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FX初心者でも抑えておきたい経済指標

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もっとも注目すべき経済指標は「米国雇用統計」

為替相場の変動をある程度予測し、買いポジションでトレードを行うか、売りポジションを取るのかを判断する方法としては、2つの分析方法があります。
一つは、チャートの動きを分析する「テクニカル分析」と、各国の景気動向や経済状況を把握するための「ファンダメンタル分析」です。

ファンダメンタル分析のなかで、トレーダーが注視しておくべき指標が「経済指標」です。経済指標は、アメリカをはじめ、ドイツ、イギリス、中国、オーストラリア、日本など、主要通貨を発行している国の経済状況や景気動向を判断する目安となるものです。
さらに、経済指標のなかで世界中のトレーダーの誰もが固唾を呑んで見守っているのが、「米国雇用統計」です。

米国雇用統計は、第一金曜日(たまに、第二金曜日に発表されることもあります)に発表されます。時間は、夏時間と冬時間では1時間の差があります。
欧米では日本と違って、季節によって夏時間と冬時間を設けています。
米国の夏時間は、3月第2日曜日午前2時(日本時間午後4時)~11月第1日曜日午前2時(日本時間午後4時)、冬時間は、11月第1日曜日午前2時(日本時間午後4時)~3月第2日曜日午前2時(日本時間午後4時)です。

そのため、夏時間での米国雇用統計は、日本時間の午後9時30分に発表されますが、冬時間になると、1時間遅くなって午後10時30分に発表になります。
夏時間と冬時間は発表時間が違うことは覚えておいてください。

米国雇用統計には、さまざまな統計が含まれています。非農業者雇用者数増減(Non-Farm Payroll=NFP)をはじめ、失業率(長期失業率も含む)、労働参加率(広義の失業率も含む)、求人率、離職率、解雇率、入職率、時間給などです。

このうちもっとも重要な統計が、非農業部門雇用者数増減、いわゆる、NFPの数字と、失業率です。

ではなぜ、米国雇用統計がこんなに注目されるのでしょうか。それは、発表されたNFPの数字によって、価格が大幅に変動することが多いからです。
つまり、儲けるチャンスがあるということです。特に、デイトレーダーにとっては、大きなチャンスになります。ただし、その分、損失も大きくなりますので、要注意が必要です。

米国の景気がいいときには、月間20万人以上の雇用があるのが一般的ですが、景気が悪くなると月間雇用者数は、たちまち20万人をきってしまいます。米国の景気がいいときは、米ドルが買われますので、20万人を超えるようなときは、米ドル高円安傾向になりやすいです。

しかし、その月の相場によって、雇用者数の増大が織り込み済みの時もあります。その場合はあまり価格は変動しません。ですから、まず初心者が覚えて起きたいのは、雇用者数が増えたときには米ドルの価格は上がりやすい、ということになります。

そして、価格の変動を予測するうえでもっとも大事なことは何か?

それは、雇用統計の発表の前に必ず、エコノミストなどが予測した数字が発表されます。これは、市場が非農業部門雇用者数をどう見ているかの判断材料になります。そして、実際に発表された数字と、予測数字が大きくかけ離れた時には、価格は大きく変動するのが特徴としてあげられます。

つまり、大事なことは、予測数字と発表数字の乖離がどのぐらいあるかによって、市場価格は大きく変動したり、小さく変動するということです。これは、何も雇用統計に限ったことではありません。経済指標には常に、エコノミストや市場関係者の予測数字がついてまわります。

学長
学長

米国の雇用統計は月に1度のお祭りだぞ。

FRBの政策に影響を与える

米国雇用統計は、月の内、もっとも最初に発表される経済指標ですから、雇用統計の内容によって、その月の景気動向を判断する材料ともなっています。
なかでも、雇用統計に注目しているのは、FRB(連邦準備制度理事会)です。FRBは、米国の金融政策を決定する中央銀行です。彼らの政策によって、米国の景気が左右されることもあります。

FRBが掲げている二大責務が、「物価の安定」と「雇用の最大化」です。現在のFRB議長はジェローム・パウエル氏ですが、彼の前の議長はジャネット・イエレン氏で、彼女は労働経済学が専門だっただけに、雇用に対する思い入れが人一倍強く、雇用統計を重視していました。現在のFRB議長もイエレン議長の考え方を踏襲しているので、雇用政策に熱心に取り組んでいます。したがって、雇用統計の内容によっては、政策金利への影響も十分に検討されることになります。

米国雇用統計の前哨戦となる「ADP雇用統計」

雇用統計は、米国労働省が毎月発表しますが、その前哨戦となるのが、「ADP雇用統計」です。ADPとは、給与計算アウトソーシングの会社で、彼らのクライアント企業を対象にした雇用統計を、「ADP雇用統計」というかたちで、毎月、米国雇用統計が発表される前に発表している。発表は、第一水曜日(たまに第一木曜日の場合もある)で、夏時間のときは午後9時15分、冬時間のときは午後10時15分(いずれも日本時間)です。

ADP雇用統計は、米国雇用統計の前に発表されますが、非農業部門雇用者数の数字が多かったからといって、米国雇用統計の数字も多くなるとは限りません。つまり、ADP雇用統計と米国雇用統計は必ずしも連動はしていません。したがって、ADP雇用統計の非農業部門雇用者数が多いから米ドルが上昇すると判断するのは、早計です。

たとえば、2019年9月6日のADP雇用統計と米国雇用統計の非農業部門雇用者数を見比べてみましょう。9月5日(木)に発表されたADP雇用統計は、予想が14万8000人増に対して、結果は19万5000人増と予想を大幅に上回る結果となりました。この数字を見て、米国雇用統計も高い数字が出ると思った方は大勢いたかもしれません。しかし、肝心の米国雇用統計は予想の16万3000人増を下回る13万人増でした。この結果、米ドルは売り込まれ、米ドル安円高の相場となりました。

このとき、ADP雇用統計を見て、米国雇用統計も数字が高いと思い、米ドル円の買いポジションを持った方は、損をする羽目になったことでしょう。このように、ADP雇用統計と米国雇用統計は必ずしも連動するわけではありません。トレードはそのことを頭に入れて行わないと、思わぬ損失を来すことになりかねません。

消費者物価指数(Consumer Price Index=CPI)

米国の人口の約80%の消費者(都市を中心に)が購入するモノやサービスの価格を調査した結果を、毎月15日前後に米国労働省統計局から発表されるのが、「消費者物価指数」、通称CPIです。消費者物価とは、消費者が実際に購入する段階での、商品の小売価格(物価)のことです。物価関連の経済指標のなかで、トレーダーがもっとも注目しているものです。

この消費者物価の数値を元に、物価上昇率やインフレ率を計算するわけですが、消費者物価指数が高くなればなるほど、インフレ傾向だと判断できます。そこで、金融当局としては物価の安定を考えて、金利を引き上げるなど、金融引き締め政策を採用することになります。そうすると、金利の高い通貨は買われる傾向がありますので、たとえば、「米ドル/円」の場合だと、ドル高円安になるというわけです。

消費者物価指数は、消費者がふだんから購買する頻度が高い商品や、継続して調査ができる商品などを中心にその価格を調査します。しかし、税金や健康保険料などの公的支出費用や、住宅や土地などの不動産購入費用は含みません。

しかも、消費者物価指数には、「コア消費者物価指数」があります。これは、消費者物価指数が消費者物価全体を対象しているのに対し、食品とエネルギーの価格を引いて計算されたものになります。変動が激しくなりやすい食品価格やエネルギー価格を除外することによって、物価の実態はどうなっているかを判断する指数として、重要視されています。

ミシガン大学消費者信頼感指数

毎月第二金曜日または第三金曜日に速報値が発表され、最終金曜日に確報値が発表されるのが、「ミシガン大学消費者信頼感指数」です。この指数は、1964年を100として、消費者が今後の経済や雇用についてどう思っているかを指数化したものです。速報値はサンプル数が300、確報値は同500です。サンプル数が300~500と少ないため、確報値は速報値をかなり修正したものになりがちです。しかし、経済指標のなかでは早く発表されるので、市場から注目度は高く、影響度もかなり大きいものがあります。

また、消費者信頼感指数には、もう一つあります。それは、民間の経済研究所であるコンファレンスボード(CB)が発表しているものです。こちらのサンプル数は5000と、ミシガン大学の研究チームのサンプル数の10倍です。こちらは5000人の消費者を対象に現状の経済や雇用状況、6カ月後の状況について、消費者がどう思っているかをアンケート調査し、それを指数にまとめたものです。発表されるのは、毎月25日から月末の間です。

市場関係者の基本的な反応はといえば、消費者信頼感指数が予想よりも高ければ、米国の景気は好況が続いているとして、米ドル買いに走ります。その逆だと、米ドル売りになります。

ミシガン大学消費者信頼感指数と、CBの消費者信頼感指数はどちらが注目度や影響度が高いかということはいえません。要は消費者信頼感指数をどのように自分のトレードに取り入れるかが大事なことです。ですから、早く発表されるミシガン大学消費者信頼感指数の速報値で、米国の景気状況をある程度、つかんでおき、月末に発表される両方の消費者信頼感指数で最終的に判断して、米ドル買いか米ドル売りかを決めるのが得策かもしれません。

ISM製造業景気指数

全米供給管理協会(Institute for Supply Management=ISM)が、毎月第1営業日に発表しているのが、「ISM製造業景気指数」です。1931年に発表が始まった伝統と歴史のある景気動向指数です。製造業約300社以上の購買担当者を対象にしたアンケート結果を基に指数化したものです。アンケートの内容は、生産や雇用状況、在庫、新規受注などを問うもので、回答者は、1カ月前と比較して「良い」「変わらず」「悪い」の3拓のなかから一つを選んで答えるものです。

ISM製造業指数は、経済指標のなかでもっとも早く発表される景気動向指数なので、市場関係者の注目度は高く、製造業指数のなかで最重要視されています。また、企業の景気動向を如実に表していることから、企業マインドあるいは企業のセンチメントを把握するのにも適しています。

景気動向を判断する基準となるのは50です。指数が50を超えていれば好況で、景気拡大が見込めます。その逆だと景気は良くなく、景気は後退する可能性を秘めていることになります。

ISM製造業景気指数は、米国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)が決定する政策金利を判断する目安となります。というのは、この指数が50を下回っているときには、利上げを行ったことがこれまでに一度もないからです。政策金利は為替の動向に大きく影響を与えますので、トレーダーとしては注目すべきではないでしょうか。

ISMでは、製造業景気指数のほかに、非製造業景気指数も発表しています。これは、サービス業の景況感を指数化したもので、サービス業が1カ月前と比較してどうなのかを、サービス業の従事者がどう感じているかを示したものとなります。このほか、ISMは、いろいろな国や地域、製造業以外の産業の景気指数も発表していますので、トレードの参考になるでしょう。

製造業景気指数にはほかに、フィラデルフィア連銀製造業景気指数や、ニューヨーク連銀製造業景気指数、リッチモンド連銀製造業景気指数があります。米国では全国を12の地区にわけて、それぞれに連邦準備銀行を設置しています。各地区を担当する連邦準備銀行が、管轄内の企業の購買担当者を対象に、1カ月前と比べて、景況指数や出荷、新規受注、受注残、稼働率、調達時間、雇用者数、週平均就業時間、賃金などがどうなっているのか、また、6カ月先予想などを調査した結果を指数化したものが、連銀製造業景気指数です。

ニューヨーク連銀製造業景気指数は、ニューヨーク州を、フィラでぅフィァ連銀製造業景気指数は、ペンシルバニア州やニュージャージー州、デラウェア州を、リッチモンド連銀製造業景気指数はバージニア州やノースカロライナ州などを対象にしています。これらの連銀製造業景気指数の基準値は0で、0以上であれば景気拡大、0以下であれば景気後退と判断します。

これらの景気指数の重要度はというと、もっとも重視するのがISM製造業景気指数で、次に、フィラデルフィア連銀製造業景気指数、ニューヨーク連銀製造業景気指数、リッチモンド連銀製造業景気指数の順となります。

住宅関連の経済指標

米国の景気動向を判断する上で重要な経済指標に住宅関連の指標があります。トレーダーや市場関係者がもっとも注目しているのが、全米不動産協会が発表している中古住宅販売件数(Existing Home Sales)と、商務省センサス局と住宅都市開発省が共同で発表している新築住宅販売件数(New Home Sales)です。

一般的な住宅の販売傾向を見ると、新築より価格が劣る中古住宅のほうが先に売れていきます。従って、中古住宅の販売件数が増えれば増えるほど、景気は拡大する傾向にあると判断します。それは、新築住宅の販売件数にも同様のことがいえます。こちらは中古住宅よりも価格が高いので、新築住宅の販売件数が増えれば増えるほど、景気が拡大する可能性はより高いと判断して良さそうです。ただし、中古住宅の場合は、所有権移転が終えた段階で統計に反映されますが、新築住宅の場合は、契約が成立した段階で統計に反映されますので、どちらかといえば、新築住宅販売件数のほうが先行指標になりやすいといえます。

このほか、住宅関連の経済指標として注目すべきは、商務省センサス局が発表している住宅着工件数(Housing Starts)です。こちらは、住宅の着工が開始された件数をまとめたもので、景気動向を判断する重要な指標の一つといえます。

米国の景気動向を表す経済指標にはこのほか、小売売上高(Retail Sales)や鉱工業生産指数(Industrial Production Index)、貿易収支(Trade Balance)、国内総生産(Gross Domestic Product)があります。ただこれらの指標は為替相場に直接大きな影響を及ぼすものではありません。

欧州の経済指標では、有名なのはドイツのミュンヘンにあるIFO経済研究所が発表するifo景況感指数(Ifo Business Climate Index)や、同じくドイツのマンハイムにあるZEW(ライプニッツ欧州経済研究センター)のZEW景況感指数です。同じ景況感指数でも、ifo景況感指数のほうがサンプル数が多く、企業の担当者からのアンケート結果を基にしているため、実体経済の動向がより把握しやすくなっています。しかし、どちらも重要な経済指標に違いなく、ユーロやECB(欧州中央銀行)への影響も大きいので、市場参加者やトレーダーにとって無視できない経済指標です。

辻秀雄氏のプロフィール

辻秀雄氏
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから
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