情報源や情報量の違い?
個人投資家のみなさんのなかには、プロと個人投資家では情報源がまったく違うと思っている方が少なくありません。プロだからトレードに役に立つ情報をいち早く入手できるから、トレードが有利だと考える人もあります。
たしかに、個人投資家ができなくて、プロ(為替ディーラー)が触れることができる情報源はあります。たとえば、銀行ならニューヨークなどの海外支店の同僚やディーリングルーム、他の銀行のディーラー、そして主要な顧客などから情報を得る機会が多いでしょう。
しかし、そうした情報源を持っているからといって、プロが常にトレードで勝っているとは限りません。個人投資家が触れることができない情報のなかには、ノイズがあったり、ガセネタがあったりしますので、個人投資家のみなさんが情報源の違いを気にする必要はまったくありません。
重要なニュースは、新聞やテレビ、あるいはニュースサイトなどで閲覧できますし、FX会社でも無料で多くのマーケット情報を提供しています。
ただ、問題は言語です。個人投資家のみなさんが全員、英語が流暢に話せたり、読めたりできれば何の問題もありません。というのは、外国為替市場に参加している多くの人たちは、英語で情報を収集しています。
たとえば、イギリスのフィアンシャル・タイムスやアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの紙面で報じられているトップニュースは、投資家にとっては必須の情報ともいえますが、それらはすべて英語でつづられています。
つまり、外国為替市場でトレードを続けていくためには、ある程度の語学力があったほうが情報週においては有利だということです。
そして大事なことは、収集した情報をもとに、どんな投資判断をするかです。プロと個人投資家の違いがあるとしたら、この「投資判断」の部分ではないでしょうか。的確な投資判断を身につけるには、継続的に勉強し、経験を積んでいくしかありません。
ちなみにプロ(外為ディーラー)が重要視している情報源は、ブルームバーグやロイター、フィナンシャル・タイムス、ウォール・ストリート・ジャーナルなどです。
専門家の相場予測
個人投資家のみなさんのなかには、専門家が述べる相場予測に頼っている方も多いのではないでしょうか。
専門家の相場予測に頼るのはNGとは言いませんが、その際に注意すべきことがあります。
それは、専門家がどんな職業あるいは立場の人かということを把握しているかどうかです。
専門家は二つの分野に分けることができます。
為替取引業務に関わっている人であるか、そうではないか、の二つです。
FXも含めて為替取引業務に携わっている専門家は、為替ディーラーやブローカー、企業の財務担当者、またはそれらの職業を経験し、現在は個人投資家として生計を立てている人たちです。
一方、為替取引業務に携わっていない専門家は、アナリストやエコノミスト、ストラテジスト、学者、為替取引情報を収集し、レポートや記事を書いている人たちです。
両者は、為替相場の予測の仕方が両極端に違います。
為替取引業務の専門家は、相場に勝つことが求められています。
理論や知識に乏しくても、相場に対して反応が速い、柔軟性に富んでいる、精神的に強いといった要素が不可欠です。
そして、精度の非常に高い相場予測を行い、その予測が当たれば利益を得ますが、はずれた場合は損失を最小限に抑え、予測の修正を行いながら、常に利益を得ることが求められます。
ですから、彼らは過去に何があったかについては無頓着で、未来について何が起こるかをきめ細かく分析するのが習性となっています。
相場予測の観点も、市場の変化に対応して五感を働かせながら、「いつもと違う点」つまり、過去と現在の「相違点」に着目して相場の予想を立てます。いってみれば、未来志向なのです。
一方、為替取引業務をしないアナリストやエコノミストに求められる能力は、勉強熱心、分析がきめ細かい、物事をよく知っているなどです。
彼らは相場で勝つことを求められていません。その代わり、相場の予測がはずれたら、なぜはずれたのかを理路整然と説明できたり、過去の相場の特徴を細かく分析したレポートを書き上げれば、職を失うことはありません。
そして、彼らの相場予測の特徴は、過去におきたマーケットの特徴と直近のマーケットの似ていることに注目して、相場予測をすることが多いようです。
「現状の相場は、2005年〇月〇日の相場と酷似している、歴史はくりかえす」というような予測をよく見かけます。つまり、彼らは過去と現在の相似点に着目することが多いといえます。
ですから、専門家の予測を判断する場合は、専門家の職業やその背景などを調べて、それぞれの相場予測の特徴を把握し、自分の投資判断の参考にされるといいと思います。
ちなみに、マスコミなどニュースメディアなどに登場する専門家は、エコノミストやテクニカルアナリストなど、相場の分析を専門に行う方が多いようです。そんな専門家の予想に対するスタンスとして、次のようなことに注意をしておくことです。
・専門家の相場見通しは、いつも当たるとは限らない。むしろ、疑ってかかるほうがいいかもしれません。
・専門家は相場予測や市場分析はしますが、実際の為替取引はしたことがない人がほとんどです。なかには、まったく行ったことがない人もいます。
個人投資家のみなさんは、一人の専門家ではなく、複数の専門家が同じことを予測すると、この予測は正しいと思ってしまうかもしれません。
しかし、長い間、投資の世界に身を置いている立場から言うと、それは逆に危機感を覚えます。
それは、複数の専門家が同じ意見ということは、相場の見通しに偏りがみられるということです。
そんな場合は、予想直後に相場が反転するケースが多々あるといいます。
投資の世界には「人の行く道の裏に花の山」という格言があります。
これは、専門家の相場予測が同じか似ていたら、相場はその予測とは逆に動くという言い伝えです。心しておきましょう。
辻秀雄氏のプロフィール
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから