一週間のハイライト(3月5日~3月11日)
新型コロナウィルスをめぐる不安と悲観が最高潮に達する中、株価暴落、ドル円暴落の展開となりました。
108円を挟んで小康状態だったドル円は、カリフォルニア州で死者が初めて確認され、非常事態が宣言されたことをきっかけに崩れ始め、105円を割り込みつつ越週。
週明け月曜日はさらに売りが殺到し、東京市場で日経平均2万円割れを受けて一気に101円台まで暴落しました。
NY市場ではNYダウが2000ドルを超す史上最大の下げを記録し、取引を一時中止するサーキットブレーカーが発動される事態となったことから、一時101.19円まで下落。
2016年11月以来の安値をつけました。
しかしここでトランプ大統領が減税の方針を打ち出したことをきっかけに相場が反転。
NYダウが今度は1000ドル超の反発を示すと、一気に105.92円まで急騰しました。
21世紀のブラックマンデー
前回の当コラムでは、リスク回避の円高は長続きしないと予想し、打診買いスタンスを提案しましたが、その後の動きは筆者の予想をはるかに超えるものでした。
人々がパニックに陥っているときには理屈やレベル感は通用しません。
米国10年債利回りが一時0.4%割れまで低下し、先週まで45ドルくらいだった原油相場が一時27ドル。
30年以上金融市場を見ている筆者ですら唖然とするほどでした。
今回の暴落はリーマンショック級のマグニチュードで、おそらくは10年に1度あるかないか、21世紀のブラックマンデーとして長く記憶されるのではないかと思います。
3月9日がセリングクライマックスだったか
こういうパニック売りが極限に達した状態をセリングクライマックス、日本語で言うと「陰の極」などと言います。
そして一般大衆が総投げになったこういう瞬間を、投機筋は買いのチャンスと待ち構えています。
こういう時はすでにロングのしこりも投げ売りで一掃されているので戻るのも早いのです。
筆者の先週の予想は残念ながら判断が一週間早すぎましたが、考え方としては間違っていなかったと思います。
3月9日がセリングクライマックスだったと仮定すると、各市場は底を打っており、今後揺り戻しはあるとしても、基本的には戻していく展開になると思います。
トランプ減税と大規模金融緩和
トランプ大統領が提案した財政政策は、給与税の年内免除を軸とした大型減税で、実現すれば1兆ドル規模の財政出動となります。
議会の反対で規模縮小の可能性はありますが、11月の大統領選で再選を目指すトランプ大統領ならありそうな大盤振る舞いです。
またFRBは先週の緊急利下げ0.5%に続いて来週のFOMC(3月17・18日)でも0.75%の利下げに踏み切ると予想されており、大型の財政政策と大規模な金融緩和ががっちりかみ合うことになります。
株式市場にとっては大きなサポートとなるでしょう。
米国の利下げ=日米金利差の縮小はドル円にとって通常売り材料ですが、今回はすでに市場金利の方が先に下がっているので、利下げでドルが改めて売られることはないと予想しています。
金利先物市場はすでにFF金利が夏までにゼロ%になることを5割以上織り込んでおり、米国債利回りも、理屈上(FRBがマイナス金利を導入しない限り)これ以上下がらない水準です。
金利面からもドルは底入れに向かってもおかしくないのです。
FF金利先物が織り込む7月FOMCでの利下げ確率 出所:CME
リスク回避の円高は理に適っていない
筆者は今でもリスク回避の円買いは間違っていると考えています。
イタリアで1万人を超す感染者が出て600人以上が死亡しているにもかかわらずユーロが買われているというのも不可解。
相場は美人投票であり、自分がどう思うかよりみんながどう思うかを予想することが重要ですが、理に適っていない状態が定着するとは思えません。
いずれ逆流が始まり、本来「一番まし」なドルが買い戻されるのではないでしょうか。
今回もスタンスは変わらず「打診買い」。
ただしサイズは控えめにして、数回に分けるくらい慎重に入るのが良いでしょう。
雨夜恒一郎氏のプロフィール
20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報や分析記事をFX会社やポータルサイトに提供中。ラジオNIKKEIなどメディア出演やセミナー講師経験多数。ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析はもちろん、オプションなどデリバティブ理論にも精通する、人呼んで「マーケットの語り部」。雨夜恒一郎氏の詳しいプロフィールは、こちらから