一週間のハイライト(9月16日~22日)
FOMCメンバーの金利見通しで2023年までのゼロ金利据え置きが示されたことを受けて、ドル円は105円台を割り込む展開。
米国株が軟調に推移し、NYダウが一時2万6千ドル台に突入したことからリスク回避の円買いも強まり、一時104.00円まで下落しました。
その後米国株の下落が一服するとドル円も買い戻しが入り、105.20円まで持ち直しています。
一方ドルは円以外に対しては強含みの展開となり、ユーロドルは1.18ドル台ミドルから1.16ドル台へ下落。
豪ドルも0.73ドル付近から0.71ドル台前半へと売られました。
ドルの総合的な強さを示すドルインデックスは、92.75から94.25まで急騰しています。
前回の当レポートでは、FOMCのハト派スタンスがドルにとって一定の売り圧力となる一方、ユーロや豪ドルにとってはサポート材料となりそうだと予想しましたが、ドル円以外は逆の結果となりました。
FOMCのハト派スタンス鮮明に
先週開催されたFOMCは予想通り政策金利を据え置き、声明に「期間平均で2%を達成するため、2%を超えるインフレを容認する」新方針を盛り込みました。
そして今回公表されたFOMCメンバーの金利見通し、通称「ドットプロットチャート」は、このようになりました。
9月のドットプロットチャート 出所:FOMC付属資料
2022年末までは、前回と同様、ほぼ全員がゼロ金利見通しを示し、今回から新たに加わった2023年末に関しても、メンバー17人中13人がゼロ金利の継続が適切との見通しを示しました。
つまりFF金利の誘導目標は向こう3年以上ゼロに据え置かれる可能性が高いですよと言っているのです。
FRBがインフレ指標として重視するPCEコアデフレーターは、直近(7月)で+1.3%と2%を大きく下回っています。
また2008年のリーマンショック以降、同指標が2%を超えたのはわずか2回しかありません。
FRBは「インフレ率が2%に上昇して当面の間2%をやや超えるような軌道に乗るまでFF金利の目標誘導レンジを維持する」というフォワードガイダンスを示していますが、それがとんでもなく高いハードルであることがわかるでしょう。
昨日はエバンス・シカゴ連銀総裁が「インフレが平均2%に到達する前でも利上げは可能」と発言していますが、おそらく本心ではないでしょう。
コロナ禍の終息が見えない中、2023年末までゼロ金利継続というのは決してオーバーな話ではないのです。
そして向こう3年以上もゼロ金利が続く見通しのドルが、今後持続的に上昇していくシナリオは非常に描きづらいと思います。
株価調整は長引くか
前回のレポートでは、「株式市場にとってゼロ金利長期化は追い風であり、株式市場が持ち直せば、安全通貨の円がドルと並行して売られることにより、ドル円は幾分持ち直していく」と予想しましたが、残念ながら株式市場はまだ調整局面から抜け出せず、ドル円の反発も弱々しいものにとどまっています。
欧米各地で新型コロナウイルスの感染が再拡大し、特に英国ではロックダウン再導入の懸念も浮上してきました。
米大統領選が近づき、不確実性が高まっていることも株式市場に重くのしかかります。
さらに今週に入って株式市場を揺らしているのが、突如浮上した大手銀行のマネーロンダリング疑惑。
ドイツ銀行やHSBC、JPモルガン・チェースといった欧米の大手銀行が過去、マネーロンダリングと疑われる違法な取引に手を貸していたとする米政府内部資料(通称フィンセン文書)がリークされたのです。
ただでさえ買われ過ぎていたハイテクセクター、とりわけコロナテックや電気自動車(EV)関連銘柄に調整圧力が高まっていた矢先に発覚した醜聞で、9月末を控えた市場の動揺がさらに強まるようだと、株安・リスクオフの流れが加速する可能性が高まります。
安全通貨のドルと円がユーロや豪ドルに対して買われ、ドルと円では円の方がより買われる、円独歩高の展開になりかねません。
まとめ
- ゼロ金利長期化が確実なドルは買いづらい
- 株式市場の調整が長引けばユーロや豪ドルは売られやすい
- リスクオフ局面ではドル高・円高だが、より安全な円の方が買われる傾向
結局のところ、ドルもユーロも豪ドルも買えず、消去法的に円が買われる展開を想定しておくのが賢明でしょう。
ドル円に対しては当面のスタンスを弱気に変更します。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから