場が終わっても(正確には土曜日の午前5時=日本時間)ポジションを決済せずに持ち越してしまった場合を考えてみましょう。
ポジションを持ち越してしまった場合
Aさんは、ニューヨーク市場が開けると同時に、「米ドル/円」のレートが100円のときに、10万通貨の買いポジションを注文し、約定しました。
しかし、なかなか決済をせずに、ポジションを持ったまま、ニューヨーク市場が終了してしまいました。
本当はニューヨーク市場が開いている間に決済をしたかったのですが、仕事で疲れていることもありまして、ポジションを持ったまま、つい、眠ってしまいました。
土曜日に起きたときにレートを確認したら、99円をつけていました。
10万通貨でロングのポジションを建ててしまっていたがために、(100円-99円)×10万通貨=10万円の含み損を抱えたことになります。
Aさんは200万円の証拠金を入れていたので強制ロスカットにはなりませんでしたが、10万円の含み損は痛いです。
そこで、週明けの月曜日の朝一番に、含み損をこれ以上増やさないために、決済をしようと思いました。
幸い、Aさんが取引をしているFX会社は、ウェリントン市場がオープンと同時に取引ができるFX会社でした。
そして迎えた週明け月曜日の午前4時、ウェリントン市場がオープンすると同時に、「米ドル/円」のローソク足を確認したら、窓が開いて、「米ドル/円」は、102円をつけていました。
Aさんは思わず「ラッキー」と叫んで、早速、決済注文(売り)を入れて、取引を終えることにしました。
(102円-100円)×10万通貨=20万円の利益を収めることができました。
しかし、このとき、スプレッドが5銭と開いていたため、手数料が0.05円×10万通貨=5000円も取られることになったので、実際の利益は20万円-5000円=19万5000円でした。
このように、自分が持っているポジションよりも遙かに優位な価格で窓が空いた場合には、絶好のチャンスとなります。
一方、同じようなポジション規模で、売りのポジションを持っていた場合にはどうでしょうか。
金曜日のニューヨーク市場が終了した段階で、(100円-99円)×10万通貨=10万円の含み益を抱えて、市場が終了したことになります。
しかし、Aさんはまたもポジションを持ったままの状態で眠ってしまったがために、10万円の含み益を抱えたまま、週明けの月曜日を迎えました。
さっそく、Aさんは決済をして利益を確定しようと思って、チャートを開いたら、「米ドル/円」は、窓が開いて、102円で寄りついていました。
「えっ、20万円の含み損じゃないか!」とAさんは、少々、パニック状態に陥りました。
早く決済をしないと、含み損が膨らんでしまうと一瞬思ったのですが、「落ち着け、落ち着け」と自分の気持ちをまず、なだめます。
そして、思い出します。
窓が空いたときのローソク足の動きの習性のことを。
「そうだ、窓は埋められる傾向にあること、そして、金曜日の終値はこの場合はサポートラインになる可能性が高いこと、だったな」そんな窓のセオリーを思い出したAさんは、ポジションを慌てて決済することなく、様子見に徹底しようと考えました。
幸い、月曜日は午後から出社をすればいい日でした。
朝食を済ませたAさんは、パソコンの前に陣取り、チャートを観察し続けます。
そうすると、時間がたつにつれ、ローソク足が徐々にですが、変化をしてきました。
みていると、金曜日の終わりの99円に近づいているような動きを示しています。
「なるほど、買いポジションを持っている人たちが、利益確定の売りを急いで売り決済をしているから、レートが下がってきているんだな。どこまで下がるんだろう」そう思いながら見ていると、100円を下回り、99円に近づこうとしています。
もし、レートが99円を割って下落すれば、利益は増えますが、99円で跳ね返されて上昇してしまうと、へたしたら利益が吹っ飛んでしまいます。
そこでAさんは、レートが99円10銭になったときに、売りポジションを決済し、利益を確定することにしました。
(100円-99円10銭)×10万通貨=9万円の利益確定です。 では、こんな場合はどうでしょうか。
Aさんは同じよう「米ドル/円」が100円のときに10万通貨の買いポジションを持ち、ニューヨーク市場の金曜日の終値が101円だったとします。
このときに、Aさんは(101円-100円)×10万通貨=10万円の含み益を抱えたことになります。
そこで、決済をすればよかったのですが、何を思ったのか、決済をせずに、週明けの月曜日を迎えました。
月曜日の「米ドル/円」のローソク足の始値は、102円で寄りついていました。
またもやAさんは「ラッキー」と思いました。そして思案します。
この窓空きが一時的なものか、それとも土日に政治的・経済的なイベントが起きたので、ファンダメンタルズを動かすことで起きた窓空きなのか、ということを。
Aさんは、土日に大きなイベントがなかったことを瞬時に確認した後、すぐに決済注文を出して、利益を確定することにしました。
(102円-100円)×10万通貨=20万円の利益確定です。
どうしてAさんがすぐに利益を確定したのかといえば、もし、この窓空きが一時的なものであるなら、窓を埋める傾向にあることから、102円のレートは徐々に下がっていき、101円がサポートラインとなって、101円あたりまで下がる可能性があることを思ったからです。
この場合の窓空きは、一時的なものだとわかりました。
そうすると、窓をうめてくるので、20万円の利益を得られるはずが、101円で決済をしてしまうと、利益は半分になってしまいます。
ですから、早めに決済をしたわけです。
もしこの窓空きがファンダメンタルズの変化よって起きたものであるなら、ポジションをそのまま維持したはずです。
なぜなら、ニューヨーク市場の終値の101円より高いレートで窓が開いたことは、上昇トレンドを促すイベントがあったからです。
そうすると、その影響はまだまだレートに反映する可能性があり、レートは102円を超えて上昇するかもしれないからです。
そうなると、利益はもっと増えることになります。
窓が「ギャップ・ダウン」のとき
以上は、窓が「ギャップ・アップ」の状態になったときのトレードです。
次に、今度はその逆で、窓が「ギャップ・ダウン」のときのトレードはどうしたらいいでしょうか。
Aさんは同じように、「米ドル/円」が100円のときに、10万通貨の買いポジションを建てました。
そして、ニューヨーク市場の金曜日の終値が、99円で取引を引けました。
Aさんにしてみれば、(100円-99円)×10万通貨=10万円の含み損になります。
そのまま決済をすれば10万円の損失ですみますが、Aさんは何を思ったのか、ポジションを手仕舞うことなく、持ち越してしまいました。
そして、週明けの月曜日、「米ドル/円」のローソク足の始値は、ギャップ・ダウンの窓あけで、98円をつけていました。
「えっ、(100円-98円)×10万通貨=20万円の損失じゃないか!」「ああ、金曜日に決済をしておくんだった……」と嘆いても、後の祭りです。
「どうしようか」とAさんは悩みます。
Aさんとしては損失をできるだけ減らしたい、と思っています。
当然です。
そこでAさんは窓が空いたときのローソク足の習性を思い出します。
「そうか、窓があくと、そこを埋めようとするのがセオリーだ」そう思ったAさんは、しばらくチャートを見ることにしました。
しかし、出勤時間が迫っています。
あとは、通勤途上か、会社で決済をするしかありません。
Aさんが家を出るのは午前7時です。
あと3時間あります。
3時間のうちにレートはどうなるかわかりません。
ただ、窓を埋める習性にかけるしかありません。
チャートを見ていると、徐々にですが、99円に向けて上昇してきました。
Aさんは決済のタイミングを考えます。
もし、99円を超えて100円も超えると、Aさんは利益を得ることができます。
しかし、99円がレジスタンスラインとなって、99円を跳ね返されると、損失は当初の10万円よりも多くなります。
Aさんの選択肢は3つしかありません。
あなたがAさんの立場だったら、どのようにポジションを決済しますが?一つは、99円にもっとも近づいたときに決済をして、損失を10万円強に抑えます。
もう一つは、99円を割って100円に近くなったところで決済をして、損失をできるだけ10万円以内に抑えようとします。
もう一つは、100円を超えるまで待って、利益を生み出す決済をします。
さて、Aさんはどんな選択をしたのでしょうか。
売りポジションを持っていた場合
先ほどは、買いポジションを持っていたときのことですが、では、100円で売りポジションを持っていた場合はどんなトレードをしたらいいのでしょうか。
ニューヨーク市場の金曜日の終値が99円ですから、100円の売りポジションで10万通貨であれば、(100円-99円)×10万通貨=10万円の含み益を抱えたことになります。
ふつうなら、決済をして、10万円の利益を確定するところですが、決済をせずにポジションを持ち越してしまいました。
そして、週明けの月曜日の始値は、1円の窓をあげて、98円で寄りつきました。
これで含み益は20万円になります。
ここで決済をすれば、20万円の利益が確定します。
しかし、決済を躊躇していると、窓の習性として、空いた部分を埋めようとしてきますので、98円のレートが徐々にですが上昇し、99円に近づいていきます。
このままでは含み益は減少してしまいます。
そこで、Aさんは市場が開けると同時に決済し、20万円の利益を確定しました。
このときに、売りポジションを持っている人は、いっせいに決済をすることがあり、レートを買い戻すわけですから、98円からレートは急速に上昇していく可能性が高くなります。
そうすると、99円がレジスタンスラインとなって、跳ね返すケースもありますが、99円を割って上昇し、100円を超えてしまうことも十分に考えられます。
もし、100円を超えてしまったら、今度は含み損をかかえてしまうことになり、利益をもくろんでいたのが、だめになってしまいます。
窓空きのときに新規のポジションを建てる
ギャップ・アップで窓が開いたときは、売りポジションを建てます。
レートが徐々に金曜日の終値に近くまで下落するからです。
そして、終値近くでいったん決済あるいはドテンをして、押し目買いをします。
そううると、終値がサポートラインとなって価格がはじかれ、上昇する可能性が高くなります。
ギャップ・ダウンで窓が開いた場合は、買いポジションを建て、レートが終値に向かって上昇していき、終値がレジスタンスラインとなって、価格を跳ね返す可能性がでてきます。
そうすると、買いポジションを決済するかドテンをして、戻り売りのポジションを建て、利益を確定します。
このように、窓がどんな空き方をするか、持っているポジションが買いか、売りかによって、窓空きのトレードは変わってきます。
窓空きは一時的かどうかを調べる
窓が開くのは、土日の週末に何か大きな政治的、経済的なイベントが起きた場合、あるいは社会生活を揺るがすような事件が起きた場合に、週明けの月曜日に、ローソク足の窓が開いて、取引がスタートします。
ただ、そうした大きなイベントや事件がなくても、窓が開くときがあります。
これは、一時的な窓空きの減少ととらえられ、窓が開いたときのローソク足の動きの特徴である「窓を埋める傾向にあり」「ニューヨーク市場の金曜日の終値がサポートラインやレジスタンスラインとなる」に、のっとった動きを展開します。
そうしたときは、値動きも読みやすく、利益を上げるチャンスといえます。
しかし、ファンダメンタルズが大きく変動するようなイベントが起きて、窓が開いた場合には必ずしもこのセオリー通りには相場が動きません。
終値より高くつくギャップ・アップの状態だと、終値に近づくどころか上昇トレンドを形成したり、ギャップ・ダウンの場合は下降トレンドを形成することがあります。
つまり、トレーダーとしては、土日の週末に相場を動かすような事件やできごとを必ずチェックする必要があるということです。
そうしたチェックをする習慣を身につけるのが大事なことになってくるというわけです。
窓空きのトレードはポジションの持ち方次第で利益をうんだり、損失を被ったりします。
ですから、あくまでも慎重に値動きを判断して、トレードをする必要があります。
辻秀雄氏のプロフィール
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから