通貨の金利は中央銀行の金融政策で決まる
トレーダーが通貨ペアに自分のお金を使って投資をするときに考えるのが、通貨ごとに定められている金利(=資金の使用料もしくは賃借料)のことです。
ふつう、投資マネーは、金利の低い通貨から、金利の高い通貨に投資される傾向が非常に強いといえます。
なかでも、リスクオン(収益を追求しやすい相場状況、またはそういった地合いあるいは雰囲気のこと。これは、株式やコモディティ、ハイイールド債、高金利通貨など、リスクの高い資産に資金を振り向けることを意味します)のときであれば、トレーダーはリスクをあえて取りながら、金利の高い金融商品(FXの場合は高金利通貨ですが)に投資をしますので、高金利の金融商品が買われやすくなります。
では、通貨の金利はどうやって調べたらいいでしょうか。
それは、各国の金融当局が決定する政策金利を見ると、一目瞭然でわかります。
たとえば、「米ドル/円」に影響を与える米ドルの金利は、FOMC(連邦公開市場委員会)の場で決まります。
FOMCは、1年のなかで8回(1月、3月、5月、6月、7月、9月、10月、12月)開催されます。
FOMCの日程がいつかを知りたければ、「Board of Governors of the Federal Reserve System」にアクセスをすれば、調べることができます。
また、主要国の政策金利は、それぞれのFX会社のサイトで紹介をしています。
なぜ、為替は金利で決まるといえるのか
ではなぜ、為替は金利で予測ができるといえるでしょうか。
それを知るにはまず、為替の基本を知ることです。
一般に、為替取引は大きく分けると2つに分かれます。
- 貿易取引
- 資本取引
貿易取引とは、輸出企業が商品を海外へ輸出して得た外貨(米ドル、ユーロなど)を日本円に替える、輸入企業が海外からの商品を購入するために、日本円を外貨(米ドルやユーロなど)に替える、つまり、貿易を行うために必要な通貨を交換する、いわゆる「実需」です。
一方、資本取引は簡単にいうと、「投資」そのものです。
90年代の終わりまで、為替取引といえば、貿易取引が圧倒的に多かったわけです。
ところが、1998年に外為法が改正されて、個人にも為替取引、すなわちFX取引が解禁されると、あっという間に為替取引は資本取引が主流となりました。
現在では、貿易取引と資本取引の割合は、1対10といったところです。
そうしたことから、単純に考えると、為替は資本で決まるということになります。
ではその資本はなんで決まるかといえば、先程説明したように、金利の低い通貨から金利の高い通貨に資金は流れますから、資本(つまりはマネー)は、金利の高低で決まるといっても間違いではありません。
では、金利は何を根拠に決定されるかといえば、たとえば、米ドルの場合は雇用統計が大きく影響します。
なかでも失業率の高い、低いが大きく左右します。
なぜなら、失業率が低いということは、アメリカ国内の景気が良くて、雇用人数が増加していることを意味するからです。
つまり、金利はその時の景気に大きく影響を受けます。
その金利は資本取引に影響を与えます。
そして、資本取引によって為替が決まることになります。
ということは、景気→金利→資本→為替という図式が成立することになります。
だから、為替は金利で決まるといえるわけです。
為替予測は難しい?
為替予測は難しい、不可能だという人は少なくありません。
なかなか教科書どおりにはいかないよ、という声も多くあります。
たしかに、一般的にいえば、為替予測は難しく、教科書通りに行かないのも事実です。
しかし、トレーダーの皆さん、なにか忘れてはいませんか?
通貨ペアを買うか、売るかを判断するときにまず気にするのが、スプレッドです。
秒単位や分単位で取引をするスキャルピングをメインの取引にしている方は、とくに、スプレッドを気にします。
金利のことはまったく頭にないのです。
たとえば、金利で為替の動きを説明します。
2011年3月11日の東日本大震災を忘れている人はいないでしょう。
その時の、「米ドル/円」相場はどうなったでしょうか。
未曾有の災害に見舞われたのですが、経済や社会が大混乱します。
景気も悪くなることが予想されます。
為替は通常なら、円が売られて、円安が進行するはずです。
しかし、実際は、「米ドル/円」は、76円近辺まで買われ、円高の展開となりました。
FXの教科書通りにいけば、景気が悪くなると予想されると、「米ドル/円」の場合、円が売られて円安米ドル高になるはずです。
それがなぜ円高が進行したのでしょうか。
そこには米ドルと円の金利が影響したからです。
2011年といえば、日本の金利水準は歴史的な低水準のままでした。
そのため、東日本大震災があっても金利水準はあまり低下をしませんでした。
そして、アメリカ国内では景気の回復が遅れていて、米ドルの金利が一段と低下したのです。
その結果、震災後でも、円高米ドル安になったのです。
つまり、日本円のように超低金利の通貨は、他の通貨お金利動向に大きく影響を受けることが多いのです。
また、日本では1991年から始まったバブル崩壊で、「失われた10年」とか「失われた20年」、最近では「失われた30年」という声まで出ています。
日本の景気が低迷すれば、日本円は売られやすくなって、「米ドル/円」相場は円安米ドル高になりそうなものです。
ところが実際の「米ドル/円」相場は、バブル崩壊以前は200円台だった相場が、バブル崩壊以降、「失われた〇〇年」と言われて板にも関わらず、100円台の前半あるいは100円を切るといった、円高傾向が未だに続いています。
株式市場の日経平均が2万円台を回復したとはいえ、景気がバブル以前に回復したとは到底思えない、経済状況です。
円安になってもなんの不思議もありません。
ではなぜ、日本の景気が回復傾向にないのに、ずっと円高傾向が続いているのでしょうか。
それを説明するのにもってこいなのが、「金利」です。
日本円の金利があまりにも超低金利なので、もう金利の下落余地はなく、日本円が下落することが避けられたからです。
では、日本の景気が回復したら日本円が買われて、円高になるか、といえば、そうとも限りません。
先程も述べたように超低金利の日本円は他通貨の金利動向に大きく左右されます。
さらに、経済はグローバル化し、一国の経済状況が国際経済と連動しています。
ですから、日本の景気が良くなってくると、たとえば、アメリカの景気も連動して回復することが多くなってきます。
そうすると、アメリカの景気回復は米ドル金利の上昇を招きます。
日本円と米ドルの金利差は開く一方となります。したがって、資本(投資マネー)は、金利の低い通貨から金利の高い通貨に流れますから、米ドル高・円安になりやすいといえるのです。
FXの教科書通り、定石とは言い難い動きになります。
しかし、だからといって、FXは難しい、予想が困難だというわけではありません。金利のことを常に頭にいれておけばいいだけの話です。
なぜ金利を重要視しないのか
金利は為替相場の予測にとって不可欠なのに、トレーダーの皆さんはなぜ金利を重要視しないのでしょうか。
そこにはなにか原因があるはずです。
その主要な原因は、機関投資家であるプロと比較する、個人のトレーダーは金利情報を得る機会が少ないからです。
たとえば、ブルームバーグの「ブルームバーグターミナル」という法人向けの専用端末があります。
ブルームバーグの解説を借りると、「ブルームバーグ端末は、リアルタイムで配信されるあらゆる市場のデータ、信頼性の高いニュースや独自のリサーチ、高度な分析機能、コミュニケーションツールを集約した世界トップクラスの法人向け金融ソリューションです」となります。
この端末には、世界各国の通貨の金利上も含まれています。
この端末を個人で使用するのは、よほどの資産家でない限り無理です。
しかし、金融機関に勤めていて、為替関連の業務を担当しているのであれば、自由にこの専用端末を利用することができます。
金利情報も苦もなく、入手することができます。
したがって、個人でこのような専横端末が利用できないのであれば、ネットで金利情報を提供しているサイトを発見するしか方法がありません。
金利情報を提供しているサイト
インターネットの検索サイトで「金利」とか「Interest Rates」などの金利に関するキーワドードを入力して検索すると、金利に関するいろいろな情報サイトがでてきます。
そのなかで、自分で使いやすいところを選んで、金利情報のネタ元にすればいいと思います。
以下に挙げたサイトはほんの一部ですので、参考までにどうぞ。
「FFレート」(アメリカ)
「World Interest Rates」(FXSTREET)
「マーケット 米国債・金利」(ブルームバーグ)
「日本国債利回り」「株式マーケットデータ」
どの金利を見ればよいのか?
為替相場が金利に影響されることは間違いありませんが、では、どの金利をヘックしたらいいでしょうか。
2010年の前半から中盤にかけては、「米ドル/円」では、2年債利回りが相関性が高いと言われていましたが、ここ数年では、10債利回りが相関性が高くなっています。
主な金利の種類には、長期金利と短期金利があります。
長期金利は、償還期間の長い債券や満期までの期間が長い金融資産や負債にかかる金利のことです期間が10年に最も近い国債の金利が日本では代表的な長期金利と言われています。
短期金利は、償還期間の短い債券など期間の短い金融資産や負債にかかる金利です。
代表的なものは、銀行間の資金融通を行うコール市場の無担保翌日返済の借り入れ金利(無担保コールレートオーバーナイト物)です。
為替相場にとって重要な金利は、米国の2年債利回りと10年債利回りです。
とくに「米ドル/円」相場には大きく影響します。
米国の10年債利回りは、10年間という長い償還期間なので、長期的な為替動向や財政動向を見るのには適していますが、短期的な為替の動向をみるには適切ではありません。
2年債利回りはその逆です。
したがって、為替相場の動向をつかむには、米国10年債利回りと2年債利回りの両方をチェックする必要があります。
さらに、金利の動向に関しては「ブルームバーグ」や「ロイター」などのニュースサイトのチェックや、機関投資家やFRBなど中央銀行の要人発言にも注目する必要があります。
辻秀雄氏のプロフィール
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから