2019年9月以降、内閣府令により、国内のFX各社は「店頭FX取引に係るリスク情報」を開示することが義務付けられました。
なぜこのような情報の開示が義務化されることになったのでしょうか?また、トレーダーはこの情報をどのように読み解けばよいのでしょうか?
本記事では、これらの疑問について、初心者向けに解説していきます。
「店頭FX取引に係るリスク情報」の開示義務化の背景
2008年9月にリーマン・ショックが発生して以降、同様の危機の再発を防ぐために、世界中で金融規制の見直しや強化が進められてきました。
そんな中、FX取引(※1)については、国際的な金融規制の直接の対象になっていなかったことから、国際的な合意に基づく整備が進められていませんでした。
※1:FXの取引には、取引所取引(東京金融取引所が運営する「くりっく365」)と、投資家とFX会社が相対取引を行う店頭FXとがありますが、本記事の「FX取引」とは店頭FXのことを指します。
しかし近年、FX取引市場の規模は大きく拡大しています。
金融庁の資料によると、国内のFX取引市場の規模は2010年度の2,000兆円程度から近年では5,000兆円程度まで拡大しており、建玉(ポジション)の残高で見ても、2010年度の3兆円程度から近年では6兆円程度にまで増加しています。
市場規模の拡大に伴って、FX取引市場が金融市場に与える影響も増大しています。このような状況下でFX業者のリスク管理を規制の対象外のままにしておくことには、大きなリスクがあります。
例えば相場が急激に変動した際に、多大な未収金の発生などによってFX会社の財務状況の悪化や破綻が起きた場合、トレーダーや取引先にも損失を与えてしまう可能性があります。
また、FX取引市場が大きく拡大している今、1社のそのような事象をきっかけにFX業界全体の信用力の低下や取引量の減少などが発生すると、外国為替市場や金融システム全体に与える影響も甚大なものとなりかねません。
このように市場規模の拡大に伴ってFX取引市場においてもリスク管理の重要性が高まってきている背景から、FX業者にリスク管理体制の強化を促す措置として、内閣府令によって「店頭FX取引に係るリスク情報」の開示が求められることとなりました。
どのような情報が開示されるのか
「店頭FX取引に係るリスク情報」として開示することが義務付けられたのは、以下の3つの項目です。
- 未カバー率
- カバー取引の状況
- 平均証拠金率
各項目の内容は、次の例のような形で開示されます。
未カバー率 |
---|
5% |
カバー取引先の格付 | BBB以上 | BBB未満 | 格付なし |
---|---|---|---|
割合 | 70% | 20% | 10% |
平均証拠金率 |
---|
25% |
「店頭FX取引に係るリスク情報」各項目の見方
予備知識:カバー取引とは
各項目の見方を確認する前に、まずは「カバー取引」について理解しておく必要があります。
FX会社の口座を利用してFX取引を行う場合、トレーダーはFX会社を相手に取引することになります。例えばトレーダーが米ドル/円を1万米ドル買うという取引の場合、FX会社側は米ドル/円を1万米ドル売ることになります。
この取引が成立すると、FX会社は米ドル/円の売りポジションを保有したことになりますが、FX会社はこのポジションをそのまま保有しておくわけではありません。そのまま保有しておくと、そのポジションは為替変動の影響にさらされることになり、損失につながる可能性があるからです。
そこでFX会社は、今度はインターバンク市場の金融機関を相手に先ほどの取引と反対の売買を行ってポジションを決済します。つまり、上記の例の場合は、金融機関を相手に米ドル/円を1万米ドル買うことになります。
FX会社が金融機関を相手に行うこのような取引を「カバー取引」と呼び、カバー取引を行う相手として各FX会社が提携している金融機関をカバー取引先といいます。
これを踏まえて、「店頭FX取引に係るリスク情報」の各項目について見ていきましょう。
未カバー率
「未カバー率」は次のような計算式によって算出される値で、そのFX会社におけるカバー取引が行われていないポジションの割合と考えればOKです。
未カバー率 |
---|
5% |
上記の例のように未カバー率が5%となっていた場合、そのFX会社では、カバーされていないポジションが5%存在するということです。
前述のように、カバーされていないポジションは為替変動の影響を受けることになるため、リスク管理上、より多くのポジションがカバーされている方が好ましく、未カバー率は低いほど良いということになります。
カバー取引の状況
「カバー取引の状況」は、どのようなカバー取引先に対して、どれくらいの割合のカバー取引を行っているのかということを示すための項目です。
例を見てみましょう。
カバー取引先の格付 | BBB以上 | BBB未満 | 格付なし |
---|---|---|---|
割合 | 70% | 20% | 10% |
例にある「BBB」は世界最大手の格付機関であるS&Pグローバル・レーティングによる格付区分の一つで、同機関の格付は国内の大手FX会社がカバー取引の状況について開示する際に実際に利用されています。
上記の例だと、この会社では「BBB以上の格付の金融機関を相手に70%、BBB未満の格付の金融機関を相手に20%、格付なしの金融機関を相手に10%のカバー取引を行っている」ということが示されています。
このように「カバー取引の状況」は、格付機関による格付ごとのカバー取引先の割合を開示させることで、そのFX会社のカバー取引の内容がどれくらい安全と言えるかを客観的に判断できるようにするものです。
「カバー取引の状況」を見る際は、より高い格付のカバー取引先でより多くの割合のカバー取引を行っているほど、そのFX会社の安全性は高いと言えます。
本記事執筆時点では、「BBB以上の割合が100%」となっている国内のFX会社も多数存在します。このような会社であれば、カバー取引の状況については、非常に安全性が高いと考えて良いでしょう。
平均証拠金率
「平均証拠金率」は次のような計算式によって算出される値で、そのFX会社における取引額に対して実預託額(トレーダーがFX会社に預け入れている証拠金)がどれくらいあるかを示すものです。
平均証拠金率 |
---|
25% |
上の例の場合、このFX会社では取引額に対して25%の実預託額があるということになります。
平均証拠金率が低いと、FX会社にとって相場の急落時などに多くの未収金が発生するリスクが大きくなります。
また、平均証拠金率はそのFX会社における取引全体のレバレッジのようなものと見ることもでき、平均証拠金率が低いほど高レバレッジの取引が行われていると見なすことができます。
従って平均証拠金率については、値がより高いほどそのFX会社の安全性が高いと判断できます。
「自己資本規制比率」も合わせてチェックしよう
以上が「店頭FX取引に係るリスク情報」を読み解く際のポイントです。
ところで、FX会社が開示する情報には、「店頭FX取引に係るリスク情報」のほかに、従来より開示が義務付けられている「自己資本規制比率」もあります。
自己資本規制比率とは会社の財務状況の健全性を測る指標で、国内のFX会社は120%以上を維持しなければならず、四半期ごとにその値を公表することが義務付けられています。
自己資本規制比率は次のような計算式によって算出されます。
「固定化されていない自己資本」とは、自己資本から固定的な資産を控除した額です。
「リスク相当額」とは、下記のとおり、FX会社において想定される3つのリスクに対応する際のリスク相当額の合計となっています。
「市場リスク」とは、FX会社が保有する有価証券などの資産の価値が価格変動等によって目減りするリスクです。
「取引先リスク」とは、取引先の契約不履行などによって損失が発生するリスクです。
「基礎的リスク」とは、事務処理上のミスなど、日常業務において発生しうるリスクです。
FX会社は日々通貨の売買を繰り返すという性質上、このような想定されるあらゆるリスクに対応できるように、「固定化されていない自己資本」の額をつねに一定以上に維持しておく必要があるとされています。
各種リスク相当額に対して「固定化されていない自己資本」の額がどれくらいあるかを示す指標が、自己資本規制比率です。例えば自己資本規制比率が300%の場合は、そのFX会社ではリスク相当額に対して「固定化されていない自己資本」の額が3倍あり、500%の場合は5倍あるということになります。
自己資本規制比率は、そのFX会社に各種リスクに対応できるだけの支払い能力があるかどうかを示すものであるとも言え、値が高いほどそのFX会社の財務状況は健全で、安全であると言えます。
FX会社選びの際には、「店頭FX取引に係るリスク情報」と合わせて、自己資本規制比率にも注目してみましょう。
安心・安全に関する情報をFX会社選びに活用しよう!
以上のように、国内のFX会社は「自己資本規制比率」や「店頭FX取引に係るリスク情報」といった安心・安全に関する情報を開示しています。
これらの情報は各社の公式HPに掲載されているほか、本サイトでも各社が開示した情報を随時更新しています。
FXを始める際にはぜひこれらの情報を有効に活用して、安心・安全なFX会社選びに役立てましょう。