一週間のハイライト(5月14日~5月20日)
ドル円相場は底堅い動きが続き、19日の海外市場では一時108.09円まで上昇。
トランプ大統領が強いドルを支持する発言をしたことや、日銀が臨時の決定会合を22日に開催すると発表したことを受けて、ドル買い・円売りが優勢となりました。
株式市場も堅調で、NYダウは一時24800ドル台とコロナショック後の戻り高値(24900ドル近辺)に迫る動き。
日経平均も20600円台と暴落後の戻り高値を更新しています。
原油相場も、中国の石油需要が封鎖措置前の水準をほぼ回復したとの報道を好感して一時33ドル台まで上昇。
市場全体に楽観的なムードが流れています。
トランプ大統領の「強いドル発言」について
すわ、トランプ大統領がドル高歓迎に宗旨替え?!とドルを買った方もいるかもしれません。
しかし発言をよく読むと、トランプ大統領お得意の「手柄アピール」であることがよくわかります。
決して額面通り受け取ってはいけません。
発言はこうです。
「強いドルを持つには素晴らしい時だ。私たちがドルの強さを維持したから、誰もがドルを持ちたがっている。私がドルの強さを維持した」
つまり、「強いドル=強いアメリカ」と連想させることにより、本来であれば景気や物価にとって望ましくないドル高を、自分の手柄にすり替えようとしているだけであり、ドル高を望んでいるのとは本質的に異なります。
むしろドル安で景気や物価を刺激したいのがトランプ大統領の本音であり、市場もそこを見抜いているからこそわずかな反応にとどまっていると考えるべきでしょう。
もし米国の大統領が本気でドル高を歓迎しているならば、この程度の上昇で済むはずはありません。
日銀臨時会合に期待は禁物
22日に開催される臨時の日銀金融政策決定会合ですが、これも期待しすぎると痛い目に遭うことになるでしょう。
株式市場が比較的落ち着いているこの局面で、残り少ない弾薬を投入する理由はありません。
マイナス金利の深掘りは、金融機関の苦境を考えると現時点では難しいでしょうし、国債の買い入れ増額や年限の長期化も限界に近づいています。
メインの議題は、黒田総裁が前回会合で執行部に指示した中小企業などに対する新たな資金繰り支援策についてでしょう。
決定済みの方針の技術的な詰めを行うだけであり、何か目新しいことを期待していると肩透かしとなる可能性が高いのです。
マイナス金利観測はくすぶる
昨日行われたパウエルFRB議長の議会証言は、「経済を支えるために政策ツールを最大限活用する」、財政政策と金融政策は「ともに追加策が必要になるだろう」などと述べるにとどまり、マイナス金利については言及しませんでした。
市場でのマイナス金利期待も後退中です。
FF金利先物は一時今年11月のマイナス金利導入を織り込み始めていましたが、現在は来年8月までプラス金利予想となっています。
ではマイナス金利は本当に必要ないのでしょうか。
筆者は、それでも可能性はある、というより今後導入が避けられなくなってくると考えています。
5月の失業率は先月の14.7%からさらに上昇し、20~25%に達すると見られています。
また先週紹介したアトランタ連銀のGDPナウによると、第2四半期のGDP予想は15日時点で前期比年率マイナス42.8%と、前回のマイナス34.9%から大幅に悪化しています。
これまで経験したことがないほど大きな落ち込みが待っているのです。
FRBとしても、預金者への悪影響を最小限にしたうえで政策金利をマイナスにするという選択肢を完全に除外することはできないでしょう。
ワクチン開発は時間がかかる
それでも株式市場が楽観的でいられるのは、コロナ終息への期待、具体的には特効薬やワクチンの開発に対する期待が膨らんでいるからです。
コロナのワクチンについては、米モデルナという製薬会社が有望な臨床結果を得たと発表したことで話題となっています。
ワクチンの開発は世界で100種以上も進められているそうです。
しかしワクチンの開発には通常なら10年以上かかるとされており、新型コロナウイルスという構造自体よくわかっていない未知のウイルスに対する有効で安全なワクチンが、1年やそこらで量産化できるとは思えません。
感染拡大はいずれ終息するでしょうが、その先はコロナとの共存という憂鬱な期間が長く続くと思います。
やはり株式市場は楽観的過ぎるのではないでしょうか。
新たな米中摩擦
国内でコロナ感染による9万人もの死者を出してしまったトランプ大統領は、その責任を世界保険機構(WHO)と中国に転嫁しようとしています。
大統領はテドロスWHO事務局長に書簡を送り、「30日以内に大幅な改善に取り組まなければ、拠出金の停止を恒久化し、WHOへの加盟も見直す」と通告しました。
また「WHOは中国の操り人形だ」と非難しています。
これに対して中国外務省の趙立堅報道官は、「米国は中国を非難し中国を利用することで自ら責任を逃れようとする過ちを犯した」と反発しています。
コロナウイルスは新たな米中摩擦の火種となりつつあるのです。
米ナスダックは中国企業の上場を事実上制限する方針を打ち出しました。
中国側の報復は必至です。
米中摩擦が金融・資本市場にも飛び火しつつあり、株式市場にも懸念材料となるでしょう。
まとめ:ドル円弱気スタンス継続
- 米国の景気後退は予想以上に厳しくなる
- 米国のマイナス金利導入は排除できない
- ワクチンへの過剰な期待は禁物
- 米中摩擦は今後さらに激化へ
不安材料・不透明要因が多く、市場のセンチメントが再び悲観に振れる可能性が高いことから、ドル円に対しては弱気スタンス、戻り売り方針を継続したいと思います。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから