金利と金融政策
水は高きから低きに流れますが、投資家は低きから高きに流れます。
金利の低い通貨から高い金利の通貨に投資資金が流れやすいということです。
確かに、低い金利の通貨よりも高い金利の通貨を持っているほうが得なことは言うまでもありません。
ただし、条件としては市場が安定しているということです。
そして、高金利通貨はその高い金利から投資家にとっては大変魅力的に映ります。
これら高金利通貨と米ドルや円などの金利の低い通貨を取り引きすると、毎日、スワップポイントがはいってきます。
トレードをしなくてもロングポジションを持っているだけで、いくばくかの現金が口座に振り込まれてきます。
それだけでも高金利通貨はお得で、魅力的に映ります。
さらに、高金利通貨は、対円換算をしても非常に価格が低いのが特徴です。
ということは、証拠金が少なくて済むということです。
しかも、少ない証拠金にもかかわらず、利益を得る構造は主要通貨とまったく同じです。
そうやって聞くと、高金利通貨はいいことだらけという気がしてきます。
しかし、高金利通貨に落とし穴もあります。
それは、市場の取引に参加している人が少ないことから、価格が激しく変動することがあるということです。
市場参加者が少ないため、大きな取引量が発生すると、価格が大きく上下します。
また、高金利ということは、その国の経済はインフレ率が高いということになります。
さらに、高金利にするということは、政情不安などの理由で資金調達が難しい国であるともいえます。
政情不安な国へは誰も投資したくはありません。
そこで、それらの国々では金利を高くして資金を集めるといった方法をとらざるを得ないのです。
ですから、FXトレードをしているときに政変が起きたり、他の国との戦争などが勃発したら、その国の通貨は暴落します。
そうなると、投資した資金は紙くず同然となってしまいます。
つまり、それだけリスクが高い通貨となりますので、高金利通貨のことを別名、リスク通貨と呼ぶこともあります。
ただ、考えてみてほしいのは、FXで通貨の取引をするのは高金利のスワップ狙いが目的の人もあるかもしれませんが、多くの人は実際のトレードで利益を得たいと思っているはずです。
だから、高金利だからといって、単純に高金利通貨を取り引きするわけではありません。
したがって、為替相場が動くのは高金利だからではなく、その国の金融政策によって、為替相場は大きく、あるいは小さく変動します。
ある国の中央銀行が金融緩和政策をずっと実行していたが、景気も徐々にだが上向いてきて、雇用環境も改善の兆しをみせたために、金融緩和の打ち止めを発表したとします。
そうなると、その国の通貨は買われやすくなります。
というのは金融緩和のために、所持していた売りポジションを持っていた人たちが、金融緩和打ち止めで金利が上昇するとふんだため、売りポジションをいっせいに決済するからです。
しかも、景気が過熱し、金融引き締めの必要を感じた中央銀行が金融引き締め政策を打ち出したりすれば、その国の通貨は買われやすくなります。
それは、投資家は金利が高い通貨を求める傾向にありますが、プロのディーラーがこぞって買いに走るからです。
そうやって投資家を誘い込み、買いポジションが積み上がったころで売り抜けば、大きな利益を手にすることができます。
まさに、プロトレーダーたちは、各国の金融政策を素人の個人投資家よりも真剣に注意してみており、個人投資家の先を読んでディーリングをしています。
中央銀行は、景気が悪くなり、消費者物価指数も下がり、雇用環境も悪くなってきたり、つまり、経済が停滞をしてきたら、金融緩和政策をとります。
また、その逆に、景気が加熱してきて、インフレ傾向が強くなってくると、金融引き締めを行います。
そのため、為替市場は中央銀行の金融政策には常に注目をしています。
通貨の金利は政策金利といわれており、その金利を決めるのは各国の中央銀行です。
日本でいえば日本銀行ですが、アメリカでは中央銀行である連邦準備制度(FBS)を管理・監督する連邦準備制度理事会(FRB)、EUだと欧州中央委銀行(ECB)、イギリスだとイングランド銀行、オーストラリアだとオーストラリア準備銀行です。
このように各国には政策金利を決定する中央銀行が必ず置かれています。
そして、それぞれの中央銀行の金融政策によって、その国の通貨の政策金利が決まります。
それが、その国の経済活動や政治、世界の為替市場に影響を及ぼすのです。
ことに為替の世界では、アメリカの金融政策が大きく影響をします。
そこで、ちょっと長くなりますが、まずはじめにアメリカの中央銀行について詳しく述べてみたいと思います。
これってトレードとどんな関係にあるのか?と、疑問に思われる方がいるかもしれません。
アメリカの中央銀行のことを詳しく知ったところで、トレードのテクニックが上達するわけではありません。
しかし、FXという金融商品と取り引きするのであれば、為替相場に影響を与えるアメリカの中央銀行については、知識として、FXトレーダーの常識として、少しは知っておかれたほうがいいのではないでしょうか。
トレーダー同士で金融政策の話をすることがあると思いますが、そのときに、アメリカの中央銀行のことを知っているのと、知らないとでは、会話の盛り上がりも、話の深さも違ってきます。
ここは、金融知識の一つとして身につけておきましょう。
Fed(アメリカ)
世界の基軸通貨である米ドルを発行している、アメリカの中央銀行である連邦準備制度(Federal Reserve System)は、通常、Fed(フェド)と呼ばれています。
FRSといっても何のことかわからない人もいますが、Fedというのは誰でも知っています。
Fedには、全米を12地区にわけて、それぞれ連邦準備銀行(FRB=Federal Reserve Bank)が置かれています。
ただ、FRBには二つの意味があり、一つは連邦準備銀行のことであり、もう一つは連邦準備制度理事会のことをさしています。
ちょっとややこしくはなりますが、話の流れで、FRBがどちらのことを指しているのか、察してもらうしかありません。
以下の表は、連邦準備銀行の簡単な概要です。アルファベットのA~Lは、それらの連邦準備銀行が発行する米ドル紙幣にふられている(印刷されている)ものです。
連邦準備銀行名 | 管轄州 |
---|---|
Aボストン連邦準備銀行 (マサチューセッツ州ボストン) |
コネチカット州、マサチューセッツ州、メイン州、ニューハンプシャー州、ロードアイランド州、バーモント州 |
Bニューヨーク連邦準備銀行 (ニューヨーク州ニューヨーク) |
ニューヨーク州 |
Cフィラデルフィア連邦準備銀行 (ペンシルベニア州フィラデルフィア) |
ペンシルベニア州東部、ニュージャージー州南部、デラウェア州 |
Dクリーブランド連邦準備銀行 (オハイオ州クリーブランド) |
オハイオ州、 ペンシルベニア州西部、ケンタッキー州東部、ウェストバージニア州北部の細長い地域 |
Eリッチモンド連邦準備銀行 (バージニア州リッチモンド) |
ウェストバージニア州の大部分、サウスカロライナ州、ノースカロライナ州、バージニア州、メリーランド州、ワシントンD.C |
Fアトランタ連邦準備銀行 (ジョージア州アトランタ) |
アラバマ州、ジョージア州、テネシー州東部、フロリダ州、ミシシッピ州南部、ルイジアナ州南部 |
Gシカゴ連邦準備銀行 (イリノイ州シカゴ) |
アイオワ州、イリノイ州北部、インディアナ州北部、ィスコンシン州南部、ミシガン州ロウアー半島 |
Hセントルイス連邦準備銀行 (ミズーリ州セントルイス) |
アーカンソー州、イリノイ州南部、インディアナ州南部、ケンタッキー州西部、ミシシッピ州北部、ミズーリ州東部、テネシー州西部 |
Iミネアポリス連邦準備銀行 (ミネソタ州ミネアポリス) |
ウィスコンシン州北西部、サウスダコタ州、ノースダコタ州、ミシガン州の一部、ネソタ州、モンタナ州 |
Jカンザスシティ連邦準備銀行 (ミズーリ州カンザスシティ) |
コロラド州、カンザス州、ネブラスカ州、オクラホマ州、ワイオミング州、ニューメキシコ州、ミズーリ州の一部 |
Kダラス連邦準備銀行 (テキサス州ダラス) |
テキサス州、ルイジアナ州北部、ニューメキシコ州南部 |
Lサンフランシスコ連邦準備銀行 (カリフォルニア州サンフランシスコ) |
アラスカ州、アリゾナ州、カリフォルニア州(本部所在地)、 ハワイ州、アイダホ州、ネバダ州、オレゴン州、ユタ州、ワシントン州、グアム、アメリカ領サモア、北マリアナ諸島 |
1ドル紙幣のマークをみてもらうとわかるのですが、ワシントンの肖像の左横にある丸いマークには、AからLまでのアルファベット文字が記載されています。
これは紙幣が発行された連邦準備銀行を示すものです。
たとえば、Aがボストン、Bがニューヨークで、12番目のLはサンフランシスコです。
よく見るとマークのなかに、地名も読み取ることができます。
連邦準備制度は,1913年の連邦準備法によってアメリカの中央銀行として創設されました。
ワシントンDCにある連邦準備制度理事会(Board of Governors)は、連邦政府の機関であり,議会に対して報告するとともに直接の説明責任を負っています。
連邦準備制度の権限は1913年に連邦準備法の制定によって同制度を創設した議会に由来しています。
この中央銀行「制度」は3つの重要な役割を担っています。
- (1)集権的な理事会である連邦準備制度理事会
- (2)12の連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)による分権化された運営構造
- (3)官民混在の性質
連邦準備銀行は民間主体であるという誤った認識でもって語られることがあります。
12の連邦準備銀行のそれぞれは,地区(District)とよばれるアメリカ国内のそれぞれ独自の地理的範囲内で業務を行っており,各銀行は独立した法人組織で、それぞれに理事会(board of directors)が設置されています。
連邦準備銀行は営利業務を行っておらず、一定量の株式の所有は連邦準備制度への加入のための法律上の要件となっています。
実際のところ、連邦準備銀行は自行が必要とする全ての支出、法律上の要請による配当支払い、限定的な範囲での剰余金の維持を差し引いた純利益を財務省に送金することが法律によって義務づけられています。
連邦準備制度理事会とは
12の連邦準備銀行を管理・監督するのが連邦準備制度理事会(RFB)です。
大統領によって指名され、上院によって承認されている連邦準備度理事会は、連邦準備制度の一般的な方針を決定するとともに12の連邦準備銀行を監督しています。
連邦準備制度理事会は、議会に対して報告するとともに直接の説明責任を負っていますが、ほかの多くの公的機関とは異なりその資金は議会の予算法によるものではありません。
議長及びその他の職員は議会の前で宣誓を行い、理事会は金融政策報告書という直近の経済の進展や理事会の金融政策に関する計画に関する多岐にわたる報告書を年に2回提出します。
理事会はまた、独立した監査による連邦準備銀行の財務諸表及び連邦公開市場委員会(FOMC)会合の議事録を公にしています。
さらに,金融政策の目標を設定するのは議会ですが、どうやってそうした目標を達成するかに関する理事会の決定、そして連邦準備銀行の金融政策決定主体である連邦公開市場委員会の決定にあたっては大統領をはじめ、ほかのいかなる行政・立法府の承認を必要とはしません。
FRB (連邦準備制度理事会) は、7人の理事によって構成されており、議長は大統領が指名します。
FRBには果たすべき使命が2つ存在しています。
それは「雇用の最大化」と「物価の安定」です。
この2つを達成するためにFRBは金融政策を調整しているのです。
つまり、FRBは何をするかをまとめると以下のようになります。
- 1. 完全雇用と安定した価格を求めて、経済の通貨と信用状況に影響を与えることにより、国の金融政策を実施します。
- 2. 銀行およびその他の重要な金融機関を監督および規制して、国の銀行および金融システムの安全性と健全性を確保し、消費者の信用権を保護します。
- 3. 金融システムの安定性を維持し、金融市場で発生する可能性のあるシステミックリスクを封じ込めます。
- 4.米国政府、米国の金融機関、および外国の公的機関に特定の金融サービスを提供し、国の決済システムの運用と監視において主要な役割を果たします。
FOMC(連邦公開市場委員会)とは?
連邦公開市場委員会(FOMC)とは、連邦準備制度の金融政策を立案する機関です。
FOMCは12名のメンバーで構成されています。
連邦準備制度理事会の7名のメンバーとニューヨーク連銀総裁、4名の連邦準備銀行総裁の計12名で構成されています。
連邦準備制度理事会の議長がFOMCの議長を務めます。
ニューヨーク連邦準備銀行の総裁は委員会の常任理事であり、委員会の副議長を務めています。
他の準備銀行の総裁は、FOMCの残りの4つの投票ポジションを交替で務めます。
投票権のないメンバーを含むすべての連邦準備銀行の総裁は、FOMC会議に出席し、議論に参加し、経済および政策オプションの評価などを話し合います。
FOMCは1年に8回、約6週間ごとの火曜日に会議を予定しています。
委員会はまた、経済的および財政的動向を検討するために、必要に応じて予定外の会議を開催することがあります。
議長はFOMC会議の後に記者説明会を開き、FOMCの政策決定について話し合った内容や、それらの決定に至るまでの背景などを発表します。
各FOMC会議の議事録一式は、各定例会議の終了から3週間後に公表されます。
通常、FOMCは経済見通しの変化に応じて短期金利の水準を調整することにより政策を実施します。
FOMCは2008年以来、長期金利を低下させ、それにより財政状態を改善し、経済回復を支援するための政策ツールとして、財務省証券および連邦機関によって発行または保証された証券の大規模な購入も実施してきました。
しかし、2015年12月、リーマンショック以降、7年間続けてきた異例のゼロ金利政策を解除し、利上げを決定しました。
当時、FRBの議長であったジャネット・イエレン氏は、「FRBがこれまで掲げてきた雇用と物価上昇率の二つの条件が満たされたと判断しました。
今後の利上げのペースは緩やかに進むだろう」と述べています。
この決定をうけて、その後、数カ月にわたり市場は大きな混乱状態に陥りました。
つまり、FRBの金融政策は市場に大きな影響を与えるということです。
それは、今回の新型コロナウィルスのことでも、FRBの金融政策は大きな役割を演じています。
新型コロナウィルス対策
ところで、2019年12月からの新型コロナウィルスの発生以来、アメリカは新型コロナウィルスの最大の被害国となっています。
ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は2020年2月28日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急声明文発表しました。
米国経済のファンダメンタルズは引き続き堅調です。ただし、コロナウイルスは経済活動に進化するリスクをもたらします。連邦準備制度理事会は、動向とそれらが経済見通しに与える影響を注意深く監視しています。私たちはツールを使用し、経済をサポートするために適切に行動します
市場では、今回の声明文発表を受けて、次回3月17、18日に予定されている連邦公開市場委員会(FOMC)において、FRBは最大0.5ポイントの追加利下げを決定するのではないかとの見方が広がりました。
たとえば、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のデータによると、3月2日時点において、市場が織り込む次回3月の会合における0.5ポイント利下げの確率は100%となりました。
そして、連邦準備制度理事会(FRB)は3月3日、臨時の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を、1.50~1.75%から1.00~1.25%に引き下げることを決定しました。
定例会合は3月17、18日に予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大などを受けて、臨時会合を開きました。
FOMCは2月28日に追加利下げを示唆する緊急声明文を発表していました。
3月15日、新型コロナウイルスによる経済への影響を軽減するため、政策金利をほぼ0%まで切り下げ、7000億ドル規模の量的緩和政策を導入しました。
それに呼応するかのように、イギリスや日本、ユーロ経済圏、カナダ、スイスが15日以降に発表した金融対策と足並みをそろえることになりました。
ジェローム・パウエル議長は記者会見で、新型ウイルスの世界的流行は経済に「深刻な」影響を及ぼしていると述べました。
ドナルド・トランプ大統領はFRBの動きについて、「とても嬉しい」と述べたといいます。
米ドル資金の供給を強化
FRBの発表では、他国の中央銀行と協調して、市場への米ドル資金の供給強化を図る方針も明らかにしました。
「通貨スワップ協定」と呼ばれるこの取り組みは、2008年の金融危機後、金融市場の安定化の重要なツールとなりました。
英イングランド銀行(中央銀行)のマーク・カーニー総裁(当時)は、16日に次期総裁となるアンドリュー・ベイリー氏と共同声明を発表。
今日の主要中央銀行による協調行動で、金利の引き下げとドル資金の供給期間の延長が実施され、世界的な流動性が高まるだろう
と声明を発表しました。
英CMCマーケッツの主任市場アナリストのマイケル・ヒューソン氏は、こうした協調行動について、
ともかく何でもしようとするもので、到来する経済的衝撃の深刻さを強調している
とコメント。
米オンライン銀行Bankrate.comの主任金融アナリストのグレッグ・マクブリッジ氏は、
非常時には非常時の対応が必要で、FRBはまさにそうしている
と解説。
2008年には世界経済が恐慌になりかけたが、あの時のような信用不安を避けるため、FRBはクレジット市場を支えようとている
と述べています。
利下げは既存債務の負担をわずかに軽減するが、米経済活動の落ち込みが予想される中で消費者や企業は危機に備えて慎重になっているだけに、いつものような借り入れ急増にはつながらないだろう
BBCのファイサル・イスラム経済編集長は、米経済が新型ウイルスで深刻な打撃を受けるなか、FRBは景気刺激のため打てる策はほとんど打ったことになると指摘しています。
今回の動きで米企業などの資金繰りは落ち着くはずですが、アメリカの感染拡大は予想よりずっと深刻で、米当局はもうあまり選択肢が残されていないという現実を示すものだと、イスラム氏は言います。
今回の新型コロナウィルスに関連しての利下げや資金供給によって、為替市場も一時「米ドル/円」は下落しました。
金融政策がインフレと雇用に与える影響とは
短期的には、金融政策は物価とサービスに対するインフレと経済全体の需要に影響を及ぼします。
それらの財とサービスを生産する従業員の需要にも影響を与えます。
また、金融政策は直接金利に影響を与えます。
それは間接的に株価、富、為替レートに影響を与えます。
これらのチャネルを通じて、金融政策は米国の支出、投資、生産、雇用、インフレに影響を与えます。
短期金利の変動は、社債金利や住宅ローン金利などの長期金利にも影響を与えます。
これらの金利は、他の要因の中でもとりわけ、短期金利の現在および将来の値を反映するためです。
さらに、長期金利の変動は、他の資産価格、とくに株価と米ドルの外国為替価値に影響を与えます。
たとえば、他のすべてが等しい場合、投資家は株式投資に関連する将来のキャッシュフローをより低いレートで割り引くため、金利を下げると株価が上昇する傾向があります。
次に、これらの財務状況の変化が経済活動に影響を与えます。
たとえば、短期および長期の金利が下がると、借入が安くなるので、一般消費者の家計では商品やサービスを購入する意思が高まり、企業は、不動産や設備投資を行い、より多くの労働者を雇用し、生産を増加させることにより、これらの総(家計および事業)支出の増加に対応しています。
これらの要因の結果として、家計の富が増加し、それがさらに多くの支出に拍車をかけます。
金融政策から生産や雇用へのこれらのつながりはすぐには現れず、さまざまな要因の影響を受けるため、金融政策が経済に与える影響を正確に測定することは困難です。
金融政策もインフレに重要な影響を及ぼします。
連邦資金の金利が引き下げられると、結果として生じる財やサービスへの強い需要は、生産に必要な労働者や資材への需要の増加を反映して、賃金やその他のコストを押し上げる傾向があります。
さらに、将来の経済の動向に関する期待に影響を与える可能性があり、それらの期待自体が現在のインフレに直接影響する可能性があります。
2008年には、短期金利が実質的にゼロであり、それ以上それ以上下落することができないため、連邦準備制度理事会は、経済への追加の支援を提供するために、非伝統的な金融政策措置を実施しました。
2008年後半から2014年10月までの間に、連邦準備制度理事会は、長期の住宅ローン担保証券と特定の政府支援企業が発行した債券、ならびに長期の国債と債券を購入しました。
これらの購入の主な目的は、長期金利の水準を引き下げ、それにより財政状態を改善することを支援することでした。
このように、この非伝統的な金融政策措置は、政策の実施の違いにもかかわらず、伝統的な政策と同じ幅広いチャネルを通じて機能したのです。
ベージュブックとは?
FRBが発行する重要なデータに「ベージュブック」があります。
12の地区の連邦準備銀行が、それぞれ管轄する地区の経済状況をまとめた「地区連銀経済報告」のことです。
表紙の色がベージュ色であることから、こう呼ばれています。
全米の経済情勢についての総合判断の他、消費支出、製造、金融サービス、不動産、雇用などの各項目の状況について説明されています。
年8回開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)の2週間前の水曜日に発表され、金融政策を変更するかどうかの判断材料に用いられます。
ベージュブックの内容はアメリカの経済情勢を示しており、株式、債券などの相場に影響を与えることがあるので、気にかけておくといいでしょう。
たとえば、米連邦準備制度理事会4月15日に公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)によれば、新型コロナウイルス感染が全米に拡大する中、米経済は萎縮した状態に入ったと報告しています。
ベージュブックは
新型コロナ感染症のパンデミックの結果、経済活動は米国の全ての地域において急激かつ突如として縮小した
と記述。
すべての地区連銀は、聞き取りに応じた企業の見通しがかなり不透明であるとし、その大半が今後数カ月の間に状況が悪化するとの見通しを示したと報告した
という。
今回のベージュブックは、4月6日までに12地区連銀が集めた情報を基にボストン連銀が作成したものです。
新型コロナ感染拡大を抑制する取り組みとして、大半の州政府が住民に外出自粛を要請、3月は全土で企業の操業停止が相次ぎました。
フィラデルフィア連銀の管轄地区では4分の1の企業が操業を停止。
同連銀は「難を逃れたセクターはなかった」と報告しています。
ベージュブックによると、最も打撃を受けたのは娯楽・観光に加え、生活必需品以外の小売り産業でした。
一方、食料品や医療製品には強い需要があり、その生産や供給には混乱が生じました。
すべての地区連銀が雇用の減少を報告。その多くは広範囲に及んでいると指摘しています。
厳しい隔離政策により、膨大数の労働者が失業に追い込まれ、第2四半期(4-6月)の経済成長は年率25%の縮小が予想されています。
とこのように、4月のベージュブックの内容を吟味すると、この後のアメリカ経済の動向がどうなるか、予測がつきます。
それはひいては、為替市場で米ドルがどんな動きをするかの予測にも大いに役に立ちます。
したがって、FRBの金融政策とともに、ベージュブックの内容にも注目をしておきましょう。
欧州中央銀行(ECB)
欧州中央銀行(ECB)は、ユーロを採用した19のEU加盟国の中央銀行です。
マーストリヒト条約1 により、すべてのEU加盟国(27カ国)は通貨ユーロを導入し、その単一通貨制度における金融政策を担うのは欧州中央銀行制度(European System of Central Banks; ESCB)であるとされています。
しかし、実際にはユーロ圏と呼ばれる 19カか国のみユーロを導入しており、EU全体の単一金融政策は施行されていません。
よって、現在はユーロシステム(Eurosystem)と呼ばれるECBとユーロ圏19カ国の中央銀行からなる機関がユーロ圏の金融政策を決定・実行しています。
このユーロシステムとESCBの中核がECB(欧州中央銀行)です。
ECBで決定された金融政策はユーロ圏の各国中央銀行を通じて実行に移されます。
ヨーロッパ全土から3500人を超えるスタッフが、本部のあるドイツのフランクフルトアムマインで勤務しています。
彼らは、ユーロシステム内の中央銀行と緊密に連携し、銀行監督のために単一監督メカニズム内の国家監督者と一連のタスクを実行しています。
ECBの総裁はChristine Lagarde氏で、副総裁はLuis de Guindos氏です。
Christine Lagarde氏は、IMFの専務理事からの移籍です。
主な意思決定機関は、理事会の6人のメンバーと19ユーロ圏の国々の中央銀行の総裁で構成される運営理事会です。
ECBの最大の目的は「物価の安定」です。
物価の安定が、経済成長及び雇用創出を促すとの認識を有しています。
物価の基準として使用されるのは、ユーロ圏の消費者物価指数(Harmonised Indexof Consumer Prices; HICP)の総合指数です。
このHICPの前年比伸び率が「2%をやや下回る水準(“below, but close to, 2%”)」になるよう、さまざまな政策や調整を行います。
ECBの責任としてあげられるのは、一つは、ECBやユーロシステムにゆだねられた業務を達成するための意思決定をすることと、その業務達成のためのガイドラインを採用することです。
負っている責任の二つ目は、ユーロ圏の金融政策を策定することです。
金政政策の策定には、ユーロシステム内での金融の目標や目的、政策金利、準備金の供給などを含み、また、決定したことを実行するためのガイドラインを作成することです。
政策理事会は通常、ドイツのフランクフルトアムマインにあるECBの本部で月2回開催されています。
政策理事会では、経済と金融の動向を評価し、6週間ごとに金融政策を決定します。
他の会議では、理事会は主にECBとユーロシステムの他の業務と責任に関連する問題について議論をします。
ECBの金融政策とその他の業務の監督上の責任を明確に区別するために、政策理事会と他の会議とを別々に開催しています。
金融政策決定は、6週間ごとに開催される記者会見で詳細を説明しています。
ECBの総裁は、副総裁のアシストを得ながら、記者会見の議長を務めるのです。
さらに、ECBは政策理事会での金融政策会議の内容を次の運営理事会の前に公表しています。
独立性
ユーロ圏の金融政策は、ユーロ圏全体の経済状況を考慮し、ECBが決定・実施します。
金融政策運営に関して、その他のユーロ圏の機構や各国政府から独立し、影響は受けません。
ECBはドイツ連邦銀行をモデルとしており、独立性を重視している中央銀行です。
また、このECBの独立性が十分に担保されることによって、域内の物価の安定が図れます。
もし、ECBが特定の加盟国に有利な、あるいは何らかの配慮をした金融政策をとってしまったら、ユーロ圏全体の物価の安定を損なう恐れがあります。
そのため、ECBは独立性と透明性を厳しく自らに課しています。
政策金利の変更
2016年3月10日に開催されたECBの政策理事会の金融政策決定会合で、ECBは3つの主要金利をいっせいに引き下げました。
ユーロの政策金利であるリファイナンス金利を0.05%引き下げて0.00%という、実質ゼロ金利にしました。
また、上限金利の限界貸出金利を0.05%引き下げて、0.25%にしました。
さらに、下限金利の中銀預金金利を0.10%引き下げて、マイナス0.40%にしました。
また、資産購入プログラムに基づく毎月の購入は、4月から800億ユーロに拡大されました。
ユーロ圏で設立された非銀行法人が発行する投資適格ユーロ建て債券は、定期購入の対象となる資産のリストに含まれました。
2016年6月に開始される、それぞれ満期が4年間の長期リファイナンス(TLTRO II)の新しいシリーズが開始されました。
これらのリファイナンスの借入条件は、預金金利と同じくらい低くなる場合があります 。
以上のような金融政策が発表されると、市場がまったく予想外の金融緩和パッケージだったため、為替市場はいっせいにユーロ売りで染まってしまいました。
イングランド銀行(イギリス)
イングランド銀行は1694年に創立された、中央銀行としては世界で2番目に古い銀行です。
もっとも古い(伝統のある)中央銀行は、スウェーデン国立銀行(リスクバンク)です。
イングランド銀行は、戦争による政府財政の逼迫を緩和する目的で設立された、いわゆる「政府の銀行」としての役割を期待された民間の銀行でした。
それが、やがて政府の銀行に格上げされていったわけです。
イングランド銀行が設立された当時、イギリスとフランスは戦争状態にありました。
そこで、対フランス戦争の巨額の戦費をまかなうため、議会のホイッグ党議員は、国債の募集を決定し、さらに、企業に対する資金を融資する金融機関の設立を議決しました。
そして、資本金を民間から公募して、集まった120万ポンドをもとにイングランド銀行を設立したのです。
イングランド銀行は、公募金を政府に貸し、それと同額の銀行券を発行する特権が与えられ、預金、貸し付け、商業手形割引、為替などの金融業務を開始したのです。
したがって、イングランド銀行は300年以上の伝統のある由緒正しい銀行といえます。
しかし、イングランド銀行の名を投資家だけではなく、一般の投資に関係のない人にまで知られるようになったのは、ジョージ・ソロスが仕掛けたポンド売りです。
いわゆる「ポンド危機」と後世に語られるようになった、「為替戦争」です。
1992年のできごとで、このとき、ソロスは100億ドルものポンドを売り浴びせ、価格が下がったところで買い戻して、9億5000万米ドルの利益を得たといわれています。
なぜ、ソロスがこのような仕掛けをおこなったかといえば、当時のポンドの金利がイギリス経済の実態とかけ離れていたからです。
「これはおかいし」と踏んだソロスは、徹底的にポンドを売り浴びせました。
一方、イングランド銀行も市場介入し、1日に2度も金利を上げるといった異例の措置をとったのですが、ポンドは下落する一方でした。
そして、1992年9月15日、イングランド銀行は白旗をあげてしまったのです。
のちに、「ブラック・ウェンズデイ」あるいは「ホワイト・ウェンズデイ」とも呼ばれることになった、金融事件でした。
つまり、イングランド銀行の金融政策が一投機家に敗北したというわけです。
金融政策決定委員会(MPC)
ところで、イングランド銀行の金融政策を決定するのは、MPC(Monetary Policy Committee)、金融政策委員会です。
金融政策委員会(MPC)は、9人のメンバーで構成されています。
総裁、3人の金融政策担当副総裁、銀行のチーフエコノミスト、首相が直接任命した4人の外部メンバーです。
外部メンバーが金融政策委員会に参加しているのが、銀行以外の知見を金融政策策定業務に反映させるためです。
また、財務担当者は金融政策委員会に参加し、政策問題について話し合うことができますが、投票はできません。
金融政策委員会は毎月、上旬の水曜日と木曜日の2日間にわたって開催され、政策金利の変更について発表します。
直近の金勇政策委員会では、政策金利を引き下げています。
2020年3月19日の日経新聞電子版は、つぎのように伝えています。
英イングランド銀行(中央銀行)は19日、政策金利を0.15%引き下げて過去最低の年0.10%にすると発表した。国債や社債などの買い入れを再開し、購入枠を2000億ポンド(約25兆6000億円)増やして総額6450億ポンドとする。新型コロナウイルスで金融市場が動揺するなか、米欧の中銀と足並みをそろえて資金供給を強め、経済の下支えに全力をあげる。臨時の金融政策委員会を同日開き、政策委員9人が一致して決めた。11日にも臨時で0.50%の利下げを発表しており、1週間あまりの間に2度、合計で0.65%の緊急利下げという異例の対応になった。同じ月に2回の利下げは、現行の金融政策運営の枠組みになってから初めてだ
これらの報道を受けて、「ポンド/米ドル」は、3月10日、3月19日とも値を下げています。
イングランド銀行は、2013年にカナダ銀行の総裁であったマーク・カーニー氏を招請し、7月に総裁に就任させています。
このように、英国人以外の外国人を中央銀行の総裁に据えるほど、イギリスの金融政策は逼迫していたのでしょう。
そして、マーク・カーニー氏の任期切れを待って、イングランド銀行の新しい総裁が就任した。
就任したのは、元副総裁のアンドリュー・ベイリー氏。
2020年3月16日に新総裁として就任しました。
イングランドの出身で現在60歳。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で研究員を務めた後、1985年にイングランド銀行に入行しました。
各職を歴任して2013年に副総裁に就任、2016年からは英国金融行為規制機構(FCA)の最高経営責任者(CEO)を務めていました。
ベイリー氏は、「EUを離脱するこのような国家の重大な局面で総裁に選ばれ、国民に仕える機会を与えられたことを光栄に思う」と、総裁就任の挨拶を述べていました。
EUを離脱したイギリスがどんな金融政策を今後、打ち出してくるのか、打ち出す金融政策によっては、ポンドが大きく変動する可能性もあるわけですから、投資家としては注目をせざるを得ません。
オーストラリア準備銀行(オーストラリア)
南半球はオーストラリアの中央銀行である、オーストラリア準備銀行(Reserve Bank of Australia,RBA)は,その機能と権限は1959年の準備銀行法に由来しています。
オーストラリア準備銀行の義務は、通貨の安定であり、完全雇用であり、オーストラリア国民の経済的な繁栄と福祉に貢献することにあります。
また、合意された中期インフレ目標を達成するためにキャッシュレートを設定し、強力な金融システムと効率的な支払いシステムの維持に努め、国の紙幣を発行することで、その義務を遂行しています。
RBAは、オーストラリア政府とその機関、および多数の海外中央銀行と公的機関に必要に応じて特定の銀行サービスを提供しています。
さらに、オーストラリアの金および外貨準備を管理しています。
金融政策
RBAは、オーストラリアの金融政策について責任を負っています。
金融政策には、金融市場でのオーバーナイトローンの金利(キャッシュレート)の設定を含んでいます。
いわゆるオーストラリアの政策金利にあたるものです。
金融政策を決定するにあたって、RBAは掲げている義務や目標を達成するために、RBA「インフレ目標」を定めており、消費者物価のインフレ率を2%~3%に保つよう努めています。
インフレを抑制することは、通貨の価値を維持し、長期的にみると、持続可能な経済成長を促進することになります。
理事会
金融政策を決定するのは理事会です。
理事会の役割や責任、メンバー構成については、1959年の準備銀行法に規定されています。
理事会は、支払いシステムの方針以外の事項に関して銀行の方針を決定します。
そして、その方針を効果的に実行できるようにするために、必要な権限を駆使しています。
理事会は、1月を除いて、毎月第1火曜日に開催されます。
1年に11回の開催となります。理事会は通常、RBAの本部があるシドニーで開催されますが、他の2つの都市でも開催されることもあります。
理事会での議論で焦点となるのは、もちろん金融政策です。
国内外の経済、および金融市場の動向について準備銀行のスタッフが作成した調査資料をもとに、議論が行われます。
こうした調査資料は会議内でスタッフによって細く説明されたりします。
準備銀行理事会と政府との関係は、準備銀行法の弟11条に規定されています。
したがって、「政府には、時折、RBAの金融および銀行政策についての情報が提供されます」。
実際には、これは、通常は定期的な話し合いによって、総裁と他の上級管理職および財務担当者との間の定期的な連絡を通じて行われています。
2013年に制定された「ガバナンス、パフォーマンスおよびアカウンタビリティ法」によると、準備銀行の総裁は、会計報告書を議会に提出するために、10月15日までに年次報告書を作成する必要があると規定しています。
理事会は5名が出席していると成立します。
議長は総裁が務めますが、総裁が欠席している場合には、副総裁が議長を務めます。
理事会は準備銀行法に従い、出席者の過半数によって議決を行い、最後に議長が決定票を投じて、議論を終了します。
理事会での金融政策会議の議事録は、各会議の2週間後に公表されます。
理事会は、午前9時に始まり、通常は3時間半ほど続きます。
そして理事会のあとは通常、ゲストを招いての軽いランチ会が催されます。
理事会は9人のメンバーで構成されています。
総裁、副総裁、財務長官の3名に加えて、財務大臣が任命した6人の非常勤役員が名を連ねています。
総裁および副総裁の任期は最長7年ですが、再任されることもあります。
非常勤役員の任期は最長5年間です。準備銀行は毎年2つの年次報告書を発行します。
オーストラリア準備銀行年次報告書(通常9月)と支払いシステム委員会年次報告書(通常9月または10月)です。
異例の月2回の利下げ
オーストラリア準備銀行は、新型コロナウィルスの猛威による経済の低迷などをうけて、3月に、政策金利を2回、引き下げました。
まさに異例中の異例措置です。
まず、3月3日12時30分(日本時間)、政策金利を現行の0.75%から0.25%引き下げて、0.50%にしました。
さらに、16日後の3月19日12時30分(日本時間)には、0.25%引き下げて、0.25%にしました。
利下げを行った3月3日と19日の「豪ドル/円」の値動きをみると、発表時の12時30分の30分足を見ると、どちらも上昇していましたが、ローソク足をみると、長い上ヒゲや下ヒゲがついています。
ということは、売り勢力と買い勢力が、激しい攻防を行ったということがわかります。
日本銀行(日本)
日本銀行はいうまでもなく、日本の中央銀行です。
お金(銀行券)を発行し、政策金利を決定し、物価と金融システムの安定をはかる、日本の金融政策の基本的な方針を決定する、独立した金融機関です。
いわば、銀行のトップです。
しかし、これまで為替市場にとって、日銀はそんなに注目を浴びることはありませんでした。
日銀の総裁談話や日銀の金融政策が為替トレーダーにも注目を浴びるようになったのは、元アジア開発銀行の総裁を務めた黒田東彦氏が、弟30代日銀総裁の白川方明氏の跡を受けて、第31代の日銀総裁に就任してからです。
2015年3月20日のことです。
黒田総裁は、アベノミクスの政策と呼応するかのっように、異次元の金融緩和、いわゆる「黒田バズーカ」といわれた大胆な金融政策を打ち出して、がぜん産業界だけでなく、投資家からも注目を浴びるようになりました。
日銀が政策決定会合の跡に行う記者会見で、黒田総裁が何を話すのか、マスコミも注目し始めました。FXの個人投資家も黒田発言に注目せざるを得なくなりました。
何しろ、「黒田バズーカ」によって、それまでは70円台から90円台だった「米ドル/円」が、125円まで上昇するなど、為替市場を大きく変えたからです。
円高によって日本の輸出産業は業績が伸び悩んでいたところを、「黒田バズーカ」が救いの手をさしのべたというかたちになりました。
FXトレーダーにとっても、トレンドが発生するほうが、利益を得るチャンスが大きくなります。
そういう意味では、日銀総裁に黒田氏をもってきたのは、安倍首相のお手柄といっていいかもしれません。
日銀の金融政策を決めるのは、「日銀政策委員会」です。
政策委員は9名で構成されています。
総裁、2名の副総裁、6名の審議委員からなります。
政策委員は衆議院と参議院の同意を得て、内閣が任命をいたします。
政策委員の任期は5年です。
任期が終われば再任されることもあります。
黒田総裁は再任されて、2023年4月まで日銀の総裁を務めます。
政策委員会は通常の会合と、金融政策を決定する会合を開催しています。
金融政策決定会合は月1回から2回開催されています。
だいたい月の20日前後に2日間開かれています。
ただし、4月と10月は10日前後に開催しています。
金融政策決定会議が2日間終了すると、2日めの午後3時頃までに、会議の決定事項などの内容が公表去れ、その後に、日銀総裁の記者会見が設定されています。
黒田総裁以前は、経済指標の発表スケジュールをみても、日銀総裁の記者会見などはまったく無印で、何の重要性もおかれていませんでした。
しかし、総裁が黒田氏に替わってから、経済指標の発表スケジュールには、最重要の印がつけられるようになりました。
以前ほど、黒田発言によって為替市場が大きく動くということはなくなりましたが、為替市場のキーパーソンの一人であることは間違いありません。
それだけに、日銀の記者会見の内容はチェックをしておいたほうがいいかもしれません。
南アフリカ準備銀行(南アフリカ)
最後に、新興国の中央銀行を簡単に紹介しておきましょう。
南アフリカ準備銀行についてです。
南アフリカ共和国がイギリスの植民地から独立したのは、1961年ことです。
それまではイギリスの植民地でしたから、流通していた通貨は南アフリカポンドでした。
現在のランドが南アフリカ共和国の通貨として流通を始めたのは、独立をした年の1961年からです。
そのときはすでに、南アフリカ準備銀行は機能していました。
みなさんは、現在の南アフリカ準備銀行が同国で最初の銀行だと思われるかもしれませんが、最初の銀行ではありません。
南アフリカでの最初の銀行は、1793年3月15日に設立された、ロンバード銀行です。
貸し付け専門の銀行で、50年存続し、1843年1月以降廃止となりました。
準備銀行の設立気運が盛り上がってきたのは1879年あたりで、1920年3月31日、中央銀行設立の実用性の検討委員会が設立され、中央銀行設立のための検討会が始まりました。
そして、委員会の勧告に従って南アフリカ準備銀行が設立され、1921年6月30日に開業したのです。
アフリカでもっともも古い中央銀行です。最初の紙幣は1922年4月19日に発行されました
金融政策委員会(MPC)
南アフリカ共和国の金融政策を決定するのは、金融政策委員会です。
委員会を構成するのは、総裁、3名の副総裁、3名の役員クラスの7名です。
MPCの各メンバーは、経済学および金融政策の分野について豊富な専門知識を持っています。
メンバーは自分の信念においてベストな選択を心がけて、投票権を駆使します。
さらに、メンバーはMPC会議だけでなく、年間を通じて、準備銀行のスタッフから経済に関する広範な説明を受けています。
したがって、MPCは、国内のインフレやその見通し、経済動向や通貨の動向の今後の見通しなどを徹底して討論した上で、とるべき金融政策を決定しています。
金融政策委員会は、原則、年6回開催されています。
1月から隔月ごとに3月、5月、7月、9月、11月の中旬あたりに開催され、それぞれ3日間の日程が組まれています。
金融政策委員会の議決内容は一般に公開されています。
委員会が終了したときに、総裁による記者会見が予定され、その模様は国営テレビで生放送され、同時にMPC声明は準備銀行のホームページにも公開されます。
また、準備銀行は、年に2回、金融政策レビュー(MPR)を発行しています。
このレビューは、金融政策の意図とするところを広く一般に知らしめることを目的としています。
さらに、レビューはインフレに影響を与えた国内および国際的な動向を分析し、インフレの今後の方向性に関する予測なども記載されています。
新型コロナウィルスの猛威がランドに影響を与えています。
「ランド/円」は1月からずっと下落傾向にあり、底値を狙って買いのチャンスではありますが、デフォルトの可能性もあるので、大きな取引をするのではなく、長期的な視点での取引を薦めます。
辻秀雄氏のプロフィール
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから