24時間動き続ける為替市場
外国為替市場は、株式取引のような取引所があるわけではありません。そのため、取引は電話回線やインターネットなどを通じて行われているのが一般的です。
しかも、為替市場は平日なら24時間、いつでも、どこでも取引をすることが可能です。土・日はFX会社が取引システムのメンテナンスなど行うため、取引はできません。
外国為替市場は東京だけでなく、世界中にあります。
外国為替市場の1日は次のようになっています。週明けの月曜日から市場はオープンします。1日の最初にオープンするのは、ニュージーランドのウェリントン市場です。夏時間ですと、日本時間の月曜日午前4時頃に始まります。
続いて、オーストラリアのシドニー市場が午前6時頃オープンします。そして、3番めにオープンするのが東京市場です。午前8時頃から始まります。
東京市場が始まった2時間後(午前10時)には、今やアジアの金融センターとなったシンガポール市場や、香港市場が始まります。
午後になって市場がまっさきに開くのは、バーレーン市場とロシア市場です。午後2時頃オープンします。続いてオープンするのは、ドイツのフランクフルト市場、フランスのパリ市場、スイスのチューリッヒ市場です。午後3時頃に始まります。
イギリスのロンドン市場が開くのは午後4時頃です。午後9時頃になると、アメリカのニューヨーク市場がオープンします。そして、NY市場が閉鎖する時間は午前6時頃です。もうその時間帯には、ウェリントン市場がオープンしています。
このように、外国為替市場は時間の経過とともに、市場が移動していくのが特徴の一つです。つまり、「FXが24時間、いつでも、どこでも取引できる」というのは、世界中のどこかで為替市場が開いているからなのです。
オセアニア市場の特徴
前述したように、1日の最初に開くのがウェリントンやシドニーのオセアニア市場です。オセアニア市場で注意しなければならないのは、週明けの月曜日です。
というのは、週末に政治的、経済的な、社会的なイベントが開催された場合、為替レートの影響がもっとも強くなるのは、月曜日の早朝だからです。
そのため、オセアニア市場でレートがどちらに動くかわからない、はっきりしない場合は、持っているポジションを週明けまで保持するのではなく、金曜日に決済をしておいたほうが無難です。
午前4時には市場がオープンして、いきなり急激な下落や給湯があった場合、まだ就寝中であれば、個人投資家として対応することが困難になるからです。ですから、FXトレーダーは、自分のポジションがどうなっているかを、前週の金曜日にチェックをして、確認しておくことが大切になります。
さらに、オセアニア市場の特徴は、市場が開いても流動性が低いことです。流動性が上昇してくるのは、一般的に午前7時から8時頃からです。しかし、流動性が低いといっても、ときに思いがけないレートの変動が起きる場合がありますので、注意が必要です。
東京市場の特徴
東京市場がオープンするのは午前8時頃からです。ニューヨーク市場の流れを引き継いで、トレンドが発生することが多いのですが、レートの動きが小さいのが特徴です。
午前9時になると株式市場がオープンします。株高か株安の状況によっては、小さな値動きですが、トレンドが発生することがあります。
東京市場でトレンドが発生しやすくなるのは、午前9時55分から10時の間です。なぜなら、午前9時55分になると、銀行から「仲値」が公示されます。
仲値とは、銀行の窓口のレートの基準になる相場のことで、対顧客向けの基準レートとなるものです。この仲値は、為替市場でよほどのことが起きない限り、その日1日運用されるレートとなります。
なかでも五十日(ごとうびとは、5日、10日、25日など5に関係する日)は、海外企業への支払いが集中しているので、海外企業へ支払うために、米ドルを買う動きが高まります。そうすると、銀行では米ドルが不足しますから、市場で「米ドル/円」を売って、米ドルを購入しまs。
いきおい、相場は米ドル高円安になりすいわけです。FXトレーダーのなかには、この突起を狙って、「米ドル/円」の買いポジションを持ち、勝負する人も少なくありません。
アジア市場の特徴
国際決済銀行(BIS)の調査によれば、外国為替市場の1日の取引高でもっとも多いのは、ロンドン市場です。ついで、ニューヨーク市場、シンガポール市場、香港市場となり、東京市場は5番目の取引高です。
アジアの為替市場の中心は、今やシンガポールや香港に移ってしまいました。
シンガポール市場や香港市場の特徴は、金融当局による市場介入が他の外国為替市場に比べると多いことです。シンガポール通過庁や香港金融管理局は、為替相場の値動きを安定させるために、「通貨バスケット制」を採用しています。
通貨バスケット制度とは、「複数の通貨を加重平均してつくられた安定的な通貨単位のこと。それに自国通貨の為替(かわせ)相場を連動させる制度を、通貨バスケット制あるいは通貨バスケット・ペッグ制(ペッグとは固定、連動などを意味する)という」ものです。
金融市場が投機筋に狙われたりしたら、すぐさま金融当局が市場に介入し、為替レートの安定に尽力するのです。
さらに、東京市場が休止しているときでも、シンガポール市場や香港市場は稼働していることがあるので、休日や祝日だからといって取引がないから安心だと思って市場から離れていると、痛い目にあうこともあるので、注意が必要です。
ロンドン市場の特徴
外国為替市場のなかで1日の取引高がもっとも多いのがロンドン市場であることは前述しましたが、ロンドン市場で市場参加者がもっとも増えるのは、午後3時から5時までの、東京市場と重なる時間帯です。
なかでも、ロンドンの午後4時(日本時間午前1時)は「ロンドン・フィックス」というフィキシングタイムです。東京市場の仲値と同じで、その日の対顧客取引の基準レートが決まる時間です。この時間には、大口の取引が一気に行われることもあり、レートが大きく変動することが少なくないので、ポジションを持っていると注意を払う必要があります。
ロンドン市場のレートの特徴は、急激に円高になったリ、円安になったりすることで、相場の読みが非常に難しい点です。なかでも、「ポンド/円」の動きは非常に激しくなる時があります。ポンドのポジションを持っている人は気が抜けないこともしばしばです。
現在、ロンドンは世界一の金融センターですが、Brexitの動向によっては、その地位が他に取って代わられる可能性もあります。Brexitの動向には注意が必要です。
ニューヨーク市場の特徴
アメリカは世界一の経済大国であり、米ドルは基軸通貨として非常に流動性が高い通貨です。世界中のFXトーレーダーが米ドルをペアとする通貨ペアの取引をもっとも大きく行っています。
ニューヨーク市場の特徴は、為替取引に影響のある経済指標が集中していることです。夏時間だと午後9時30分、冬時間だと午後10時30分(いずれも日本時間)に雇用統計や小売売上高、消費者物価指数、住宅着工件数などの指標が発表されると、「ユーロ/米ドル」や「米ドル/円」などの主要通貨の動きが活発になります。
経済指標もそうですが、米ドル相場に大きな影響を与えるのは、連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウェル議長や、連邦公開市場委員会(FOMC)の投票嫌悪ある理事たちの発言です。
たとえば、1年に8回、FOMCが開かれた後に行われるFRB議長の記者会見で、政策金利や金融政策の変更が語られたら、市場は即座に反応を示します。
さらに、意外と思われるかもしれませんが、アメリカ大統領の経済政策に関する発言も、米ドルのレート変動に影響を与えます。今ならドナルド・トランプ大統領ですが、彼の発言にもFXトレーダーは注意を向けておく必要があります。
さらに、米ドル相場の中長期的な動きを予想する上で重要なヒントとなるのが、FOMCの議事録の骨子や全文です。そこには、今後の金融政策の動きや雇用を含めて経済状況についてのFOMCならでは分析結果が記されているので、参考になるはずです。
以上が主な世界の為替市場の特徴ですが、FXの専用トレーダーではない限り、個人投資家の多くがFXトレードを行うのは、仕事が終わってからです。そうなると、対象となる市場はロンドン市場やニューヨーク市場となりまし。
また、朝頑張って起きてからなら、ウェリントン市場やシドニー市場が対象となります。それぞれの市場の特徴をよく勉強してから、FXトレードに臨んでほしいと思っています。
辻秀雄氏のプロフィール
ジャーナリスト。リーマンショックに世界が揺れた2008年に、日本で初めて誕生したFX(外国為替証拠金取引)の専門誌、月刊「FX攻略.com」の初代編集長を務める。出版社社員からフリーになり、総合雑誌「月刊宝石」や「ダカーポ」「月刊太陽」「とらばーゆ」などで取材・執筆活動を行う。また、『ビジネスマン戦略戦術講座(全20巻)』などビジネス書の編集にも携わる。著書に『インターネット・スキル』『危ない金融機関の見分け方』『半世紀を経てなお息吹くヤマギシの村』など。共著に『我らチェルノブイリの虜囚』『ドルよ驕るなかれ』『横浜を拓いた男たち』など。辻秀雄氏の詳しいプロフィールは、こちらから