一週間のハイライト(4月30日~5月6日)
新型コロナウイルスによる閉塞感に加えて、日本の大型連休突入で参加者が少なく、106~107円台で上値の重いレンジ取引が続きました。
米国株が一時24900ドル台と堅調に推移したことから107.50円まで上昇する場面もありましたが、不透明感からか積極的に上値を買い進む勢いもなく、106円台へ押し戻される展開。
今週に入ってからはドル売りが次第に優勢となり、本稿執筆時点で106.20円台と3月半ば以来の安値をつけています。
FOMCとECB理事会の結果はドル安に
4月28・29日に行われたFOMCでは、新たな緩和措置は見送られたものの、「経済が最近の出来事(コロナ禍)を乗り切り、雇用最大化と物価安定の目標を達成する軌道に乗ったと確信するまで、この目標誘導レンジを維持する」とのフォワードガイダンスが新たに記されました。
FF金利先物市場は来年3月まで政策金利据え置きをほぼ確信する動きとなっています。
FOMC声明全文の日本語訳はこちら(外部サイト)
来年3月のFOMCでの金利予想分布 出所:CME
一方ECBは、30日に開かれた理事会で、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の規模7500億ユーロを据え置き、マイナス金利の深掘りも見送りました。
ただ市中銀行への長期資金供給策については金利をマイナス1%まで引き下げる方針を決定しました。
ラガルド総裁は、必要な限りPEPPを拡大する用意があると言明しています。
ラガルド総裁の発言要旨はこちら(外部サイト)
この結果に、市場は一時ユーロ買いの反応を示しました。
これでG3(日米欧)中銀の当面の金融政策が出揃ったわけですが、規模やスピードから言って米国の緩和度合いが一歩抜きん出ており、日本は逆に周回遅れ感が明白となりました。
結果として為替市場ではジワリとドル安・円高が進んでいます。
この「ドル<ユーロ<円」の構図は当面基調として続くと考えた方がいいでしょう。
新たな米中対立とトランプ支持率低下
コロナウイルスに関して、トランプ政権は以前から発生源である中国が対応を誤ったと強く批判してきましたが、今週に入って武漢にある研究所から広がった可能性があることを強く示唆。
中国に対する責任論が醸成されつつあり、一部では中国への債務返済(米国債償還)を停止すべきとの強硬意見まで出ているようです。
中国側はもちろんウイルス起源説は事実無根だと反発しています。
トランプ政権が中国に対する強硬姿勢を強めている背景には、自らの支持率が低下し、ライバルの民主党バイデン候補の後塵を拝しているという事情があります。
各種世論調査によると、トランプ氏の支持率が先月平均で42%だったのに対し、バイデン氏の支持率は48.3%となり、大統領選まで残り半年の時点で6.3%ものリードを許したことになります。
こういう場合に、外に仮想敵を作って徹底的に叩くというやり方は、支持率挽回のために使われる常套手段です。
米中の緊張の高まりは、株式市場にとってマイナスであると同時に、為替市場ではドル売り・円買い材料とみなされます。
トランプ大統領は、ウイルスが武漢の研究所から流出したとの主張を裏付ける決定的な証拠を公表する意向です。
今後の米中対立エスカレートのリスクには十分注意する必要があります。
米国雇用統計は記録的な悪化
さて、5月8日金曜日には、米国4月の雇用統計が発表されます。
現時点での市場予想によると、非農業部門雇用者数(NFP)が前月からなんと2100万人減少する見通しとなっています。
実際、この集計期間を含む6週間で新規に失業保険を申請した人の数は約3000万人に上っていますから、実際にはもっと多くなる可能性も否定できません。
NFPは平時であれば10~20万人の増加が普通で、コロナの影響が出始めた3月が70.1万人の減少ですから、4月は文字通りケタ違いの雇用減少ということになります。
また失業率は3月の4.4%から16.0%に跳ね上がり、戦後最悪、恐慌時の水準となる見通しです。
場合によっては20%に達するかもしれません。
短期的には織り込み済みだが・・・ このような「見たこともないほど悪い数字」を目の当たりにした場合の市場の反応はどうなるでしょうか。
筆者の予想は、まずドル売りが出て下落するものの、数分以内にいったん元の水準まで戻る、というものです。
今回はコロナ対策によるロックダウンが原因であることが明白であり、ある意味市場も悪い数字を覚悟しています。
コロナの影響だから4月は仕方がないということです。
しかし、パンデミックが終息したとしても、人々の生活や経済活動がすぐに正常化するわけではありません。
むしろ多くの行動制限が残り、ライフスタイルも大きく変わり、経済も株価も元の水準には戻らないかもしれません。
「見たこともないほど悪い数字」が1~2か月ではなく何か月も、場合によっては1年以上続くかもしれないという憂鬱に直面した場合、市場は果たして楽観的でいられるでしょうか。
衝撃的な雇用統計発表の直後の反応ではなく、数日間で市場のセンチメントがどう変化していくか、見極める必要があります。
筆者は、今後世界経済が深い景気後退に向かっていくなかで、悲観が再び深まっていくと予想しています。
したがって、コロナウイルスに対する画期的な治療薬やワクチンが開発されない限り、ドル円に対しては、基本的に弱気スタンスを継続します。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから