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雇用統計の読み方とその攻略方法

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雇用統計の読み方とその攻略方法

経済指標のなかで為替相場にもっとも影響を及ぼすのが米国労働省の雇用統計です。

毎月第一金曜日の21時30分(夏時間、日本時間。冬時間だと22時30分)に、米国の労働省が発表をする重要な経済統計です。

米国の金融政策を決定するFRB(連邦準備制度理事会)の重要政策の一つとして雇用政策があります。

FRBは雇用者数や失業率、平均賃金などの統計を参考に、政策金利を決定しています。

ですから、雇用統計は非常に重要な位置づけにあると考えなければなりません。

FRBの金融政策は米国の経済政策の根幹をなすものであり、FRBの金融政策如何によってアメリカ経済やアメリカの景気が大きく影響を受けることはいうまでもありません。

それだけに、為替取引をする者にとっては常に注視しておくべき存在なのです。

米国の雇用統計は農業を除く全国の約40万社の事業所を対象に、給与支払い帳簿(NFPR)の結果をまとめたものを基礎として算出した数字です。

雇用統計のなかで為替市場がもっと注目するのが、非農業部門雇用者数です。

市場は失業率よりも実際の雇用者数に注目をします。

その雇用者数も、リーマンショックが起きた2008年から2010年末にかけては、雇用者数は増加するどころか減少していました。

なかでも、2008年12月から2009年5月にかけては、毎月50万人以上も雇用者数が減少していました。

それも60万人以上が減少した月もありました。

コンスタントに20万人が増加するようになったのは、2015年頃からです。

今や、20万人増加というのが一つの節目のようになってきており、雇用統計が発表されたときの数字が20万人を超えていると、「米ドル/円」も買われて上昇していることが多いように感じられます。

もっとも「米ドル/円」がどう動くかは、アナリストらが事前に予想した数字との乖離が大きければ大きいほど、動きも大きくなります。

それは絶対にそうなるかとは断言できませんが、その傾向が強いといってもいいでしょう。

非農業部門雇用者数の推移

相場への影響をほぼ与えない失業率

一方、雇用統計のなかには失業率の発表もあります。

失業率が下がったからといって市場がとくに反応するということはあまりありません。

一つには、失業率の計算の仕方にもよるわけですが、失業率は、失業者を労働者で割ったものに100%をかけて算出します。

このときの失業者の定義が、「過去4週間以内に仕事を探している者」となっています。

ということは、4週間以前に仕事を探している人、仕事を失って働く意欲をなくして仕事探しをしていない人は数に含まれていません。

ですから、発表された失業率が実際の失業率なのかといえば、どうかな、と疑いを持ってしまいます。

そのため、失業率については目安という風にとらえたほうがいいかもしれません。

そして、重要なことは、「米ドル/円」がほとんど失業率の高い、低いに顕著な反応を示さないことです。

はっきり言ってしまえば、FXトレードをする者にとって失業率は関係ないということがいえなくもありません。

ですが、相場は生き者と考えたときに、何が相場に影響を与えるかを正確に把握することは、スーパーマンでもできない芸当ですから、失業率は相場にあまり関係がないとはいえますが、かといってまったく無視していいかともいえません。

いま米国の労働環境のなかで、失業率はこのぐらいの数字なんだというふうにとらえておけばいいのではないかと思います。

失業率の推移

前哨戦となる経済指標

米国の雇用統計の動向を占う経済指標が二つあります。

いずれも雇用統計の前哨戦になる経済指標として位置づけられています。

それは何かといえば、次の通りです。

  • ADP雇用統計
  • 新規失業保険申請件数

ADP雇用統計

まず、ADP雇用統計から説明をしましょう。

これは、全米約50社の給与計算をアウトソーシングで請け負ったり、人的資源に関するソリューション提供など、主に人的問題についての解決策を提供しているADPという企業が、給与計算の記録をもとに、雇用統計を発表しているものです。

ADP雇用統計の推移

ADP雇用統計は、米国労働省が発表する雇用統計と同じ週の2日前、第一水曜日の22時15分(冬時間、日本時間、夏時間だと21時15分に発表)に発表されます。

新規失業保険申請件数

次に新規失業保険申請件数についてです。

この経済指標も雇用統計の前哨戦の指標として重要です。

この指標は景気に大きく影響を与えるため、景気先行指数として採用されています。

新規失業保険申請件数とは、雇用保険を支払っている人が会社の都合か、自分の都合で会社を辞めたとき、仕事を失って失業者になったときに、雇用保険の申請を初めて行った件数をまとめたものです。

ですから、この件数が、失業者全体の数を表しているものではありません。

あくまでも本人が自発的に申請をするものですから、失業しても雇用保険を申請しない人もいますし、申請しようと思ったが悪天候で申請するのを延ばし延ばしにしている人など、いろいろな事情によって申請件数が変化します。

新規失業保険申請件数は、毎週、木曜日の22時30分(冬時間、日本時間、夏時間だと21時30分に発表)に発表されます。

では、直近の新規失業保険申請件数をみてみましょう。

2020年3月5日(木)22時30分(日本時間)に発表された新規失業保険申請件数は、216,000件でした。

予想では215,000件でした。

この結果、「米ドル/円」は、どうなったでしょうか。

22時30分にこの経済指標が発表されると、「米ドル/円」は始値106.877円をつけたあと、いったんは106.890円まで上昇しましたが、すぐに押し戻されて106.853円まで下落しました。

しかし、そこから買い戻されて106.808円をつけました。

これが、22時30分の1分間の値動きです。

その後「米ドル/円」は下落を続け、22時34分に106.821円まで下落して、22時35分には上昇に転じました。

これだけをみると値動きはほんのわずかですから、大した取引ではありません。

しかし、経済指標のちょっとした数字がもとで、価格が上下をするのはわかっていただけたと思います。

この場合は、新規失業保険申請件数が予想より増えたわけですから、雇用環境が悪化したと見た人がいたということではないでしょうか。

新規失業保険申請件数の推移

ADP雇用統計と米国労働省雇用統計の相関関係

民間機関と公的機関では数字の算出方法が違っていますので、ADP雇用統計と労働省の雇用統計に相関関係が必ずしもあるとはいえません。

たとえば、この半年間の両者の雇用者数の数字を比較すると以下のような表になります。

発表年月 ADP雇用統計 米国労働省雇用統計
2019年10月 135,000人増 136,000人増
2019年11月 125,000人増 128,000人増
2019年12月 67,000人増 266,000人増
2020年01月 202,000人増 145,000人増
2020年2月 291,000人増 225,000人増
2020年3月 183,000人増 273,000人増

以上のことからいえるのは、両者が相関関係にあるといっていいのふた月で、まったく相関関係はないと言っていいのは一つの月です。

あとの三つの月は、やや相関関係があるといえなくはありません。

これらの数値結果から、ADP雇用統計と米国労働省雇用統計はまったく相関関係にあるわけではありませんが、参考にするにはかまわないということです。

では、米国労働省雇用統計が発表される1週間から10日前に発表されるアナリストの分析結果と雇用統計の結果は相関関係にあるのでしょうか。

同じようにここ半年の予想と結果を表にまとめると以下のようになります。

発表年月 アナリスト予想 結果
2019年10月 145,000人増 136,000人増
2019年11月 90,000人増 128,000人増
2019年12月 131,000人増 266,000人増
2020年01月 162,000人増 145,000人増
2020年2月 163,000人増 225,000人増
2020年3月 175,000人増 273,000人増

アナリストの予想がほぼ的中したのはふた月だけで、あとの4つの月は予想が当たっているとは言えません。

ただ、相場は予想と結果が大きく乖離していればしているほど大きく動きやすいのは確かですから、そういう意味では、結果発表があった時点で、予想と比較してから、相場に参加するのも悪くはありません。

たとえば、2019年11月1日発表の米国労働省雇用統計ですが、21時30分(夏時間、日本時間)に発表される10分前や5分前から取引の量が減ってきます。

ローソク足の実体も短くなり、買い手も売り手も様子見に変わったことがローソク足のチャートからみてとれます。

もし、買いと売りがせめぎ合って価格が動かない状態であったなら、上ヒゲも下ヒゲも長いヒゲをつけるはずです。

そして21時30分に米国労働省雇用統計が発表されました。

「米ドル/円」は、107.944円をつけたあと108.259円まで上昇しましたが、押し戻されて108.219円で引けました。

これが、21時30分01秒から21時34分59秒までの値動きでした。

もし、10万通貨の買いポジションをもっていたら、単純計算で31,500円の利益確定ということになります。取引としては上々ではないでしょうか。

1万通貨でも3,150円の利益ですから、ふたりでランチをするぐらいの余裕があります。

2020年1月10日発表の雇用統計と値動き

では実際にチャートを使いながら、2020年の雇用統計の値動きを見てみましょう。

2020年1月10日に発表された米国労働省雇用統計です。(2019年12月の雇用者数をまとめたもの)

2019年12月の米国の雇用の伸びは予想よりも鈍化しましたが、雇用のペースは貿易紛争に苦しむ製造業部門の深刻な景気後退にもかかわらず、歴史上、最長の経済成長を維持するのに十分なままでした。

失業率は50年ぶりの最低値となる3.5%近くにとどまっていることを示しています。

アナリストの予想は162,000人の増加というものでしたが、実際には、145,000人増(のちに調整されて147,000人増)という結果に終わりました。

これを受けて「米ドル/円」はどう動いたでしょうか。

「米ドル/円」1分足のチャートで見てみましょう。

22時30分の5分前ぐらいから、「米ドル/円」の値動きは鈍くなりました。

上昇トレンドできたのですが、ローソク足の実体の幅も狭まってきています。

そして、22時29分に、中国との貿易戦争で苦境に追い込まれている製造業の雇用が伸びないとみたのか、売りが入ります。

109.675円から109.642円まで下落します。

そして、22時30分の発表と同時に、いっせいに売りが入り、109.636円から109.506円まで下落しました。22時31分には買い戻されて、上昇に転じています。

もし、10万通貨の売りポジションをもっていたら、13,000円の利益確定です。

1万通貨では1,200円の利益です。

この場合、22時29分に売りが入り価格が下がりました。

このときに、売りポジションでエントリーするかどうかは、実際に数字が発表されてみないと不安で、エントリーはできません。

それでいいのです。

余裕は1分間あります。

その間にどうするかを考えて、数字が発表されて5秒や10秒、あるいは15秒もあればエントリーはできます。

ですから、1分前に売りが入り、ローソク足の陰線が出現してもあわてないことです。

また、1月の米国労働省雇用統計の「米ドル/円」の動きですが、22時31分にはすぐに買い戻されて、陽線がつきました。

こんなに早く買い戻されたのはどうしてでしょうか。

それは、市場に与えるインパクトが小さかったからです。

予想と結果の誤差が17,000人ですので、全産業に対する影響はわずかと見る向きが多かったということになります。

2020年1月10日22時30分前後の「米ドル/円」チャート

「米ドル/円」1分足。左橋が22時24分で、右端が22時34分になります。

2020年2月7日発表の雇用統計と値動き

では次に、2020年2月7日に発表された米国労働省雇用統計です。

この統計は2020年1月の雇用者数をまとめたものです。

予想は163,000人で結果は225,000人(のちに調整されて273,000人)で、その誤差は、62,000人です。

米国は、製造業の縮小と緩やかな経済成長にもかかわらず、労働市場の驚くべき回復力を反映して、2020年に好調なスタートを切るために、1月に強固な225,000人の新規雇用を創出しました。

経済は過去3カ月で平均211,000人の新規雇用を追加し、昨年の秋から著しく増加しています。

失業率は、50年ぶりの最低値である3.5%から3.6%まで上昇しました。

これは、より多くの人々が仕事を求めて動いたためです。

すべての新規参入者がすぐに仕事を見つけられない場合、失業率は上昇する傾向がありますが、それは強い労働市場の兆候と考えられています。

「米ドル/円」は数分前から取引が縮小し、ローソク足に勢いがなくなっています。

そして、22時29分には陰線が出現したのは、買いポジションを決済して、米国労働省雇用統計の発表に備えるためと考えられます。

そして、22時30分に統計数字が発表されました。

「米ドル/円」は109.877円から109.866円まで下落した後上昇に転じ、109.994円まで上昇しましたが、すぐに押し戻されて109.959円をついて、22時30分1分間の取引を終えました。

そして、22時31分には売りが入り、価格は下落していきました。

新型コロナウィルスの影響があるのか、「米ドル/円」はドル安円高にシフトしました。

2020年2月7日22時30分前後の「米ドル/円」チャート

「米ドル/円」1分足。左端は22時26分、右端は22時36分です。

2020年3月6日発表の雇用統計と値動き

ではもう一件、見ておきましょう。

2020年3月6日に発表された米国労働省雇用統計です。

この統計は、2020年2月分の雇用者数をまとめたものです。

2月の非農業部門の雇用者数は273,000人の増加となりました。

2018年5月以来の最大の増加でした。

輸送と倉庫業務の雇用は4,000人減少しました。

新型コロナウイルスの初期の影響が示唆されましたが、これは政府を含むほぼすべての部門での大幅な雇用者数の増加により、影響はありませんでした。

過去3カ月間の雇用増加は、1カ月あたり平均243,000人でした。

経済は、労働年齢人口の増加に対応するために、月に約100,000人の雇用を創出する必要があります。

金曜日の雇用統計は、月間賃金の堅調な伸びと失業率が50年ぶりの最低3.5%に戻ったことを示しました。

また、雇用主は2月、労働者の時間給を増やしました。

米国労働省雇用統計が発表された3月6日の22時30分から「米ドル/円」の動きは、統計が発表された他の月とは異なった動きをしました。

なぜなら、いったん上昇した価格が下落し、3分後に再び上昇に転じたからです。

これまで米国労働省雇用統計の発表日の「米ドル/円」価格は、発表時価の22時30分に上昇(あるいは下降)したあとすぐに反対売買されています。

わずか2分間のインターバルですが、このような価格の動きは非常に珍しい動きといっていいかもしれません。

では、「米ドル/円」の動きをみてみましょう。

22時30分に105.099円をつけたあと105.188円まで上昇しました。

そして、22時31分と32分には下落しましたが、22時33分には105.154円から分ごとに上昇し、22時36分に105.410円まで上昇して、22時37分には下落していきました。

上昇途中になぜ下落に転じたのか理由はわかりませんが、3月3日のFRBの緊急利下げが要因で一瞬ドル安に転じる気配をトレーダーが感じたのかもしれません。

しかし、このような動きは異例中の異例といっていいかもしれません。

2020年3月6日22時30分前後の「米ドル/円」チャート

 「米ドル/円」1分足。左端22時29分、右端は39分です。

オーストラリアの雇用統計

雇用統計といえば、米国労働省雇用統計が大きく注目されていますが、実は、隠れた存在として意外とトレーダーが注目しているのが、オーストラリアの雇用統計です。

この雇用統計は毎月中旬、9時30分(日本時間)に発表されます。

では、2020年1月23日9時30分(日本時間)に発表されたオーストラリアの雇用統計(2019年12月月分)時の「豪ドル/円」(1分足)の動きを見てみましょう。

予想は12,200人増でしたが、結果は28,900人の増でした。

誤差は15,700人増でした。

9時30分に75.801円をつけたあと75.439円まで上昇しましたが、押し戻されて75.339円で引けました。

その後、9時31分には下落に転じています。

もし、「豪ドル/円」が75.801円のとき10万通貨のポジションをもっていて、75.439円で決済をしたら、36,200円の利益確定です。

1万通貨でも3,620円の利益です。

2020年1月23日9時前後の「豪ドル/円」のチャート

「豪ドル/円」1分足。左端は9時28分、右端は9時33分です。

以上、米国とオーストラリアの雇用統計時の「米ドル/円」と「豪ドル/円」の動きをみてきたわけですが、どちらの雇用統計にもいえることは、雇用統計が発表される前は取引量が極端に少なくなり、様子見が増えることです。

トレーダーのなかには、雇用統計のときは取引をしない、と公言する人も少なくありません。

確かに、以前、そう10年ぐらい前までは、米国労働省雇用統計は大きく動くことが多々ありました。

瞬間に1円や2円はあっという間に上げたり、下げたりすることがありました。

ですから、動きが早くて大きいので、取引にはリスクを感じて、雇用統計の日は取引をしないという人がいました。

しかし、最近は以前ほど雇用統計は動きません。

1円動くことは希だといってもいいでしょう。

ですから、過去のようなうまみがなくなってきているのかもしれません。

しかし、そうはいっても雇用統計です。

雇用統計発表前の動きを注意してみることも必要です。

ローソク足のチャートをみれば、トレーダーが何を考えているかが多少はわかります。

それから、急に価格が上昇や下落をしても、慌てないで、落落ち着いて値動きを追って取引をすれば、大けがは負いません。

雇用統計は以前と比べると動きが少ないとはいえ、経済指標のなかではもっとも価格が動く経済指標です。

辻秀雄氏のプロフィール

辻秀雄氏
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから
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