一週間のハイライト(6月4日~6月10日)
経済再開への期待からリスクオンの円売りが強まり、ドル円は109円を突破。
5日金曜日に発表された米国5月の雇用統計が予想外に強い結果となったことからさらにドル買いが入り、一時109.85円まで上昇しました。
しかし節目の110円には売りオーダーが厚く跳ね返されると、利益確定の売りに押されて107円台まで急反落する展開となっています。
今週のFOMCでイールドカーブ・コントロールが協議されるとの米紙報道を受けて、米国債利回りが低下したことも、ドル円の重石となりました。
株高はバブルではなくリアル
NYダウは一時27500ドルを突破し、コロナショックによる2月から3月にかけての下落幅の8割以上を取り戻しました。
今月に入ってすでに2000ドルを超える上昇幅です。
ナスダックは昨日一時1万ポイントに達する上昇を見せ、2月以来となる史上最高値更新を達成しています。
先週の当コラムでは、米国をはじめとする株高はバブルではないかと述べましたが、どうやらそれは読みが浅かったようです。
コロナ禍最中のこの株高は、バブルではなくリアル(本物)の可能性が高くなりました。
理由は、米国の労働市場が4月に大底を打った可能性が高くなったことです。
労働市場の回復イコール経済の底打ちと言っても過言ではありません。
雇用統計は驚きの結果に
5月の雇用統計は大方の予想を良い方に裏切るものでした。
非農業部門雇用者数(NFP)はマイナス800万人の予想に対してなんと250.9万人のプラス。
また失業率は19.0%の予想に対して13.3%と前回の14.7%から改善しました。
それに先立って発表されていたADP雇用統計が-276万人と予想(-900万人)ほど悪くなかったことから、ある程度の上振れはあるだろうなと思っていましたが、まさかプラスになるとは誰も予想していなかったでしょう。
実際、新規失業保険申請件数をみると、直近5月30日終了週で188万件と、パンデミック後初めて200万人を下回りました。
失業保険の継続受給者数の4週移動平均(リアルタイムの失業者数に相当)も2240万人と前週の2270万人から減少。
経済活動再開で小売りやレストランなどが店を開け、レイオフになっていた人が職場に戻り、失業者が減り始める段階に入ったと思われます。
NY市も今週から条件付きで経済活動を再開していますが、これにより40万人以上が職場に戻るとみられています。
景気が悪くなったらレイオフという外科手術をバッサリ行って一気に人を減らす。
そして先行きが見えてきたらいち早く人を復帰させる。
これこそが米国の労働市場が持つ柔軟性であり、強い経済の源泉なのです。
日本だとこうはいかず、補助金などを逐次投入しながら対症療法をずるずると続けるので、痛みは小さい代わりに回復も遅くなります。
この分だと、6月も労働者が職場に戻り、NFPが大幅なプラスになる可能性が高いと思います。
失業率が元の3%台に戻るのは相当先になるでしょうが、方向が「悪化」ではなく「回復」であることが、市場にとって重要なのです。
4-6月が悪いのは織り込み済み
4-6月のGDPは歴史的な落ち込みとなるでしょう。
アトランタ連銀が算出しているリアルタイムのGDP予測「GDPナウ」は、6月9日時点でマイナス48.5%となっています。
しかし株式市場の参加者がこれを知らないはずはありませんし、むしろそれを承知の上で株を買っているのです。
その心は、
「4-6月が悲惨なのはもう分かり切っているが、場合によっては5月・6月の経済活動再開でそこまでマイナスが大きくないかもしれない。また7-9月には大幅なマイナスからの反動でこれまた大幅なプラス回復となるはず」
という打算でしょう。
米国景気は確かにリセッションに入りましたが、あくまでコロナ禍という特殊要因による一過性のものであり、経済に本質的な問題が発生したわけではありません。
そして経済が予想より早く回復する期待が浮上してきているのが現在の局面です。
少なくともこれ以上悪くならないならば、過度の悲観は捨てるべきなのです(もちろん過度の楽観も禁物ですが)。
為替への影響は円安・ドル安
この株高が本物だとして、今後はナスダックだけでなく、NYダウやS&P500も史上最高値を目指すとすれば、為替への影響はどうなるでしょうか。
とりあえず、リスク選好が高まり、安全通貨の円は売られやすくなるでしょう。
「コロナバブル破裂・リスク回避の円独歩高」というシナリオはいったん捨てなくてはなりません。
ただし、株高・リスク選好ならば、円に次ぐ安全通貨であるドルも売られることになります。
ドルの総合的な強さを示すドルインデックスは、すでにここ2週間で100から96台まで4%近く下落しており、ドル全体でみれば急激なドル安になっていることがわかります。
ドルインデックスは大幅下落中 出所:NetDania
ドル円が110円近くまで上昇したあと107円台へ下落し、結局元のさやに納まったのは、時間差を置いて円とドルが同じ程度売られた結果と見ることができます。
ドルと円が並行して動く限り、ドル円が大きく下落することも、一本調子で上昇することも考えにくく、結局レンジ内での上下動にとどまる可能性が高くなります。
あまり方向性を持たず、107円台を中心に逆張り・小刻みな売買に徹するしかなさそうです。
資源国通貨に買い妙味
一方、リスクオンによる円安・ドル安の局面は、クロス円に追い風となります。
ユーロ円やポンド円もいいですが、狙い目は景気や株式市場との相関性が高い資源国通貨です。
豪ドル、NZドル、カナダドルは、対ドル・対円とも買い妙味が大きそうです。
豪ドルとNYダウ(ピンク・左目盛)には高い相関性 出所:NetDania
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから